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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
キャシー・キルレイン

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 翌日、街の外にある森の中に入って広い場所を探します。

 オブジェクト探査で少なくとも周囲50mに人がいないことを確認したら、【デバッグツール】を起動して目星をつけていたエネミーを呼び出します。


 トゲの生えた巨大な殻に、軟体の身体がウニョリと出てきている……いわゆる巨大カタツムリのヒュージスネイルです。


 ギルマが無言でスっと後ろに一歩引き、リナリーも「よりによって気持ちの悪いものを呼び出しましたね」と呆れています。


「確かに見た目は悪いが……魔物ならばこういう気色の悪いものも多い。……これに気後れしていては傭兵は務まりませんよ、ギルマ様」


「う、頑張るわ」


 とはいえギルマは治癒魔術を習得していますが、攻撃には参加できません。

 何か新しく役割をもたせるか、このまま治癒を極めるのかは彼女が決めることでしょう。


 ……〈ヒール・ライト〉なら私も使えますからね。


 とはいえ魔力を攻撃に割く私のことを考えれば、専任の治癒魔術師がパーティにひとりいても構わないのですが。


 さて、ヒュージスネイルが角を伸ばしてゆっくりとこちらに接近し始めます。

 その歩みはカタツムリらしく遅いものですが、接近戦になればその巨体から放たれる攻撃は危険なものとなります。


「よし、では戦闘開始! 我が魔力1を捧げる。全身強化〈フィジカル・ブースト〉!」


「了解したリーダー。我が魔力3を捧げる。雷を纏え〈ライトニング・ウェポン〉」


 エステルは雷魔術で槍を強化し、飛び出します。

 彼女のステータスには魔術だけではなく武器術もあるので、ちょっと見るのが楽しみだったり。


「〈乱れ突き〉!」


 間合いギリギリから紫電を纏った槍を突き出します。

 いえ、突きは連続して目にも留まらぬ速さでヒュージスネイルの胴体をズタズタにしました。

 表皮をボロボロに焼いて体液がこぼれ落ちます。


 ……ただの突きの連打ではないですね。


 明らかに人間の腕の動きを超越しています。

 魔術が物理法則を書き換えるならば、当然のごとく武器術も人体の限界を書き換えるのでしょう。

 これは私もひとつ、武器術を習得したいものです。


「気をつけてください! ソイツは接近すると、意外と素早く首を動かしますよ!」


 言った瞬間、シュバっとヒュージスネイルの首が薙ぎ払われます。

 すんでのところでエステルは後退して回避しますが、「先に言ってくれ!」とこちらに向けて叫びました。


「すみません。ソイツを相手にするなら、ヒットアンドアウェイに徹するのが楽です。こんな感じで」


 私は素早く側面から接近して剣を振るいます。

 【重剣】による重い一撃が殻を砕きました。

 そして即座に離脱。


「ヒュージスネイルは長期戦になったり不利を悟ると、籠もってしまいます。殻に籠もっている間はトゲで反撃してくるので、硬いですが殻を先に破壊しておくと後が楽ですよ!」


「それも先に聞きたかった!」


 胴体をボロボロにされたヒュージスネイルは殻に吸い込まれるようにして収まりました。

 すると殻に生えているトゲが、ギシュン! と派手な音を立てて伸縮し始めます。


 こうなると迂闊に手出ししづらくなるのですが……。


「こうなると魔法……じゃなくて魔術で攻撃したくなる局面です。リナリーのちょっといいところが見たいです」


「まさか私に魔術を使わせるつもりでこの魔物を選んだのですか? ……仕方ありませんね」


 そう、リナリーはネズミの尻尾を燃やしたときくらいしか魔術を使っていません。

 実戦でどのくらいの精度で魔術を当てられるのか、威力はどうなのか。

 私も知らないのです。


「では。我が魔力5を捧げる。突き刺され〈フレイム・アロー〉」


 唱えた途端、リナリーの周囲に5本の炎の矢が出現します。

 スっと短杖でヒュージスネイルの殻を指すと、矢はボッ! という爆音と共に殻に突き刺さり、中から本体を焼き殺してしまいました。


 ……ひとつの魔術で5本も矢を出せるんですね。


 ネズミの尻尾を焼いた魔術も〈フレイム・アロー〉でしたが、そのときは1本だけでした。

 魔力を増やすことで複数の矢を出すなんてこともできるんですね、さすが宮廷魔術師です。


 ポコン! という音とともにヒュージスネイルが消滅し、跡には手のひらに乗るサイズの虹色に輝く綺麗なカタツムリの殻が残りました。


「死体が消えるとはこういうことか……それであれがドロップアイテム、という奴だったか」


「ええ。ヒュージスネイルの通常ドロップは虹の殻ですね。使い道は覚えていませんが、綺麗なので売り物になるかもしれません」


「そうだな、宝飾店に持っていけば加工もできるだろうし、このような輝きのある素材は重宝されるだろう」


「なるほど。……しかし怪我もなかったですからギルマは暇でしたね。かと言ってわざと怪我をするわけにもいきませんし」


 ギルマは曖昧な表情で「攻撃魔術を習得した方がいいかしら?」と顎に手をやります。


「いえ、ギルマ様は治癒に専念するのがよろしいかと。ただ欲を言うなら攻撃よりも戦闘を補助する魔術などを習得すると、我々としては助かります」


「そうなのね。容量には余裕があると思うから、後で何がいいか教えて。リナリーが詳しいかしら?」


 リナリーは「もちろんアドバイスしますよ」と軽く引き受けました。

 魔術について知識が深いリナリーがパーティにいると、心強いですね。


「さあ、どんどん連戦しましょう。ドロップもお金になるし、レベルも上げたいですから」


「そうだな。同じものを呼ぶのか?」


「もちろんです。効率よく短い時間で狩りまくるんですよ」


「……なるほど。好きに連戦できるというのは、非常に便利なのだな」


 エステルが【デバッグツール】のエネミー生成の真価を理解したところで、今日も目一杯戦いましょう!


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