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実は私が開発に携わっていたゲーム『闘争のロストグリモア』では、プレイヤーは地水火風光闇の6属性を扱うことができるのでした。
多分、私が6つも属性をもっているのはそのせいでしょう。
……まあたくさんの魔術が使えるのはいいことですよね?
私たちは宿に戻って、魔術の勉強の続きを始めます。
「さて、実際に魔術を教えて欲しいのですが、何から教えてくれますか?」
「属性については何か釈明はありませんか」
「釈明? まるで何か悪いことをしたような言い方ですね」
「6つの属性があると聞いた時になにか納得したような雰囲気を感じました。心当たりがあるのでは?」
鋭いですね。
しかしこの世界にVRMMOどころかコンピューターゲームの気配はありません。
正確に説明するのは困難でしょう。
「ええと……つまり【デバッグツール】絡みですよ。あのスキルのせいで6つも属性を得られたと納得したんです。事前には気づいていませんでしたから、あれは事故のようなものですよ」
「つくづくどういうスキルなのか……」
リナリーが頭を抱えて「ひとつのスキルにあまりにも要素が多すぎて理解しがたい」と漏らします。
「説明するのは難しいですね。この世界にはない道具によるものです。ともかく私は6つの属性を使えるという結果だけで、魔術を教わるに十分な情報は得られたのでしょう? さあ早速、教えてください」
「……そうですね。ですが敢えて言っておきますが、多数の属性をもつ人物は歴史に名を残します。サトミさんもそうなることを期待されるでしょうし、魔術師ギルドはなんとか取り込もうと躍起になるでしょう。そして……他国もこれを放置しません」
「え、そんな大事ですか……。ということはロスマン王国もですか?」
「あの国はスタンピードの最中にあるので、対応は遅れるでしょうけれど間違いなく接触を持とうとしてくるはずです。その時に召喚の場にいた誰かが同行していてもおかしくはありません」
むむ、それは面倒なことになりそうです。
「なるほど、魔術師ギルドで属性を調べたのは軽率でしたかね」
「正直、今となってはそうです。しかし事前には分からなかったのでしょう? ……事故です。仕方のないことです。前向きに魔術を習得してもらいましょう」
「はい、よろしくお願いしますリナリー先生」
「急に先生呼びですか……まあいいですけど。さてまずは属性について説明をしておきましょう。この世界には9つの属性が存在します。地水火風の下位属性、炎氷雷の中位属性、光闇の上位属性です」
「中位属性がすっぽり抜けてるんですね、私は」
「そうですね。ですが普通は3つ属性があることが珍しいので、あまり気になりません」
「ところで火属性と炎属性は何が違うんですか?」
「ああ、基本的な質問ですね。火属性は何もないところに火をつける魔術です。矢のような形にして飛ばすことなどもできますが、基本的に火に過ぎません。しかし炎属性は異なる要素を付加することができます。普通の火とは違い、例えばアンデッドによく効く浄化の炎、体力を回復させる炎など、普通の火では起き得ない現象を可能にするのが炎属性です」
「なるほど。特殊な火属性、というわけですか」
「はい。炎属性は下位属性である火属性でできることが大概、可能です。何も付加せず火を起こすことができますので」
「……火属性の立場がないように思えますが」
「普通の人間族ならば、火属性があれば火をつけるのに便利ですし、攻撃魔術も豊富なので気にするようなことはありません。炎属性を得られた者は幸運だと思うだけです」
「その幸運に浴したのがリナリーというわけですね」
「…………なぜ私の属性を? ネズミの尻尾を焼いたときには私は火属性とも炎属性とも言っていませんでしたが」
「すみません。【デバッグツール】は他人のステータスも参照できるんです」
リナリーは今度こそ頭を抱えてベッドに突っ伏しました。
「他人のステータスが見える? いえ確かにそういうスキルもありますけど。ひとつのスキルでなんでも出来過ぎじゃないですか……本当にもう」
「そういう強いチカラを求めて召喚したのでしょう? だから私のスキルが強力なのは仕方のないことですよ」
とはいえまだまだ機能は盛り沢山です。
有用だけど使っていない機能も多いこと。
「分かりました。……ひとまずサトミさんのスキルのことは忘れて、魔術の基礎からやりましょう」
「ありがとうございます」
かくして私はリナリーから魔術とはなんぞやという子供でも知っているような基礎の基礎から教わることになりました。