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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
キャシー・キルレイン

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「なに、フォレストウルフが見たこともない強力な魔物になっただと?」


 夕刻、森人族の集落に戻った私たちは集落の長ケイネス・キルレインに森の様子や遭遇した魔物について報告していました。


「よく倒したな。しかし森がそれほど危険な状態になっているとは思わなかった……」


「明日は森の奥を探索して、更なる危険を排除する予定です」


「ふうむ。そこまで頼んでいいのか? 既に依頼の範疇からは外れているぞ」


「むしろウチのメンバーが【神託】を受け取ってしまったので、無視するわけにはいかないんですよ」


「そちらのお嬢さんだな。神からの警告、【神託】に従う以外に選択肢はないから仕方がないこととはいえ、割り切れないものを感じるな……」


 長ケイネスが苦い表情で言いました。

 しかしキャシーは「サトミちゃんはすごく強いし、リナリーちゃんの魔術も森人族に引けを取らない腕前だったよ。ボクなんて足を引っ張っていたとしか思えないから、彼女たちに任せた方が確実だと思うよ」


「ぬう、それほどか。Eランク依頼だったのだがな……何かできる支援はあるか?」


 その言葉を待っていたように、ギルマが手を上げます。


「水属性と闇属性のスクロールを借りたいのだけど、よろしいかしら。戦闘の補助になるような魔術があれば、それを習得したいと思っているわ」


「なるほど、戦力の強化か。それならば巻物屋には好きな魔術を習得できるように頼んでやろう」


「ありがとうございます」


 私たちはギルマと一緒に巻物屋へ行くことにしました。

 私は単純に興味本位で、リナリーは助言ができるから、エステルはギルマと一緒にいないという状況に耐えられないようで、キャシーはみんなが行くならボクも行く、という感じですね。


 森人族の集落にある巻物屋は魔術師ギルドではなく巻物を管理して集落の者のために貸し出すのが主な仕事のようです。

 巻物屋の老人はケイネスさんからの伝言を聞くと、水属性と闇属性の棚を指して「好きなものを習得して構わない」と言いました。


 ついでなので容量に余裕のある私もスクロールのラインナップを確認していきます。

 おや、これは……?


「リナリー、これはもしかして凄い魔術では?」


「〈ギアス〉ですか? 確かに禁呪指定されているものです。なぜこのようなところに……」


 闇属性にあるレア魔術を発見した私は早速、〈インストール〉のためにスクロールに手を伸ばします。

 それを見たキャシーが慌てて止めに入りました。


「ちょっと待って! いくらなんでもその魔術は危険だよ! 確かに好きなものを習得していいって話だけど……」


「森人族の感覚でも危険な魔術だという認識はあるんですね。でもよく考えてくださいキャシー。私たちの仲間になるということは私たちの秘密を知るということでもあるんですよ」


「え、うん。そうだね、それが知りたいから仲間に……」


「では知った後は? キャシーは誰にもしゃべらない自信はありますか? あったとして、私たちがそれを信用できると思いますか?」


「あ、もしかして信用ってそういう意味!? 酷いな、ボクはそんなに口は軽くないよ!」


「言葉ではなんとでも言えますね。ですが〈ギアス〉ならどうでしょう?」


「…………まさか」


「私たちの秘密を口外しない。そういう〈ギアス〉をかければ、私たちはキャシーを信用できると思うのですよ」


 酷いことを言っている自覚はありますが、そのくらいでなければキャシーを仲間に入れて事情を話す気にはなれません。

 キャシーも私の規格外のチカラを目にしているため、ただ口外しないという約束だけでは弱いと理解したようです。


「そうか。そうだね、確かにサトミちゃんのスキルは強力だし、みんな何らかの秘密を抱えている気がしていた。〈ギアス〉を使うことでボクを信用できるようになるなら、それもアリかな」


「……ふむ。ではひとまず〈ギアス〉は習得しますよ」


「あ、でも容量が……」


「〈インストール〉〈ギアス〉」


 もちろん容量はヒトより多いため、問題なくインストールが完了しました。


「問題ありませんね。無事に習得できましたよ」


「あれだけの空間魔術が使えるのに、容量に空きがあったの? 凄いなあほんと」


 私が〈ギアス〉を習得したのと時を同じくして、ギルマも新たな魔術を習得しました。

 闇属性の〈ブラインドネス〉は相手の視界を暗闇に閉ざす強力な魔術です。

 また水属性の〈アクア・ジェイル〉は水の拘束魔術ですね。


「こちらは準備できたわ。そっちも何か習得していたようだけど……」


「はい、〈ギアス〉を習得しました。キャシーが本当に仲間になるなら、秘密を話しても口外できないようにできる魔術です」


「……なるほど。確かにそれくらいしか私たちのパーティに入る方法はないかもしれないわね」


 キャシーは冷静に肯定するギルマに「うわあ、一体どんな秘密を抱えているのこのヒトたち……」とドン引きです。


「さあ、準備が整ったので、森の奥の危険を排除しに行きましょう!」


     ◆


 ツインヘッドウルフを倒して解体した場所までやってきました。

 臓物などは私の〈トンネル〉で穴を掘って埋めましたが、大量の血は森の動物たちを呼び寄せたようです。

 昨日はなかった骨などが散見されますね。


「森の奥、というからにはこれより先に進むってことだよね。ボクもこれくらい奥に入るのは久々だし、明らかな危険が【神託】で告げられているわけだから、かなり用心しないと……」


「そうですね。具体的な危険の内容も分かりませんし、そこは斥候のキャシーに命を預けますよ」


「責任、重大だなあ」


「でも私たちのパーティに入ったら斥候として活躍してもらうのですから、今更では?」


「そうだね。昨日までは、ボクは他のヒトより強いって自惚(うぬぼ)れていたから……サトミちゃんたちについていくには努力が必要だと身にしみている」


 しかし【神託】は厄介なスキルですね。

 この世界の神様から直接、お告げが下る代わりに頼まれごとを引き受ける必要があるとは。


 私たちはキャシーを先頭にして慎重に森を進みます。

 時折、私もオブジェクト探査を使いながら周囲に注意を向けていますが、危険らしい危険はありません。


 それどころか、フォレストウルフを始めとした動物などにも遭遇しないという異常事態です。


「本当に森が静かだ。何か異変があるのは確かだね」


「一体、どんな危険があるんでしょうね……」


「ボクにはさっぱりだよ。……おっと、前方に気配あり。誰かいるよ」


「誰か? 動物や魔物ではなく?」


「多分、ヒトだ。種族は分からないけど……」


 私たちは武器に手をかけながら、気配のする方へと歩みだしました。


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