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その日の夜。
私はリビングで「ふたりだけで話がしたい」とリナリー以外を部屋に帰しました。
3人は首を傾げていましたが、リナリーは思い当たることでもあったのでしょう。
少しだけ悲しそうな顔で、ソファに座って私の言葉を待っています。
「リナリー。私の話がなんだか分かっている感じですか?」
「……奴隷の件でしょうか」
「正解です。こうして仲間も集まって、迷宮を探索して稼げるようになって、……多分、私はこの世界で生きていく分にはなんとかなると思っています」
「そうですね。奥の手を含めて強さがあり、手段を選ばなければお金に困ることもないでしょう」
「そこでリナリー。当初は私がこの世界に順応したら奴隷から解放するという話でしたが、……ちょっと変えてもいいですか?」
「……どのように変えますか?」
「もしリナリーが奴隷から解放されてロスマン王国へ戻りたいなら、奴隷から解放します。でももしも、このまま私たちと一緒に傭兵や探索者を続けてくれるなら、カタリナ・リィンではなくリナリーとして一緒にいてくれるなら……奴隷の解放も奴隷のままでいることもあなたが決めてください」
「……良かった」
「良かった?」
「ええ。まさかここに来てサトミさんからもう要らない、なんて言われなくて良かったです。私、まだサトミさんには魔術を教えていたいですし、このパーティに居続けたいと思っているんです。実は堅苦しい宮廷なんかより、今の方が自由で楽しい日々を送っているんですよ?」
目の端に涙を浮かべて、リナリーが言いました。
「そうですか……。実は私もリナリーが手放せなくなってしまいました。魔術に関して誰より詳しくて。頼りになる後衛なもので。きっとリナリーの代わりになる人材はどれだけ探しても見つからないと思うんですよ」
「当然です。私の代わりなんてこの世に何人もいませんよ。そしてサトミさんのように6属性をもったヒトも、この時代には他にいないでしょう」
「ああー……リナリーとしてはそこがポイント高いんですね?」
「ええ、実は複合魔術の可能性についての探求と、サトミさんの魔術開発能力の高さには期待しているんです。宮廷にいるよりはるかに有意義な研究ができそうなもので」
「……なるほど。確かに、お互い変えがききませんね」
「ええ。なので奴隷からの解放はしないでください。困ります」
「あれ? 解放された上で一緒にいてくれるという選択肢もあるのでは?」
「嫌です。私はサトミさん唯一の奴隷という立場を手放したくありません。いつでもなんでも、私に命令してください。だって……奴隷から解放されたら、いつかどこかで離れ離れになってしまいそうで不安になりますよ、私きっと」
「そう、ですか……。分かりました。それじゃあリナリーはこれからも私の傍から離しませんから」
「はい。これからも宜しくお願いします、サトミさん」
こうしてリナリーは正式に私の奴隷を続けることになりました。




