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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
シスター・イルマ

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 事情を知らない私たちは、神殿騎士エステル・フォードとともにシスター・イルマを護衛しながら王都へ向かいます。

 途中で村に立ち寄ったりはしますが、基本的に宿はとらずにできるだけ進んで野営を選択する方針のようです。

 その不自然な方針は多分、男性を避けるためでしょう。


 私とリナリーは特に口出しもせずにエステルさんの指示に従い、ときどきイルマさんの話し相手をしながら歩きます。

 いやあ、いくら異世界に来てレベルアップしたとはいえ、こんなに長々と歩くことはなかったので足が痛くて仕方ありません。

 足に靴ずれができる度に〈ヒール・ライト〉で治し、それをリナリーにも施してやります。

 リナリーはリナリーで専業魔術師として今日までやってきたわけで、やはり旅慣れていません。

 私と同じようにすぐに靴ずれができたり、日が暮れる頃にはバテバテで体力のなさを露呈しています。


 私たちがあまりにも体力がないので、エステルさんはちょっとだけ不安そうにしています。

 不満ではなく不安なのは、恐らくいざというときに戦えないと困る、ということでしょう。


 ……やっぱり襲撃や妨害などがあるのでしょうね。


 少なくともエステルさんとイルマさんはそれを想定して傭兵を雇っているのでしょう。


 そして3日が過ぎ、4日目の日中に事件は起こりました。

 ええ、何事もなく、とはいかなかったわけです。


 街道の先で待ち受けるようにして展開しているのはどこかの兵士のようでした。

 ならず者ではなく、然るべき筋に雇われている正規兵のようですね。

 そして戦力の増強のためにか傭兵も雇われています。


 ……見覚えのある顔ですね。


 傭兵ギルドで絡んできた男とそのパーティです。

 私の顔を見て、朝食を床にプレゼントしていた男が嗜虐的な笑みを浮かべました。

 彼のパーティメンバーは特に表情を変えることなく、武器を構えています。


 ……もしかしたら、この護衛依頼を手にとったせいで絡まれたのではないでしょうか?


 戦力を測るため、もしくは依頼を受注しないように仕向けるために。

 彼らは最初からイルマさんとエステルさんの敵に雇われていたのかもしれません。


 兵士たちの隊長が一歩進み出て、声を上げました。


「我らが領地に魔族を入れるなとのご命令だ。大人しく投降せよ!!」


 エステルさんとイルマさんが私たちを不安そうな目で見ますが、こちらはとっくにイルマさんが魔族であることを知っているので驚きもしません。

 平然としている私たちを疑問に思ったのか、エステルさんが怪訝そうな表情を見せましたが、すぐにいつものキリっとした顔に戻りました。


「サトミ、リナリー。奴らは私たちを魔族扱いして王都入りを妨害する敵対勢力だ。連中が何を言っても聞く耳をもたないでくれ」


 ほほう、そう来ましたか。

 あくまでイルマが魔族であることを隠して王都までたどり着きたいようですね。


 リナリーはチラリとこちらを伺いますが、特に何も言いません。

 さてこの嘘に乗ってあげるか、どうかですが……。


「事情を説明してください。イルマさんが夜魔族であることは、出発の前から知っています」


「な……ッ!?」


 エステルさんは見るからに狼狽して言葉が出ない様子ですが、イルマさんは「まあ」と口元に手を当てるだけで軽く驚いて見せました。


「では私の種族を知りながら護衛を請け負ったというの?」


「そうですよ。特に問題が起こらなければ知らないふりをして仕事を完遂するつもりだったのですが……」


「そう。そんなことより、一体どうやって私の種族を知ったのかしら?」


「スキルですが詳細は秘密ですよ」


「スキルね。なら誰にでもバレるというわけじゃないのね。安心したわ」


 イルマさんは何も気にしていない様子ですが、エステルさんはそうではありませんでした。


「一体なんのスキルだ!?」


「秘密ですってば。少なくとも私以外に持っている人はいないくらい希少なので気にしなくてもいいと思いますよ」


 ほぼ私しか持っていませんと言い切れるのですが、異世界召喚がある以上はふたり目の出現もありえなくはないでしょう。


「希少か……それで、なんというスキルだ」


「そんなことより、あちらの方々は放っておいてよろしいのですか?」


「む……?」


 街道の先では言い合いをしている私たちを、仲間割れの兆候があるとみなしているようで、気楽な雰囲気で待っています。

 このまま私たちが投降すれば、相手はエステルさんのみ。

 いくらレベルが高くてもひとりであの数を相手にするのは厳しいでしょう。


「そうだな。何事もなければ王都まで、と言っていたが。状況は見ての通りだ。君たちはどうする?」


「事情を説明してもらえればそれ次第ではこのまま護衛の依頼を続けても構いませんよ。ですが納得のいく事情でもなければ、私たちはここで降ります」


「……そうか」


 エステルさんは難しい顔で黙り込んでしまいましたが、イルマさんがため息混じりに口を開きました。


「エステルからでは話しづらいと思うから私から説明するわ。まずは黙っていてごめんなさい。私は――」


 修道院で拾われたこと。

 修道院の教えによって殺されそうになったこと。

 王太后により命を救われたが、その王太后が最近、急逝してしまったこと。

 それでまた命を狙われるようになったので、王都の国王を頼るつもりでいること。

 夜魔族としての成長が来て、男を見境なく殺しかねない状態にあること。


 そして恐らく、神殿に諭された近隣の領主が出兵したのだと言いました。


 ……ふむ、別に殺されるような悪い子じゃないようですね。


「エステルさん、今の話は本当ですか?」


 念の為、エステルさんの反応を伺います。

 この人は素直なので、今の話に嘘があれば顔や態度に出ると思ったからですが。


「ああ、本当だ」


 どうやら嘘はない様子。

 となると仕事を放り出すのは気が引けますね。

 後悔の残らないように、仕事を全うすることにしましょう。


「分かりました。リナリー、私はこの仕事を続けようと思いますが、あなたの率直な感想や意見をください」


「この仕事を続けることに問題ないと思います。サトミさんが宜しいのであれば、私もご一緒させていただきます」


 リナリーの倫理観に照らしても問題ないらしいですね。

 ならば決まりです。


「決まりですね。おふたりとも、あの連中をやり過ごして王都へ向かいましょう」


「おお、本当に私たちに協力してくれるのか!?」


 エステルさんが喜色を浮かべて問いました。


「ええ、それが仕事ですから」


「ありがとう。この礼は王都についたらできる限り返す」


「仕事としての依頼料はもらっていますが、事前の情報と条件に不備があったので何らかの補填は欲しいところですね」


 この国の王様にコネがあるならそれなりの報酬の増額も見込めます。

 ガメつくわけじゃないですが、働いた分は正当な対価を頂きたいものです。


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