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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
レダ・サイベリウム

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 第二十三階層はいわゆる恐竜フロアでした。

 地球では草食だと考えられていた恐竜もなぜか、魔物としての義務だと言わんばかりに襲いかかってきます。


 ……納得いかぬ。


 ともかく巨体で火こそ吹かないものの、外見が似ていることから亜竜の一種だとされているようです。

 さてそんな恐竜ですが、私たちパーティにとっては与しやすい相手です。


 ただのパワー自慢なら、速度で翻弄すればいいだけですからね。


 パワー重視のくせに敏捷2倍の革鎧のお陰で最も速い私、もとからスピートタイプのエステルとキャシー。

 スピードファイターばかりなので、後衛の拘束魔術があれば苦戦する理由はありません。

 もしかして第二十一階層や第十八階層の方が難易度、高かったりしませんか?


「そんなわけないだろう。多少の相性差でこの階層がアンタたちにマッチしているだけであって、本来なら順当に苦戦しているところだよ」


「ほほう、ということはレダさんのところは順当に難易度が上がっているという印象なんですか?」


「当然だろう。アンタたちみたいに武器術がないし、デカいだけあってタフだろう? 殺し切るのに時間もかかる。正直、バッサバッサと斬っていくアンタたちの方が異常なんだからさ。覚えておいてくれよ?」


「お、おう。そんなに非常識なことしてましたか……」


 どうやらこの階層が楽になっているのはパーティの得意分野がガッチリと嵌ったからだそうです。

 言われてみれば、フットワークを重視しての攻撃、特に装甲無視系の武器術は硬い表皮を難なく切り裂いています。

 そこに拘束魔術である〈アクア・ジェイル〉が決まり、リナリーがテキトーに戦線から外れている個体に対して〈ヒートアップ〉で昏倒させたりと、まあやりたい放題ですね。


 地図が完成したので、借家に戻って食事をシロガネに用意してもらい、再び第十九階層に戻ってきました。

 休憩場所として使うことを想定していないということで、隠し部屋の外での野営となりました。

 なお借家に泊めてくれ、とはレダさんのパーティからは一言もありません。

 レダさん、どうやら女5人の住居に3人の男を入れるつもりはないようです。


 ……いや、ほんとありがたいですね。


 シルキーのシロガネやキンググリーングミのヒスイを見られると何を言われるか分かりません。


「こうして温かい食事がとれるのも全部、サトミのお陰だ。第十九階層からなら、日帰りで第二十四階層も行けるしね」


「でもレダさんたちが未だに踏破していない第二十四階層でしょう? 私たちがお荷物にならなければいいのですが」


「おいおい、謙遜のし過ぎは嫌味だぞ、サトミ。アンタたちは強いよ。それこそ今の段階で私たちと互角だろう。そのアンタたちを加えて、第二十四階層に挑めるんだ。今までは人手不足だったが、今回は余裕すらあるからね、本当にありがとう」


「急にお礼を言わなくてもいいじゃないですか。それに人手だったら、後輩から何人か有望そうなのを引き抜くとか……」


「引き抜きはしたくないねえ。でもそれ以上に、アタシらについてこれる奴がいないんだよ、現状ね」


 全員が武器と魔術を使うオールラウンダーな精鋭集団です。

 そうそう補充要員なんて見つからないでしょう。


「そんなわけで、今回の合同探索は期待しているよ」


 レダさんは言って満足したのか、食器を片付けてから毛布をかぶって横になります。


 第二十四階層……レダさんたちを苦しめる階層に降りるのは今でも不安ですが、まあ当人たちもいることですし、いざとなれば逃げればいいでしょう。


     ◆


 空を行くは巨大なロック鳥です。

 全長は10m以上は下らない大きさで、遠近感が狂いますね。


 地上はイエティという白い毛皮で全身が覆われた身長5メートルくらいの巨大な魔物です。

 チカラ自慢で、かと言ってスピードがないわけではなく、間断なく爪を繰り出してきます。

 また氷属性の魔法を操り、自分の周囲に吹雪を発生させることができるので厄介です。


 強力な酸で武器を溶かすブロブの亜種であるレッドブロブも厄介です。

 ブロブより一回り大きく、少しだけ素早くなったレッドブロブは、なんと跳躍によりいきなり接近してくるという意外な動きで私たちを翻弄します。


 マンモスと言えばそれだけで伝わるのではないでしょうか。

 巨大な牙と巨体を兼ね備えたタフな魔物です。


 何がキツいって、この第二十四階層はフロア全体が寒冷地となっていることです。

 雪がちらつき、長居すればするほど体温を奪っていく……そんな嫌らしい階層でした。


 ……なるほど、レダさんたちが苦戦するわけですよ。


 リナリーが〈ヒートアップ〉で熱した石を布でくるんで、簡易カイロにして携帯します。

 レダさんたちには炎属性の持ち主がいないので、このような寒さ対策が取れないのも苦戦の原因のひとつでしょう。


 あとは、単に魔物が強いということでしょうか。


 空を飛ぶ巨大なロック鳥はマンモスと同様に巨大ゆえにタフネスに優れており、多少の傷を与えたところでピンピンしています。

 イエティの周囲は魔法の吹雪が渦巻き、容易に近づくことすらままなりません。

 そんな中で武器を溶かすレッドブロブが変則的な跳躍でいきなり接近してくるのですから、厄介なことこの上ない階層です。


 もちろん、私たちのパーティならば対応は可能ですが。


 遠距離に攻撃できる武器術、硬い毛皮などを無視して切り裂く武器術、炎属性のスペシャリストであるリナリー。

 水属性がいまひとつ効果を発揮しないこの階層では、ギルマは〈ブラインドネス〉で視界を封じる役割を担います。


 特にリナリーは〈ヒートアップ〉で手加減する必要がなくなったとでも言わんばかりに〈フレイム・アロー〉を連射しています。

 実際、炎属性が弱点でもあるのか、この階層の魔物を簡単に討ち取っていく様は圧巻です。


 レダさんたちも頑張って戦っていますが、どうも彼女たちとこの階層では相性が悪いようですね。


 マップは埋めていませんが、第二十五階層への階段を発見しました。

 これでレダさんたちもこの階層を突っ切って第二十五階層の探索に着手できるようになったわけです。


 ……ですが、そのようなことは織り込み済みだったようですね。


「なあサトミ。第二十五階層、一緒に探索しないかい?」


「ちょっと待ってください。合同探索の目的は第二十四階層までの地図作成ではありませんでしたか? 第二十五階層の探索は約束にありませんよ」


「やっぱりそうなるか。でも戦力が充実しているうちに遭遇する魔物の傾向などは掴んでおきたいってのがアタシの本音でね。この寒冷地となった階層のように、第二十五階層も何らかの変化があると見ている。どのみち、アタシらだけじゃ第二十五階層を探索するのは容易じゃないんだよ」


「しかしですね……」


「分かっている。アンタらの強さを当てにさせて貰って悪いけど、第二十四階層をヘトヘトになって抜けた先で、まともな探索ができるとも思えないんだよ。第十九階層を拠点にしての探索なんて贅沢、今回を除けばもう機会もないしね」


「……言いたいことは分かります」


「それとも自分たちだけで第二十五階層以降を探索したいってんなら、アタシたちも引き下がるけど……」


 独占する気は起こりませんが、しかし第二十五階層以降も私たちは探索を続けることでしょう。

 傭兵よりもよほど稼げる探索者の仕事は、私たちにとってうってつけなのですから。


「いえ、分かりました。どのみち第二十五階層については調べなければならないのですから、こちらとしてもレダさんたちがいる間に遭遇する魔物を特定しておいた方が効率がいいでしょう」


「そうかい! アンタならそう言ってくれると思っていたよ」


 損得勘定を考えれば、レダさんたちがいる間に第二十五階層の探索を進めておいた方がお得なのは明白です。

 私たちは確かに強いですが、レベルと探索経験においてはレダさんたちのパーティの方がよほど優れています。

 ここで頼りになる味方を外してまで、単独での探索に拘る理由はありません。


 ……もう既に色々とバレているので、躊躇する理由もかなり減りましたからね。


 早速、第二十五階層への階段を降りようとした時、レダさんのパーティの斥候を務めるデイルさんが首を傾げながら「なんだか変な気配がする」と不吉なことを言いました。

 キャシーも「ボクの方でも確かに何か蠢いているというか……いつもの階層と違いそうだと感覚が告げているよ」と言います。


 斥候が揃って警告を発していますが、一体何があるというのでしょう?

 私とレダさんは顔を見合わせますが、レダさんが「こっからは誰も入ったことのない未知の階層だ、何が出てきてもおかしくはないさ」と言って階段に足を踏み入れました。

 私もそれに続きます。


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