24.キャシー・キルレイン
密かに木々に紛れて4人の女性たちの戦いを観察するのは、キャシー・キルレインという森人族の外交官だった。
森人族の外交官とは、森の奥で暮らしている森人族の集落を代表して人間族の街との通商や時事情報を仕入れることを任務とする、外との繋がりを好ましく感じられる稀有な性格の者のことである。
閉鎖的で排他的な森人族にあって、集落の外の世界に興味をもつ森人族は少数ながら存在する。
そのような気性の者たちは大抵、森を出て傭兵になる。
しかしキャシーの場合は外交官という職務を与えられて、外への興味を発散していた。
さてそのキャシーは集落への帰り道に今まで嗅いだことのない異臭を感知した。
何らかの異変だ。
キャシーは好奇心のままに異臭を辿り、そして戦う4人の女性たちを見つけた。
恐らくは傭兵。
しかも少なくとも前衛ふたりは手練で、後衛の魔術師らしきふたりのうち片方の魔力がやけに強大だ。
キャシーは【隠密】で姿を隠しながら、今まで見たこともない魔物にも注目する。
巨大なカタツムリ。
一体どこから来たのか、それともこの森で生まれたのか?
原因を探らねばならないと思いつつも戦いの邪魔になるのを避けるため、戦闘後に声をかけようと待っていたのだが、驚くべき現象を目の当たりにして声をかけそびれてしまった。
魔物が倒された瞬間、消滅したのだ。
跡にはキラキラと光る小さなカタツムリの殻が残り、傭兵のひとりがそれを回収すると、「じゃあ次、いきますよ~」という声とともに巨大なカタツムリがどこからともなく出現したのだ。
……なに、あれ!?
キャシーはドキドキしながら4人の戦いを見守る。
前衛が接近と離脱を繰り返しながらカタツムリを倒し、倒れたカタツムリが消滅し、跡に残った小さな殻を回収し、そしてまた新しい巨大なカタツムリがどこからともなく出現し戦う。
彼女たちは延々とそのようなことを繰り返しているのだ。
……レベルアップが目的なのかな? それともあの小さな殻を集めるのが目的?
どちらにせよ、さぞ効率がいいことだろう。
なんらかのスキルの効果だと思われるが、キャシーの知らないスキルであることは間違いない。
もうこの時点でキャシーは4人の虜になっていた。
好奇心の塊であるキャシーにとって、4人の行動は非常に珍妙で魅力的であり、それは外交官などに収まっている自分の立場すら疎ましくなるほどのものであった。
つまりキャシーは外交官の職務を放棄して、彼女たちの観察を続けることにしたのだ。
日が傾いてきて彼女たちが戦闘を切り上げた頃、集落に戻って今日の交渉について報告しなければならない、などということはもはやキャシーにとっては忘却の彼方にあった。




