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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
キャシー・キルレイン

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 宝石店からの尾行は街を出て森に入っても消えませんでした。

 なかなかのプロ根性ですが、こちらには斥候の力量を自慢するキャシーがいます。


「ねえ、なんかついてきているのがいるけど、知り合い?」


「そんなわけないじゃないですか。宝飾店に昨日のカタツムリの殻を売ったら、ついてきたんですよ」


「ああ、あの小さい奴? まあ宝飾店なら欲しがるか。じゃあしばらくは付きまとわれそうだね。邪魔だし私が追い払おうか?」


「面倒なのは確かですが、穏便に済ませられるのですか? 荒事にするほどではないと思って放置しているのですが」


「どうかなあ。サトミちゃんはそう言うけど、向こうがサトミちゃんを攫って拷問でもして出処を吐かせようとしているとは考えないの?」


「…………それは盲点でしたね」


「じゃあサクっと追い返そうか」


 言うが早いか、キャシーは唐突に振り返って背後に向けて疾走します。

 腰の短剣を両手に、密偵の隠れているところへ一直線に走り寄る姿は、私の抱く森人族のイメージとはかけ離れているものでした。


 ……こうもっとエルフっぽいのを想像していたんですけどね。


 当たり前のように3属性もある魔術は斥候に役立つ支援魔術ばかりで、能力値は敏捷と感知に偏っているのがキャシーです。

 レベル29と結構な強さがありますので、さてどうなるかな?


 密偵はバレたのに気づいて慌てて交戦の準備を始めました。

 腰の短剣を抜き、迎え撃とうとしたまでは良かったのですがキャシーの二刀流を捌くことはできませんでした。

 あっさりと首をはねられた密偵は、血を吹きながら仰向けに倒れていきます。


 ……うわあ、容赦ないですねえ。


「はい、終わり。一応、持ち物を調べておくよ。ちょっと時間ちょうだいね」


「ええ。でも殺してしまって良かったんですか?」


「え? そりゃ尾行なんてしていた奴が相手なんだから、正当防衛でしょう」


 私は3人を見渡しますが、だいたいキャシーに同意なのか頷いていました。

 ああ、つまり私が平和ボケしていたんですね。


 正しい対処法は気づいた時点で追い返すか殺すことでしたか。

 今後はもう少し、日本が極端に平和で特別な国だったのだと考え直した方が良さそうですね。

 あと3人に対応を相談すべきでした。


 反省、反省。


「ううん、さすがに証拠になるようなものはないね。お待たせ、とりあえず死体は放置でいいね。雇い主が回収しても動物に食べられても、私たちは知らぬ存ぜぬで通せばいいし。もしこの件で困ったなら私を頼っていいよ。これでもあの街じゃ結構、顔がきくから」


「その時はそうさせてもらいます」


 しばらく先導するキャシーについていくと、木の柵に出くわしました。

 どうやらここから先が森人族の集落らしいです。


「ようこそ森人族の集落へ。まずは依頼を出したウチのお祖父ちゃんに会っていってよ」


 そう、依頼主はキルレイン集落の長ケイネス・キルレインという方です。

 どうもキャシーは集落の長の孫らしいのですが、まったくそれがどうして傭兵なんかになっているのか。

 その話題をどうすべきかは本人を見て考えるとしましょう。


     ◆


「ようこそ傭兵諸君。私がケイネス・キルレインだ。この集落の長をしている。どうやら孫とは知り合いのようだが、どのような経緯で知り合ったのだね。是非とも聞かせてもらいたい」


「お祖父ちゃん、今はどうでもいいでしょその話は」


「いやよくないぞ。キャシーは外に出てはトラブルを起こす。彼女たちに何か迷惑をかけているのではないか?」


「そんなことはないよ! 孫を信用しないなんて酷いなあ!」


「信用して欲しいなら、日頃の言動には気をつけることだな」


 どうやらキャシーの問題児っぷりにはお祖父さんも手を焼いている様子です。

 ここで色々と暴露してもいいかと一瞬、思いましたがすぐに思い直しました。

 キャシーが興味を持っている私のスキルについて話さなければならなくなるからです。


「あの、その前に依頼の話を確認したいのですが。フォレストウルフについては私、実は詳しくないので。喫緊の問題なのですか?」


「いや? 数が増えたので駆除を頼んだだけだ。一応、集落の若い者でもなんとかならんでもないのだが、こういう機会でもなければ人間族との交流もないからな。仕事は街のギルドにできるだけ依頼している」


「本当に森に籠もって生活しているんですね。キャシーが外交官であるのは長の孫だからですか?」


「いや……キャシーは森人族に稀に生まれる好奇心がやたら旺盛な変わり者だ。森人族は基本的に温厚で森の中での生活に不満を覚えず、外に興味を持つことも少ない。だが例外的に、真逆の性格の者がたまに生まれるのだ」


 なるほど、キャシーは森人族の中では異端だったのですね。

 私のイメージ通り、この里の森人族は魔術に偏っていますし、キャシーのようにやかましく喋るヒトも見かけません。


「話が逸れたな。フォレストウルフは森を根城にしている狼のことだ。ただの狼ではあるのだが、狼はそもそも頭のいい動物だ。集団で狩りをするし、相手が手強いなら弱るまで遠巻きにして追い込むような動きをする。厄介な相手なのだ」


 聞くだに、普通の狼ですね。

 しかしただの害獣駆除に終わると思った私の考えは早計でした。


「ちなみに稀に魔力を蓄え、魔物と化したフォレストウルフがいる。魔物に変異したフォレストウルフは魔法もつかうし、普通のフォレストウルフよりも大柄で強い。もし魔物化したフォレストウルフを見かけたら、無理に討伐はしなくてもいい」


 普通の動物が魔力を蓄えると魔物になるのですか。

 それは知りませんでしたね。


「まあそんなところだ。そろそろ日が暮れるし、今日はウチに泊まって、依頼は明日からにしなさい。で、夕食前にキャシーが何か迷惑をかけていないか話を聞かせてもらおう」


 結局、キャシーの自己申告を中心に話を合わせる形でお祖父さんに話をしました。

 私のスキルについては語らず、たまたま森で見かけた強い4人の傭兵に興味をもって、傭兵登録して一緒に依頼を受けた、という話が大筋でしたが、


「なに、傭兵になっただと!? 馬鹿かお前は!!」


 結局、キャシーに雷が落ちるのは変わりありませんでした。


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