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魔術のスクロールならば外側の装丁に手を当てて〈インストール〉と魔術名を唱えれば習得できます。
では武器術を習得できる秘伝書の場合は?
同じでいいのか、それとも別のキーワードが必要なのか。
私はまったく考えてもいませんでしたよ。
借家に戻り、着替えてから秘伝書の解読を行うことにしました。
秘伝書を紐解くと、中身は魔術のスクロールに似た形式で記述されていることが分かりました。
リナリーでも分からない構文や単語が多くて、完全には内容が分かりません。
しかし習得方法はなんとか解読できました。
「〈秘伝継承〉〈斬鉄剣〉」
私のステータスに武器術、〈斬鉄剣〉が追加されました。
これは剣専用の武器術らしいですね。
効果は相手の装甲を無視して切り裂くというものです。
まさに欲しかった武器術ですね。
「サトミ。確かに武器術は入手できたが、剣の武器術だけか?」
「いえ。マシンソルジャーには様々なタイプがいて、扱う武器がそれぞれ異なるんです。だから槍を持った奴や、短剣を持った奴、そして弓を持った奴と各種揃っていますよ」
「なるほど。つまりそれらを合体していけば……」
「ええ。剣以外にも武器術の秘伝書が集まるはずです」
「それは戦力アップにちょうどいいな」
エステルが新たな武器術に心躍らせている中、リナリーも「サンプルが多ければ構文や単語の意味が解読できるかもしれません」と研究意欲を出しています。
オリジナルの武器術を作ることのできる日もいずれ来そうですね。
私たちは借家でシロガネの食事を摂って休息した後、第九階層に戻ってきました。
槍・短剣・弓のマシンキャプテンを狩るためです。
……ついでに〈斬鉄剣〉の威力も確かめましょう。
槍のマシンキャプテンを合体して生み出した後は、お決まりの手順です。
ギルマの〈アクア・ジェイル〉で動きを止め、リナリーの〈ヒートアップ〉で熱暴走を誘発し、私とエステルで攻撃します。
今回は〈斬鉄剣〉を試しましたが、これがものの見事に素晴らしい切れ味を発揮して、エステルが離脱する間もなく自爆させてしまいました。
「……酷い目にあった」
「ごめんなさい。まさかあそこまでバッサリいくとは思わず……」
ギルマの〈ヒール・ウォーター〉で火傷と怪我を治している間に、ドロップした巻物をオブジェクト探査で調べます。
「ええと、〈投穿槍〉の秘伝書ですね」
「聞いたことのない武器術だ」
エステルが首を傾げます。
とはいえ習得方法は分かっているので、エステルは早速「〈秘伝継承〉〈投穿槍〉」と唱えました。
「……ふむ? これは便利そうだぞ」
「どういう武器術ですか?」
「手持ちの槍を投げつけるのだが、その後、勝手に手元に戻ってくるらしい。威力もただ突くよりも大きいらしいから、ワイバーンに対応できそうだ」
「なるほど、便利ですね」
スクロールは一旦、インベントリに仕舞います。
リナリーが物欲しげな目で見ていましたが、解読は帰ってからにしましょう。
「じゃあ次は短剣か弓ですね。ひとまず短剣から行きましょうか」
「頼むよ。ボクも遂に武器術が使えるのか……楽しみだなあ」
そんなわけで短剣の武器術〈幻影閃〉と弓の武器術〈光線矢〉の秘伝書を入手し、それぞれキャシーが習得しました。
〈幻影閃〉は私の〈斬鉄剣〉と同様に相手の装甲を無視するうえ、実態のないシェイドなどにもダメージを与えられる便利な武器術です。
〈光線矢〉は放った矢が光属性の魔法ダメージに変換されるというエクスカリバーのような性質の武器術です。
これもある意味で装甲無視なので、アイアンゴーレム対策にもなりますし、ワイバーンにより多くのダメージを与えられることでしょう。
さて一通りの武器術を手に入れましたが、マシンキャプテンは多くの技を持っています。
少なくともレアドロップで別の秘伝書を落とす可能性は高く、もしかしたら通常ドロップも複数種類の武器術がある可能性もあるのではないかと見ています。
なので試しに剣のマシンキャプテンを倒すことにしました。
結果、想像通り〈閃空刃〉という剣閃を飛ばす武器術の秘伝書をドロップしましたよ!
これがレアドロップでなければ、マシンキャプテンはその技の数だけ秘伝書をドロップすることになります。
「これは大量の武器術を入手できそうだな」
「毎回、自爆するのは勘弁して欲しいですけどね……」
私はいつもトドメを刺しに行くので、服はボロボロ、髪もボサボサになっています。
〈クレンリネス〉で髪を整えていると、キャシーが「ヤバい、誰か来る!」と警告を発しました。
自爆の音を聞きつけた探索者が何事かと見に来たのでしょう。
ただし、やって来たのは顔見知りでした。
「あれ? アンタたち、こんなとこで何をしているんだい」
レダさん率いるAランク探索者パーティです。
◆
レダさんはぐるりと小部屋の中を見渡すと、私がボロボロになっているのを見て首を傾げます。
「第九階層でアンタたちが苦戦するような相手はいないだろう。ここで何をしていた?」
「ちょっとした実験ですよ、レダさん」
「実験ねえ……それはサトミをボロボロにしなきゃできないもんなのかい」
「ええ。実はそこだけがネックなんですけど、解決するいい方法がなかなかなくてですね」
「手伝ってやろうか、その実験とやら」
「いえいえ。レダさんのお手を煩わせるわけにはいきません。それに私のスキルに関する実験なので、正直なところご遠慮願いたいというのが本心です」
「おやまあ、ぶっちゃけたね。そういうことならアタシも首つっこむほど野暮じゃないよ。ただ結構、派手な音させてたから、気をつけな」
「はい、気をつけます」
「こっちはアンタたちが第二十階層に降りるの待っているんだから、とっとと降りてきな」
「はい。この実験が一段落したら降りられると思います」
この言葉にレダさん以外のAランク探索者たちが目を丸くしますが、「降りるだけならいつでもできるってことだね。じゃあ実験が早く終ることを祈っておくよ」と言って踵を返しました。
レダさんの仲間たちは慌てて後を追います。
「……いやあ、見られてませんよね?」
「気配はちゃんと察知したし、向こうも近づく気配を断っていないから確実だと思うよ」
キャシーの言葉に安堵します。
しかしレダさん、やけに私たちのことを買ってくれてますね。
「自爆対策……ではないですけど、拘束したマシンキャプテンをキャシーの弓で仕留めるというのはどうでしょう。〈光線矢〉なら装甲無視して貫通できるでのでは?」
「ああ、ボクもそれ言おうかと思ってたところ。毎回、サトミがボロボロになる必要はないよね」
「気づいていたなら早く言ってくださいよ……」
ちょっとした闖入者がいた以外は、順調に秘伝書集めができました。




