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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
カタリナ・リィン

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 傭兵ギルドに戻り薬草の納品を終えて、私たちは宿に戻りました。

 予定より魔術の習得が早く終わったため、次なる講義を行うことになったのです。

 リナリーは意に染まぬ奴隷という身分にされながらも、何故か私の魔術教育に熱心ですね。

 もしかして私が気づかないうちに命令をしていたのでしょうか?


「サトミさん。今日は魔術のスクロールについて講義します」


「あの巻物の中身の話ですか? あれ何が書かれているのか少し気になっていたんですよ」


「はい。それについてもお話させていただきます」


 リナリーが言うには、魔術の設計書のようなものがスクロールに書かれており、私たちは特殊な装丁をなされた外側に触れることで〈インストール〉を行うことができるのだそうです。

 ちなみにリナリーが暗記している〈フレイム・アロー〉のスクロールの中身を書いてもらいましたが、……どうやら魔法陣と文字列の組み合わせで成り立っているようですね。


 もしも文字列のみで成り立っているようなら、プログラミング技術を活かして新たな魔術開発などもできたかもしれませんが……現実には何もかもが理想通りというわけにはいきませんね。


 ただ説明されると、規則性のある人工言語であることが分かりました。

 魔法陣という図形を用いたプログラミング言語、として考えれば、私の手の入る余地もなくはないと言ったところでしょうか。

 新しい言語の習得だと思えば、今までも何度も通った道ですので、なんとでもなるでしょう。


 私が構文について幾つかの質問をすると、リナリーは眉を寄せて半目でこちらを見下ろしました。


「……随分と理解が早いようですが、サトミさんのスキルですか?」


「スキルというわけではないですね。ただ技術という意味では私の得意分野です。このような人の作った規則性ある言語を扱う職人だったんですよ」


「そういえば頭脳労働の職人でしたか? ……魔術の設計に通ずるものがあったのでしょうか」


「そうですね、共通点は幾つもあります。ただし魔法陣は未知の記述方法なので、そこが厄介そうですね」


「なるほど」


 リナリーはひとまず納得して、説明の続きをしてくれます。

 おっと、やや難易度を上げてきましたよ?

 今までは優しく教えてくれていたのですね。

 似たようなことを経験済みとあらば即ハードルを上げていく辺り、教師向きなんじゃないでしょうかリナリー。


 その日は久々に楽しい講義になりました。

 新しいプログラミング言語を覚えることは、私にとっては武器が増えたような感覚になり、結構楽しめるものなのです。


     ◆


 魔術の入れ替えのため、あまり進んで行きたいとは思わない魔術師ギルドに行くことになりました。

 下位属性の攻撃魔術が思いの外、あっさり習得できてかつ高威力というわけで、もっと高度なものを練習することになったのです。

 高度な魔術ということは効果も高いわけで。

 楽しみですねえ。


「こんにちは。スクロールをお借りしたいのですが」


「サトミ様ですね。ギルドマスターより魔術師ギルドの業務を無償で行うようにと通達されています。どうぞお好きなスクロールを選んで下さい」


 記入用紙を渡されたので、リナリーに任せます。


 ちなみに私の魔術の習得容量はかなり大きいかもしれない、とは一応リナリーには話してあります。

 〈アンインストール〉せずに今回の魔術をすべて習得すればほぼ確定的だとのことなので、これはひとつの試金石でもあるのですよ。


「お持ちしました」


 受付嬢がスクロールを抱えてカウンターの上に積みます。

 いやあ今回も結構な量ですね。

 では早速、〈インストール〉していきましょうか。


 ……。

 …………。

 ………………。


 はい、何の問題もなくすべての魔術を〈インストール〉できました。

 リナリーが「すべて習得できたのですね」と呆れながら言いました。

 はい、相変わらずの常識外れで申し訳ないことです。


「では、ありがとうございました」


「はい。またのお越しをお待ちしています」


 そういえばギルドマスターは出てきませんでしたね。

 また出てきたら鬱陶しいなあ、と思っていたので良かったのですが、ちょっと拍子抜けです。

 さすがにギルドマスターともなると忙しいのでしょうか。


「リナリー。ついでに薬草採取をしつつ、魔術の訓練をしましょう」


「そうですね。ただ威力が大きいので、森を破壊するのは気が咎めます。魔物を呼び出してそれに撃ち込む練習をしてはいかがでしょう」


「ああ、それはいいですね。経験値も稼げるし、動く的に当てる練習にもなります」


「普通の魔術師は護衛がいなければできないので、効率のいい訓練方法が取れるのは幸いですね」


 薬草採取は常設依頼なので、傭兵ギルドには寄らずに森に向かいました。


     ◆


 さて、何を呼び出しましょうか。

 ジャイアントラットは弱いので、そろそろ経験値効率が悪くなってきた頃でしょう。

 一段階上のエネミーというと……ファングボア?

 今の私がどこまで戦えるのかは分かりませんが、一応、やってみましょう。


「リナリー。これからファングボアというエネミーを呼び出します。凶暴なイノシシというだけなので、魔物ではないかもしれませんがジャイアントラットより手強い相手です」


「あの巨大ネズミでは大して訓練にならないと思っていたので、イノシシならちょうど良さそうですね」


「そうですね。魔術の訓練ですが、まず剣だけで倒せるか確認したいと思います。剣だけで倒せるなら、魔術に失敗したところで対応可能ですからね」


「なるほど。ではこの前のように剣だけでは無理だという場合には……」


「はい。私は全力でその場を離脱しますので、リナリーが倒して下さい」


「分かりました」


「ではいきますよ」


 ポチっとな。


 グルルルル、と低い唸り声を上げながら地面を踏み鳴らす巨大な牙をもったイノシシが、こちらを上目遣いに睨みながら今にも走り出そうとしています。

 うわ、ネズミのときにも思いましたけど、リアルだと怖いですねえ!


「はああッ!」


 裂帛の気合とともに鉄剣を振るいます。

 傭兵ギルドの教官殿に教わったパワー重視の剣閃は、見事にイノシシの頭部を真っ二つに両断しました。


「……ふう」


「……まったく。サトミさんには驚かされます。訓練場ではみるみるうちに傭兵ギルド職員の剣について吸収し、今それを実戦で発揮できるのですから」


「いやあ、本当は内心ビクビクしながらですよ。接近せずに魔術で倒せるならそっちの方が私向きです」


「そこは同感ですね」


 ふたりでクスクス笑いながら、イノシシのドロップに視線をやります。

 それは大きめのブロック肉でした。


「死体が残ればもっと多くの部位の肉を得られたでしょうけれど、解体の手間もなく連戦できることを考えれば、これはこれでいいことなのでしょうね」


「単に焼くだけでも美味しそうですね。インベントリに仕舞いましょう」


 どうやら今日はシシ肉祭りになりそうですよ!?

 ちょっと食べきれないほどの量がドロップしそうなのですが、インベントリの中は時間経過がないと思うので、いくらあっても悪くないでしょう。


 さて剣だけで倒せたので、魔術の訓練です。


 今回、私が〈インストール〉したのは複数の属性を混じえた魔術や、単純に高度化した魔術などです。

 順番に試していきましょう。


 さあイノシシくんに登場願いますよ。

 ポチっとな。


 相変わらず臨戦態勢で現れたイノシシに、魔術を構えます。


「我が魔力2を捧げる。泥沼に嵌まれ〈スワンプ〉」


 イノシシの足元が急激に泥濘と化し、沈み込んでいきます。

 バチャバチャと泥を跳ねながら暴れだし、脱出を試みようとしています。

 いけませんね、このままだと飛び出してきて体当たりを受けてしまいそうです。


「我が魔力2を捧げる。斬り裂け砂嵐よ〈サンド・ストーム〉」


 ゴウッ! と黄色い竜巻がイノシシを切り刻みました。

 うわ、木の上にまで砂の竜巻が登ってしまいましたよ。


 しかし無事にファングボアを仕留めることができました。

 一撃で無力化しきれなかった〈スワンプ〉はもう少しイメージを膨らませて、広めの底なし沼をイメージした方が良さそうですね。

 あれでは浅すぎます。

 もがけばもがくほどに沈んでいく、そういう沼を造り出したいものです。


「サトミさん、〈サンド・ストーム〉が目立ちすぎました。その肉を拾って、場所を変えましょう」


「あ、そうですね。誰か来たら面倒ですしそうしましょう」


 またしてもブロック肉をドロップしたので、インベントリに仕舞います。

 泥が跳ねて汚れてしまったので、新しい魔術〈クレンリネス〉で汚れを浄化します。


 ちなみに〈スワンプ〉は地属性と水属性の複合魔術、〈サンド・ストーム〉は地属性と風属性の複合魔術、〈クレンリネス〉は光属性と水属性の複合魔術です。


 血の跡は泥沼に同化して土に戻ったので、魔物が寄ってくることはないでしょう。

 ネズミ退治のときはハイエナのように肉食動物が現れたので追い返すのにリナリーが威嚇してくれたものです。


 さあ、まだまだ習得した魔術がありますので、引き続き訓練していきましょう!


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