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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
キャシー・キルレイン

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 森人族の女性に森での戦いを見られていたことに気づいたのは、日が傾いてきてそろそろ戦闘を切り上げようと提案したときのことでした。

 オブジェクト探査で念の為に周囲を確認しておいて良かったですね。


 いつから見られていたのかは分かりませんが、この世界にいない魔物を倒しているところを見られているのはマズいでしょう。

 更にマズいことにエネミーの生成も見られていると考えた方がいいですね。


 名前はキャシー・キルレイン、40歳。

 森人族は長命で若い時期が長いらしいので、人間族の40歳より若い外見をしているはずです。


 顔を確認したいところですが、正直なところ見られた場合の対処については何も考えていませんでした。

 なのでこちらが見られていることに気づいたと相手に知られた場合、どう対処していいのか想定していません。


 口封じに殺す? いやいや、ないでしょそれは。


 いくらなんでもそこまではしたくないし、するつもりもありませんよ。

 そもそもここはロスマン王国ではなくミラン王国です。

 私を探しているロスマン王国がキャシー・キルレインの目撃証言にたどり着くまで、一体どれほどの時間がかかるでしょうか?

 そしてその頃にはきっと、私たちはこの街にはいないのです。


 ……なんだか問題ないのでは、という気になってきましたよ?


 しばらく周囲で変な噂が流れるくらいなら許容範囲でしょう。

 宿に戻ったら3人に話して、この街を離れることにした方が良さそうです。


 そんなことを考えていると、なんとキャシー・キルレインが茂みから「すみません、怪しい者じゃないので槍を向けないで!」と言いながら現れたではありませんか。

 出てくるんかーい!?


 せっかく隠れていたのにわざわざ姿を表したのは一体、何が目的でしょうか。


 戦闘を見られていたことに気づいた他の3人も身構えます。


「あー、なんだかレアスキルを使っているところを見ちゃったのは謝るけど、森の中は誰のものでもないし、別にそこは構わないよね?」


 エステルは「ぬう……」と唸り私を見ます。

 リナリーは肩をすくめて私に丸投げ、ギルマもどうしていいか分からないようでエステルと私を交互に見ています。


「まあ確かに見られたのは構いません。それで、隠れていたのにわざわざ出てきたのは何の用でしょう?」


「うん。僕ね、君たちに興味があるの!」


「はい。それで?」


「それだけ!」


「…………は?」


 無邪気に笑う笑顔は40歳のものには見えません。

 外見は、人間族なら10代中盤くらいでしょうか。

 若々しい見た目と同様に、精神年齢も相応らしいですよ?


「……それで、興味があるとおっしゃいましたが、具体的には?」


「え? 具体的に? 特に無いけど……あ、スキルについて教えてくれるの? それなら聞きたい!」


「申し訳ありませんが、見ていて分かる通り特殊なスキルです。他言する気はありません」


「ええ、うんまあそうだよね。ところで仲間はスキルのことを知っているんだよね?」


「え? ええ、まあ」


 その言葉に、嫌な予感がしました。


「じゃあボクを仲間にしてよ」


 嫌な予感は具体的な言葉となって、キャシーから放たれました。


「あの、そもそもあなたは何者なんですか?」


 称号には「森人族の外交官」とありますが、立場のある人ですよね?

 傭兵の仲間になるって即決できるような立場には見えないのですが。


「あ、ボク? そういえば名乗るのをすっかり忘れていたね! ボクは森人族の外交官キャシー・キルレインだ。よろしくね!」


「私はサトミです。…………ええとそれでキャシーさん。あなたは外交官なんて立場なのに、傭兵である私たちの仲間になりたいということですか? 今の立場や故郷を捨ててまで?」


「キャシーでいいよ! それでサトミちゃん、ボクの立場なんてのは集落にしばりつけておきたいお祖父ちゃんの勝手な任命だから、逃げようと思えばいつでも逃げられるんだよ? だから問題、ないんだ~」


「はあ……」


 いや、問題はあるでしょう。

 キャシーがお祖父さんの顔を潰して平気なのは分かりましたが、外交官ってそんな軽い役職だとは思えませんし、傭兵になって故郷を出るなら挨拶くらいはしておくべきです。


 そしてそもそも私たちはキャシーを仲間に入れるつもりはありません。

 ギルマが魔族であること、私が異世界から召喚された者であること、リナリーがロスマン王国の宮廷魔術師であること……こんな事情を知られるわけにはいきません。


「あ、でもサトミちゃんがいきなり仲間にしてくれって言われて困っているのは分かるよ。だからお試しで私の実力試験をするなんてどうかな? 見た感じ、戦士ふたりに後衛は専業魔術師ふたりでしょう? 自慢じゃないけどボクは斥候の技に自身があるから、いい感じにパーティの足りない部分を埋められると思うんだ」


 キャシーの言っていることは正しいです。

 確かに彼女の斥候能力は疑いもありません。

 オブジェクト探査で見たステータスには、【罠察知】【罠解除】【解錠】【聞き耳】【隠密】【短剣】【格闘】【弓】と、多くの斥候らしいスキルが並んでいます。

 さすが森人族、伊達に40年も生きていません。


「キャシー、言い分は分かりましたが私たちはあなたを受け入れる気はないんです。私たちは傭兵になったばかりのFランクで、実力以上に信頼関係に重きをおいて仲間を選んでいるんです。あなたの実力がどのようなものであれ、信頼関係のない相手とは組む気はないのです」


「サトミちゃん、ボクは信頼できるよ! でも言いたいことは分かった、なかなか面白い考え方で仲間を選ぶんだね。じゃあボクはサトミちゃんたちから信頼されるように頑張るから、信頼できるようになったら教えてね!」


 バイバイ! と手を振りながらキャシーは森の奥へと立ち去りました。


 ……しかし40歳にもなってボクっ娘とか、どうなんでしょうね。


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