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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
レダ・サイベリウム

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 翌日はよく晴れた日でした。

 レダさんたちは先に探索者ギルドにやってきていて、私たちを待っていてくれました。


「よし、先にダンジョンに入るよ。お互いの自己紹介は浅い階層を歩きながら済ませよう」


「分かりました」


 実のところ、レダさんたちのステータスはオブジェクト探査で知っていたので、予め全員に伝えてあります。

 とはいえレダさん本人のステータスについては一部、言っていいか分からない情報が含まれていたので、そこだけは伏せさせてもらいましたが。


 タグを受付に提出して、ダンジョンに入ります。


 第一階層はいつも階段ルートを避けて座標遷移していたので、こうして階段を目指して歩くのは新鮮ですね。

 私たちのレベルの高さを察知しているのか、魔物がまったく寄ってきません。


「さて、アタシたちから自己紹介しとこうか。まずはアタシ、今のところこの街で唯一のAランク探索者パーティのリーダーのレダ・サイベリウムだ。得物は見ての通り【戦斧】と【大盾】さ。属性は風と氷。あと呪歌が使えるね」


 レダさんはレベル58の猛者です。

 筋力が最も高く、次いで精神が高い魔法戦士ですね。


「呪歌というと、魔法の歌ですよね?」


「そうさ。アタシはこう見えて人魚族だからね」


 その言葉にウチのパーティメンバーは瞠目します。

 あ、普通に秘密じゃなかったんですね。


 4人が私のことを見るので、レダさんも「アンタは気づいていたのかい?」と訝しげな表情で見下されました。


「種族を看破するのは得意なもので」


「へえ。こんなに腕の太い人魚族はアタシくらいなものだけどねえ。参考までにどこで見分けたんだい?」


 そんなこと聞かないでくださいよ、オブジェクト探査でステータスを見たからなんて言えませんよ!


「ええと、その美貌?」


「なるほど。人魚族は美人ぞろいだしねえ。まあそういうことにしておくよ」


 信用されてませんねえ……。


「次は俺かな。俺の名はソル・カイト。武器は【刺突剣】で、属性は火と水と雷だ。よろしくな」


 メガネをかけたオールバックの長身の剣士です。

 敏捷が最も高くて、次いで精神が高い魔法剣士ですね。


 そして次の方はレダさんとソルさんよりも長身で、横幅もある巨躯を誇る戦士でした。


「俺はダイナ・ハットマン。武器は【長槍】で、属性は雷と光だ。よろしく頼む」


 ダイナさんは精神が最も高くて、次に筋力が高い魔法戦士です。


 そして最後のメンバーは私たち女性陣と変わらない小柄な身長の持ち主です。


「俺はデイル・フッターだよ。武器は【短弓】、属性は風と土と闇。このパーティだと斥候をやってるから、よろしくね」


 デイルさんは感知が最も高くて、次に敏捷が高い斥候ですが、精神も割りと高めで魔術を得意としています。


 つまりレダさんのパーティは4人全員が武器戦闘と魔術を使うオールラウンダーなわけですね。

 全員がレベル50以上という精鋭揃いでもあります。


「じゃあこっちの番ですね。私はサトミ。武器は【剛剣】で、魔術は光と闇です。パーティリーダーをやっています」


「【剛剣】? 普通の剣じゃないか……もっと分厚い重い剣を使わないと、スキルの効果がもったいないんじゃないのかい」


「そうなんですか? 使う武器でそこまで変わるものなんですかね」


「……アンタたち、訓練場に来ないからアタシたちが指導する機会もなかったからねえ。そういう知識が抜けているところがあるんじゃないかい? それで第二十階層まで来てるんだから凄いと言えば凄いんだけどさ」


「はは……今度、武器屋を覗いてきます」


 なるほど、重い剣を持つと強くなるとは知りませんでしたね。


 他の4人もそれぞれ自己紹介をしていきます。

 当然、ギルマは種族について触れませんし、【神託】を持っていることも言いませんでした。

 エステルも神殿騎士の身分は隠し、ただの傭兵だという口ぶりです。

 もちろんリナリーはただの魔術師です。

 キャシーくらいでしょうか、秘密がないので自己紹介に気を使わなくて良いのは。


「聞いている限り、普通のパーティだね。一体なにを隠しているやら」


 レダさんは半目で私たちを見渡します。

 確かに少し、普通すぎましたね。


 とはいえこの合同探索で実力を見せるつもりはありません。

 みんなでほどほどに手を抜いていくつもりです。


 魔術をすべて見せないのは当然として、使える武器術も2種類までに制限しています。

 もちろん危険な状況なら「奥の手」と言い張って出しますけどね?


 遭遇する魔物を蹴散らしながら、第八階層までノンストップでやって来ました。

 久々にあるきましたが、やっぱり時間の無駄ですね。


「よし、じゃあここらで野営にしようか」


「はい。分かりました」


 私はインベントリから野営用の簡易テントを取り出し、鍋と薪を用意します。

 それを見たレダさんが口をあんぐりと開けて「まさかダンジョン内で煮炊きするつもりかい」と言いました。


「え、何かマズかったですか?」


「魔物が寄ってくるだろう」


 ……そうなんですか?


 私は仲間たちを見渡しましたが、実際に野営などしたことないので誰も分かりません。

 うわあ、大失敗ですよ。


「いや、ささっとやりますから。寄ってくる魔物も、この程度の階層なら雑魚ばかりですし」


「まあ、確かにそうかもしれないけどね。死体の処理とかを考えるとやっぱり――」


 最後まで言うことなく、レダさんはこちらにグイっと顔を近づけて言いました。


「まさかアンタ、転移魔術が使えるんじゃないだろうね?」


 うわあ、勘がいいってレベルじゃない!?

 私の反応の何を読み取ったのか、レダさんはひとり納得したように肩をすくめました。


「なるほどねえ……そりゃ特大の秘密だ。大方、野営なんてせずにダンジョンと宿とを行き来できるんだろう? そりゃ鍋もテントも取り出すわけだ」


 テントもどうやら、駄目だったようですよ?


「……まったく。飛べる先はどこだい? いいからお姉さんに言ってごらん。悪いようにはしないよ」


「ええと……第九階層と第十九階層と借家です」


「そうか、宿じゃなくて借家か。女5人ならその方が便利だし……それで転移までできるなら言うことなしだね」


「えへへ」


「まったく……じゃあ野営はアタシたちで教えるよ。まず魔物がひっきりなしに来るからテントは駄目だ。毛布だけにしときな。それから煮炊きも言ったように魔物が来るから駄目。亜空間収納が使えるなら食べ物も保存食に限らないだろ?」


「はい。実は色々と入っています」


「やれやれ……今日はここで野営を体験して、明日は第十九階層まで転移させてもらおうか」


 いやはや、早速ボロがでましたねえ。

 座標遷移がバレたのは痛いです。

 ルームイミテーターを使った隠し部屋の存在なんて見せたくなかったんですが……。


 幸いなことに従魔になったルームイミテーターは命じれば口を開いたりしませんから、ただの部屋だと思われるだけでしょうけど。


 しかしこの調子だと、また色々とバレそうですね……。


     ◆


 一旦、借家に戻ってシロガネの作った料理を振る舞ったら、レダさんたちに大好評でした。

 夜は交代で見張りをするという、これぞダンジョン内での野営という経験をしましたよ。


 ……しっかり休めなくて辛いですね。


 翌日はなんとも疲れが残ったままでの探索になります。

 普通の探索者はこれを経験しながら、深い階層を目指すのだから偉いですね。

 私たちはもう、座標遷移なしでは探索できない身体になってしまいました。


「さて。サトミ、第十九階層まで頼むよ」


「はいレダさん。じゃあ全員、忘れ物はないですか? ここには転移で戻ってこれませんから、そのつもりでいてくださいね」


 座標遷移で第十九階層のルームイミテーターの部屋に飛びます。


「…………ここはどこだい?」


「第十九階層に作った隠し部屋です」


「作った? ダンジョン内に部屋を作っちまったってのかい!? ハハハ、そりゃ想像以上だわ。アンタ凄いよ」


「お褒めに預かり光栄です。魔力1を捧げる。出口を作れ〈トンネル〉」


 壁の一部に穴を開けます。

 ルームイミテーターは空気を読んだのか何も反応しません。


「とりあえず先に出てくださいね」


「その前にひとついいかい」


「なんでしょう?」


「アンタ、土属性も使えるんだね」


「あっ」


 しまった、属性は光と闇だと自己紹介で言ってしまいました。


「い、いやあ。そういうこともありますよ」


「まあいいさ。属性ひとつくらい。この転移に比べたら些細なことだよ」


 まずレダさん部屋を出て、そしてソル、ダイナ・デイルが続きます。

 私はこっそりブロック肉をルームイミテーターに与えると、私たちパーティも外に出て〈トンネル〉を解除しました。


「見かけない場所だね。地図ではどこにあたるんだい」


「ここよ。階段同士を結ぶ道から外れた場所になるわ」


 ギルマが地図を指し示しました。

 しかしここに〈トンネル〉を使われて休憩部屋にでもされようものなら、ルームイミテーターが魔物だとバレてしまいます。


「一応、言っておきますけどここは転移先の部屋です。勝手に入ったりしても私たちには分かりませんが、転移してきたときに居たら上書きされて死ぬと思うので、入らないでくださいね」


「……そいつはおっかないね。分かった、この部屋のことは忘れるよ」


「そうしてください」


 メガネのソルさんが「それにしてもダンジョン内に部屋を維持するのはどうやっているんだい?」と質問してきました。


「〈トンネル〉で部屋を作ってもダンジョンに埋められてしまうだろう? 物品の類もダンジョンに喰われて消えてしまうはずだ」


「具体的には秘密です。敢えて言うなら私のスキルですが、そのスキルは私以外に持っている人がいないような希少なものなので、いくら考えても実現可能な方法は分からないと思います」


「ふむ、それは残念だ」


 スキルについてはさすがに聞いてきませんでした。

 ダンジョンに部屋を作り出すようなスキル……きっと内心では興味津々でしょうに。

 その辺りはマナーというか、しつこく聞かないようにするとレダさんたちで事前に話し合ったりしているのでしょう。


 さて、第十九階層ともなると戦闘も片手間というわけにはいきません。

 いつもより人数が増えている分、楽勝ではあるんですけどね。


「我が魔力7を捧げる。捕らえろ水の檻〈アクア・ジェイル〉」


 ギルマの〈アクア・ジェイル〉は青晶石を使わずに撃っています。

 毎回のように晶石を消費して魔術を使っているところを見られたら、どこから入手しているのかと問われるのが目に見えていますからね。

 あれもこれも「秘密です」で通すには、ちょっと無理があります。


「〈斬鉄剣〉!」


「〈延伸槍〉!」


「〈光線矢〉!」


 私とエステル、そしてキャシーの武器術で魔物を仕留めます。

 レダさんのパーティには武器術の使い手はいないので、羨望の眼差しがキツいですね。


「アンタたち、揃って武器術なんて使えるのかい。誰かに師事しなきゃ覚えられないだろう? 本当に何者なんだか……」


 レダさんも私たちの無茶苦茶ぶりにそろそろ呆れ顔です。

 〈ストレージ〉と〈テレポート〉が一般的に禁呪指定されているのも大きいですね。

 普通は光属性と闇属性を併せ持ったヒトというのは、国に召し抱えられるものだそうです。

 だから私のように傭兵や探索者では〈ディメンション・プリズン〉のような魔術しか使えないのですが。


 これもしかしたら、リナリーではなく私が出奔した宮廷魔術師かなにかだと思われているかもしれませんね。


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