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02

 白い縞模様のある大理石の壁に囲まれた一室に、私は立っていました。

 床は石畳が敷き詰められており、ひんやりとした石の匂いと肌寒さを感じます。


 ログアウトした記憶はありません。

 しかしVR空間の光景ではないのは確かです。

 解像度が違いすぎます、これは現実の光景にしか見えません。


 しかし手元に『ギア』はないし、自室がいつの間にか石造りの部屋に改装されたという記憶もありません。

 というか電源とかネットワークとかどうなっているんでしょうか、ここではそもそも『ギア』は稼働すら難しいでしょう。


 四方を窓も扉もない壁に囲まれ、私は途方に暮れて天を仰ぎました。

 すると天井は存在せず、上の階から複数の人たちが覗いているのを見つけます。

 人種は様々ですが、アジア人はいないみたいですね。


 派手に髪の色を染めていたりカラーコンタクトまでしている彼らは、コスプレでもしているかのように年代がかった格好をしています。

 中には金属のような質感の揃いの鎧兜を纏った人たちもいます。

 なんでしょう、コスプレパーティーか何かですかね?


「ようこそ、異世界からの来訪者よ。私はロスマン王国宮廷魔術師筆頭、ウィゼル・タルキヤード。言葉は通じているか?」


「こんにちは、ウィゼル・タルキヤード。言葉は分かります。日本語がお上手なんですね。それにしてもここはどこでしょう? 私は自室で仕事をしていたはずですが、何のサプライズですか?」


「言葉が通じているようで何よりだ。君にはにわかに信じがたいことかもしれないが、ここは君のいた世界ではない。別のウチュウ、……つまり私たちの世界に君を召喚したのだ。勝手に連れ去る形になったことを、まず詫たい」


「ちょっと待ってください、何を言っているのか……ちょっと理解できません。異世界? そんな馬鹿な」


「信じられないのも無理はない。君たちの世界には魔法がないと文献で読んだことがある。かつてこのように召喚された人物が書き残した資料によれば、実際に魔法を見せれば信じてもらえる可能性が高い、とあった。簡単な魔法で恐縮だが、ちょっと見ていてもらえるだろうか」


 ウィゼル・タルキヤード氏は腰の杖、木製で先端に大きな宝石のようなものがついたをれを前方に突き出すと、「我が魔力1を捧げる。光を生み出せ〈ライト〉」と私にも聞こえるように言いました。

 すると光……蛍光灯のような白い光が空中に現れました。


 いやいや、これが魔法だなんて。

 手品じゃないんですか?

 何か仕掛けが……あるんでしょう?


 私は頭に浮かんだ言葉とは裏腹に、それを発することもできずに呆然としていました。

 ここがVR空間だったらどんなに良かったことでしょう。

 ですがこんな解像度の高い景観は、現実でしかありえないのです。

 そして魔法も、一見しただけでは手品かどうか見破る力を私は持ちえませんが、なんとなく本物だと私には思えてしまったのは事実です。

 魔力、というものがどういうものかはまだ分かりませんが、確かにウィゼル・タルキヤード氏が魔法を使った際に「何か」が動いたのを感じ取ることができたのです。

 あるいはそれが魔力というものなのかもしれません。


「状況は未だに受け入れ難いものがありますが、話を伺いたいと思います。とりあえず、私は何のために呼び出されたのでしょう?」


「よいところに気づかれました。そう、理由は重要です。……私たちロスマン王国は危機に瀕しております。どうかそのお力で、我らをお守り下さい」


「ええと、それは戦争とかそういう……?」


「はい。端的に言えば、他国ではなく大量の魔物がダンジョンから溢れ出すスタンピードという現象に対応していただきたいのです」


 これまた一昔前に流行ったラノベみたいな展開ですね……。

 異世界転移に魔物のスタンピード、テンプレ展開と言うやつですよ?


「私にそんな力はないと思いますが、もしかして召喚された際に何か授かったのでしょうか?」


「おお、そうでしたな。左手の甲に触れてください。それでステータスを参照できますので、あなたが次元を越えた際に得た力について知ることができます」


「左手の甲?」


 それは()しくも最近のVRMMOでメニュー画面を表示させる方法と同じでした。

 私は早速、左手甲を右手で軽く叩きます。


《名前 サトコ 種族 人間族 年齢 29 性別 女

 称号:異世界のデバッガ

 レベル 1 筋力 6 敏捷 5 精神 20  感知 10

 【若返り(15歳)】【身体能力強化】【精神能力強化】

 【魔力感知】【魔力操作】【デバッグツール】》


 ……若返り!?

 私は慌てて鏡を呼び出そうとして、ここがVR空間でないことを思い出しました。

 自室でもないため、鏡がありません。


 顔をペタペタ触ると、明らかに水を弾きそうな若者特有の瑞々しい腕が見えました。

 これは身体が15歳になっていると考えて間違いないでしょう。


 さてステータスで気になるのは【デバッグツール】です。

 というか、なんでそんなものが?


 私は脳裏に刻まれている【デバッグツール】起動方法を試してみることにしました。

 スキルはそれと認識すれば、後は身体が勝手に覚えているようで、特に苦労することもなく使用できるらしいです。

 もちろん【デバッグツール】も。


 眼の前にコンソールが現れました。

 ああ、これはデバッグツールですね。

 しかも先程まで開発中だったゲーム『闘争のロストグリモア』の。


 エルフ・トライバルソルジャーを呼び出すこともできそうですが、彼らが「仲間を呼ぶ」をしたらどうなるのか興味があります。

 いや、そんなことはしませんけどね?


 ひとまずダメージ無効とステータス異常無効にチェックして、周辺にあるオブジェクトの探査を行います。


 ……おや、これは?


 今いるマップが探査され、上から覗いている連中の素性が明らかになりました。

 王族がいますね。

 王そのひとではありませんが、王の姪とあります。

 見届け役かなにかでしょう。


 他に気になるのは宮廷魔術師がウィゼル・タルキヤード氏以外に3人いること、他は兵士らしいことが分かります。

 そして彼らの装備や所持アイテムも見えるのですが……所有者と対象が空白の奴隷の腕輪?


 頭が急速に冷えて、私はこの召喚劇の裏にある罠に気づいたような気がしました。


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