04
「旅の剣士と魔法使いか。傭兵ギルドには登録はないのか?」
「まだこれからするところです。故郷を発って日が浅いものですから」
「そうかい。じゃあ街に入ったら早めにギルドに登録しておいてくれよ」
街に入るのに、特にお金を取られたりはしないようです。
カタリナはキョドキョドと周囲を見渡して、小声で「ここはロスマン王国ではないのでは?」と私に問います。
「そうですよ。名前は知りませんが、あの場所からかなり離れたところへ飛びましたから」
「そんな……それほどの長距離転移魔術を使えるだなんて……」
魔術じゃなくて【デバッグツール】の機能なんですが、まあいいや、誤解させておきましょう。
ちなみに私は鉄の剣に剣技スキル熟練度上昇+200%をつけた一見すると普通の剣と、格闘スキル熟練度上昇+200%をつけた革手袋、そして敏捷が2倍になる革鎧を身に着けています。
服もこの世界で違和感のないものを【デバッグツール】で生成しました。
【デバッグツール】で生成できるのはエネミーだけではなくアイテムも可能で、任意のオプションを付加したものを作成することができます。
とはいえ万能というわけではありません。
あくまで【デバッグツール】でできるのは、私が関わっていた開発中だったゲーム『闘争のロストグリモア』でできること、という制限があります。
そのため武器に付与できる効果もゲーム中に存在するものしか用意できませんでした。
さて傭兵ギルドは街から入ってすぐの場所にあると衛兵さんから聞いていたので、迷うことなくまっすぐ建物に入ります。
「そうだカタリナさん、偽名で登録ってできますか? もしできるならカタリナ・リィンではなく別に偽名を考えてください」
「名前の登録は偽名や二つ名のようなものでも構わないはずです。私が偽名にする必要はなぜでしょう?」
「この世界に慣れたら、あなたを奴隷から開放します。そのときに、奴隷だったことがあるという経歴は瑕になりませんか?」
「……ならないとは言えません」
「そのため、傭兵であるあなたはカタリナ・リィンではない誰かであっても構わないということです」
「お気遣い、ありがとうございます」
「いえいえ。しばらくお世話になるのはこちらですから」
カタリナは偽名をリナリーとすることにしたようです。
可愛らしい名前ですね。
そういえばカタリナはまだ22歳です。
宮廷魔術師という地位がどの程度かは知りませんが、魔術の才能は確かなことはデバッグコンソールでステータスを見て分かっています。
観光案内にするには贅沢な人材ですね。
この状況を作った元凶のひとりとはいえ、奴隷の腕輪の効果は端的に言って人権無視も甚だしいものですから、現代日本人である私からすると実は早く解放してあげたい気持ちで一杯です。
「こんにちは。傭兵に登録したいのですが」
「ようこそアントミーブルンの傭兵ギルドへ。新規登録ですか?」
「はい」
「それではこちらの用紙に必要事項を記入してください」
登録用紙には名前、種族、性別、年齢、レベル、主なスキルを書く欄があります。
そういえば私ってまだレベル1なんだけど、大丈夫ですかねえ?
断られたら鍛え直してきましょう。
とりあえず名前はサトミで、年齢は15歳、スキルは【身体能力強化】と書いておきます。
カタリナことリナリーはレベル23、スキルは【炎魔術】と記入したようです。
「ええと……サトミさんはレベル1とのことですが、これまで実戦経験はないのでしょうか?」
「ええ、お恥ずかしながら。リナリーに指導を受けつつ修行しつつ傭兵の仕事を学んでいきたいと思います」
「正直なところ、ある程度の腕前がなければ傭兵の仕事は務まらないのですが……リナリーさんの方は即戦力なので、一緒にサトミさんのレベルに合わせた仕事を受けるということでしたら問題ないのですが。それでよろしいでしょうか、リナリーさん?」
「……もちろんそのつもりです」
リナリーはチラリとこちらに視線をやってから、頷きました。
「わかりました。おふたりの登録を受理します」
こんなことなら街の外でささっとレベルを上げておくべきでしたね。
まあ過ぎたことです。
レベルはいつでも上げられますから、傭兵に登録さえできれば後は好き勝手やらせてもらいましょう。
その後、受付嬢から傭兵の身分を表す金属製の小さな板を渡されました。
「これが傭兵の身分を表すタグです。革紐などを通してなくさないように管理してください。再発行には銀貨1枚かかりますので」
「分かりました」
タグにはFランクと書かれています。
やはり最高はAではなくSだったりするのでしょうか?
「仕事の依頼はあちらのボードにあります。難易度の目安としては、サトミさんのレベルを考えるとFランクの仕事でも危険性を吟味して受けるようにしてくださいね」
「重ね重ねご配慮ありがとうございます」
「いいえ、こちらとしても若い子に死なれると寝覚めが悪いんです」
素直な物言いに好感が持てます。
簡単には死にませんよ、ダメージは受けませんからね。
「なるほど、死なないように気をつけますね。それじゃあ今日はこれで」
「はい。訓練場などは無料で解放されていますし、常駐している職員もいます。剣の素振りの仕方から実戦形式の指導まで承っておりますので、ご利用ください」
「はい……あ、そうだ。オススメの宿ってありますか?」
私は受付嬢のオススメ宿を聞いておいて、逃げるようにして傭兵ギルドから立ち去りました。