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03


 頭上から宮廷魔術師筆頭ウィゼル・タルキヤード氏の声が降ってきます。


「いかがですか? ステータスは他の人には見えません。できればどのようなスキルがあったのか教えていただきたいのですが」


「……ああ、はい。スタンピードに対応するんでしたね。ええと、【身体能力強化】【精神能力強化】【魔力感知】【魔力操作】とあります」


 私の言葉に宮廷魔術師たちが顔を見合わせます。

 少なかったのかな?

 【若返り】はともかく【デバッグモード】は切り札にもなりうるので、できれば隠したいのですが。


「それだけですか? 異世界召喚に伴い、あなたは次元を渡った際に、大きな力を授かっているはずです。何か他にスキルなどがあると思うのですが」


 デバッグコンソールによれば、王の姪には嘘看破という厄介なスキルが見えています。

 さすがは召喚の場に立ち会う王族なだけのことはありますね。

 この場で嘘をつくことはできません。


「実はもうひとつ、あるにはあるのですが……【デバッグツール】というのです。これがなんだか分かりますか?」


 誤魔化すのは早々に諦めました。

 隠しきることも困難でしょうから、スキル名くらいは教えてしまってもいいでしょう。


「でばっぐつーる? それはどのようなスキルですか?」


「魔物を呼び出すことができます。ただし味方というわけにはいきませんが……」


 ウィゼル・タルキヤード氏がチラリと王の姪に視線をやります。

 王の姪は小さく頷き、私の言葉に嘘がないことを知らせました。


「なるほど……それはなんというか。敵が増えるということですか?」


「そうですね。何の対策もしなければ増えるだけでしょう。質問ですが、魔物を倒すことで強くなることはできますか?」


「……なるほど、確かに魔物を倒すとレベルが上がります。そう考えれば、安全な場所で好きにレベルを上げられる能力というわけですな。それは破格だ」


「なるほど。役に立たないスキルかと思いましたが、それなら使い方次第でしょうか。ただスタンピードが喫緊の問題であるというなら、私ではお役に立てないかも知れません」


「確かにスタンピードは既に発生しており、前線では厳しい戦いを強いられております。しかし魔物を倒すのは何もあなたでなくてもいいのでは? 騎士たちのレベルを上げて送り込むことができれば、それだけでも助かります」


 どうやら弱い能力ではないと理解してくれたようですね。

 本当はもっと色々なことができるのですが……それを言うわけにはいきません。

 少なくとも奴隷の腕輪が私に使われるかどうか、それが重要な分岐点になるでしょう。


「いま梯子を降ろします。……おい、梯子を」


「はっ!」


 兵士たちが木製の梯子を降ろします。

 どうやら有為な人材だと認識されたようです。

 もし役立たずだと判明したなら、梯子は降ろされずに部屋に置いてある弓で滅多撃ちにされて殺されていた可能性も高いですね。


 人攫いのうえに命の選別……ここまでするからには、奴隷の腕輪の使い道も想像通りになりそうです。


     ◆


「この腕輪は我が国に召喚された方であるという証になります。これがあれば城内をひとりで歩いていても見咎められることはありません」


 王の姪はいけしゃあしゃあと嘘を口にして、奴隷の腕輪を私に差し出してきました。

 腕輪は一見すると王城の中でしていてもおかしくないデザインですが、おそらく警戒されないように偽装したのでしょうね。


 ……敵対は確定ですね。


 私はデバッグコンソールから奴隷の腕輪の所有者に私の名前であるサトコ、対象を宮廷魔術師のひとりの名前を入力しました。

 さて結果は?


「きゃあ!?」


 突然、胸を抑えて苦しみだした女性の宮廷魔術師にその場の皆が何事かと言った表情で驚いています。

 私は奴隷の腕輪を王の姪からひったくり、苦しむ宮廷魔術師、カタリナ・リィンに素早く腕輪を嵌めてやります。


 すると苦しんでいたカタリナ・リィンは、急に落ち着きを取り戻し、愕然とした表情で自分の腕に嵌められた腕輪を見下ろしていました。


「ど、どういうこと……!?」


「貴様、一体なにをした!?」


 ウィゼル・タルキヤード氏が貴様呼ばわりで私を詰問してきます。

 やれやれ、化けの皮が剥がれましたね。


 私は無視してデバッグコンソールからパーティ編成画面を呼び出し、私とカタリナ・リィンを登録します。

 そして座標遷移でテキトーな数字を入れて、息を止めてジャンプします。


 すると一瞬で景色が変わり、幸運にも草原のまっただなかに移動しました。

 もちろんパーティごとジャンプするので、カタリナ・リィンだけを連れ出して。


 ちなみに座標遷移で壁の中にめり込んでも、私の身体が壁と同化したりはしません。

 壁に私の形の穴が空くだけです。


 これが火山の溶岩の中だったりすると、カタリナ・リィンは無事では済まないでしょうから、運が良かったのは確かです。

 私はもちろん、ダメージを無効化するので改めて座標遷移するだけですが。


「さてカタリナさん。その腕輪の意味は分かりますね? 所有者は私。対象はカタリナ・リィンです」


「な、なんで私の名を……」


「実は【デバッグツール】は魔物を呼び出す以外にも、奴隷の腕輪の情報を書き換えたり、一瞬で別の場所に移動したりできるのですよ」


 カタリナは唖然とした顔で後ずさり始めました。

 どうやら命令をしない限りは逃げることもできそうですね。


「カタリナ、命令です。私の傍を勝手に離れてはなりません」


「……っ」


「もとはと言えば、あなたたちが悪いんですよ。とはいえあなただけが悪いわけではないのに申し訳ないですが、しばらくこの世界の案内を頼みます。これは命令です」


「わ、分かりました」


「それから私に対して嘘をつくことを禁じます」


「……はい」


 聞けば、奴隷の腕輪にはそもそも、奴隷が主人を攻撃したりすると激痛を与える効果が備わっているそうです。

 奴隷が主人を殺せば、その激痛は最大限に達して奴隷も死ぬのだとか。

 悪趣味な道具があるものですね。


「それと聞いておきたいのですが、召喚された私を元の場所へ還す方法はありますか?」


「……いえ。ありません」


 ああ、最悪ですね。

 召喚はどうやら一方通行のようです。


「分かりました。それなら私を守りなさい。魔法を使うことを禁止しませんが、私を守ること以外に使う場合、必ず私の許可をとること」


「は、はい……」


 彼女の魔法には危険そうなものも多いので、このくらいの制限はあった方がいいでしょう。


「それでは近くにある街なりに行きましょうか……ついてきてください」


「あの……」


「なんでしょう?」


 カタリナがおずおずと「私はあなたのことをなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」と聞いてきました。

 ああ、そういえばあの場では誰も私の名前を聞こうともしませんでしたね。


「私の名前は()()()です。サトミさん、と呼んでください。奴隷であることをおおっぴらにする必要はありません」


「かしこまりました、サトミ様……サトミさん」


 どうも強制力のある命令だと受け取られたようです。


 本名に似せたハンドルネームで、ゲームなどでもよく使います。

 なんとなく本当の名前を教えるのは危険があったりしそうなので、偽名を使いました。

 嘘看破のスキルのないカタリナには、この名前が本名かどうか確認する術はありません。


 私は【デバッグツール】のオブジェクト探査で街道を探します。

 ああ、運良く見つかりましたね。

 どちらかへ進めば街に着くことでしょう。


 私はカタリナを連れて、召喚された場所から離れる方向ということで、街道を東に行くことにしました。


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