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異世界デバッガのベリーイージー冒険譚  作者: イ尹口欠
カタリナ・リィン

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「我が魔力1を捧げる。光あれ〈ライト〉」


 蛍光灯のような白い光が現れました。

 今日習得したばかりの魔術です。


 〈ライト〉の持続時間は30分程度ですが、魔力を多く捧げればそれだけ持続時間は伸びますし、光量を上げるのにも魔力を注ぎ込むことができます。

 ただしリナリーが言うには、訓練次第で同じ魔力で高い効果を発揮させられるそうなので、魔力を多く使うことはあまり褒められたものではないそうです。


「あの、サトミさん」


「なんでしょうリナリー?」


「もう夜も遅いので〈ライト〉の魔術は控えていただけるとありがたいのですが」


「あ、ごめんなさい。眠りづらいですよね」


「始めて魔術を習得したら皆そうなりますから、お気になさらず」


 子供扱いされてしまいましたよ!

 外見は15歳ですが、中身は三十路手前なんですがねえ。

 あ、そういえばこの世界では成人が15歳だったりするのでしょうか。

 だとすると本当に子供扱いされましたね……。


 私は〈ライト〉の魔術を打ち切ると、ステータスを確認します。


《名前 サトコ 種族 人間族 年齢 29 性別 女

 称号:異世界のデバッガ

 レベル 3 筋力 7 敏捷 8 精神 20  感知 11

 【若返り(15歳)】【身体能力強化】【精神能力強化】

 【魔力感知】【魔力操作】【剣】【光魔術】【闇魔術】

 【地魔術】【水魔術】【火魔術】【風魔術】【デバッグツール】

 〈ライト〉〈ヒール・ライト〉〈キュア・ポイズン〉

 〈グラビティ・バインド〉〈センス・イビル〉〈マインド・プロテクション〉

 〈ストーン・ハンマー〉〈ドロップ・サンド〉

 〈ウォーター・スピア〉〈クリエイト・ウォーター〉

 〈ファイア・ランス〉〈ファイア・ブラスト〉

 〈ウィンド・セイバー〉〈ブロウ・ウィンド〉》


 傭兵ギルドの訓練で【剣】スキルを習得し、魔術を習得したことで各属性の魔術スキルを習得しました。

 意外とチョロいですねスキル習得。

 基本的なものばかりだからかな?


 魔術に関してはリナリーが選んだ初心者ラインナップです。

 光は灯りと回復魔術、闇はデバフと精神魔術、下位属性は攻撃魔術とそれぞれの属性を生み出す基礎魔術。

 これらに習熟したら、不要な魔術を〈アンインストール〉して新たに高度な魔術を習得するのだとか。


 結構長い目で見てくれるようでありがたい限りです。


 しかしリナリーはこれらの魔術をすべて私が〈インストール〉に成功するとは思っていなかったそうなのですよ。

 これら14個の魔術は明らかに人間族の容量からすると幾つかは入らない計算らしいです。

 私が開発したゲームでは魔法はかなりの数を習得できましたから、もしかしたら私は大量の魔術を習得できるのかもしれません。


 いやほんと【デバッグツール】様様ですねえ……。


     ◆


 傭兵ギルドにやってきました。

 魔術は一通り使えるはずですが、街中で攻撃魔術を試すのは基本的に駄目なんだとか。

 当たり前のことですね。


 ちなみに魔術師ギルドには攻撃魔術の練習場があるそうですが、行きたくないという両者の意見の一致をみたのでまあそんな感じです。


 さて依頼ボードの中で適当な依頼を探します。

 Fランク依頼だとなかなか討伐系はありませんね。

 薬草採取を受けておき、街の外に出る口実にします。


「すみません、この薬草採取を受けたいのですが」


「はい。そちらの依頼は薬草の葉5枚で中銅貨1枚の依頼となっております。常設依頼なので、受注しなくても薬草の葉を持ち込めばいつでも買い取れますよ」


「あ、そうだったんですか」


「はい。それから薬草についてはこちらに絵がありますので、よく特徴を覚えておいてくださいね」


 私はその絵をスクリーンショットにして保存しました。

 【デバッグツール】にはデバッグ時に対応したエビデンスを残すためにこのような機能もあるのです。

 プレイヤーのスクリーンショット機能だとゲームがフリーズしたときに使えませんから、別にデバッグコンソールから呼び出せるスクショ機能が搭載されているんですね。


「はい、大丈夫です」


「では頑張って下さいね」


 私たちは街を出て森に向かいました。



 ひとまず薬草の採取を優先し、魔術の訓練はその後という話に落ち着きました。

 受けると言ってきた手前、この簡単そうな薬草採取すらこなせないようでは、受付嬢の中での私の価値は大暴落すること間違いなしでしょう。


 森の中でオブジェクト探査を使用します。

 オブジェクトの探索は最大で半径50m以内のオブジェクトを列挙する機能で、……うわあ、さすがに森の木々がヒットしますか。

 木材として利用可能なのでしょう、その証拠に使い道のない雑草類はヒットしません。


 薬草は程なくして見つかりました。

 群生しているので、葉っぱを切り取ればあっという間に50枚になりましたよ。


「サトミさん、随分とスムーズに薬草を見つけましたけど、まさか」


「はい。【デバッグツール】のチカラですよ」


「薬草を探す効果まであるのですか? 一体全体、そのスキルはなんなんですか……」


「そういうものだとしか。できることしかできませんよ? 現に魔術の習得はリナリーに頼っているではありませんか」


「そういえばそうですね。そのスキルで魔術を習得できないのですか?」


「こちらの魔術とは異なるものなので、多分おかしなことになります」


 ええ、出来ますよ。

 スキルや魔法をプレイヤーに任意に習得させる機能はあります。

 ただしこの世界で互換性があるのか分かりませんので、……自身を人体実験に供する気にはなれません。


 ステータスをいじることもできますが、筋力を99にした途端に身体が爆発して死んだら嫌じゃないですか。


 さて薬草は十分に集めたので、ひとつ試しに【デバッグツール】で薬草を生成してみます。


 ……あ、普通に出来ますね。


 私が何もないところから薬草を取り出したことで察したのでしょう、リナリーがガックリと肩を落としてしまいました。


「できるなら最初からそれをすれば良かったのでは?」


「実物を見ないとこれが同じものかどうか分からないでしょう?」


 そういえば見た目だけが同じで効能が違うということも考えられます。

 迂闊に外来種を放置するわけにもいかないので、これはインベントリに入れて削除しておきましょう。


「前にも言いましたが、できれば普通に働いてこの街の経済を回さなければならないのですよ。私が何もないところからポンポン物を生み出して売りさばいたり、お金を直接取り出したりすると最終的に経済的な混乱を招くことになるのです。今は初期投資期間として使いまくっていますけど、いずれは危機的状況にでもならない限りは自重するつもりですよ?」


「そうですか。サトミさんは随分と深く考えてらっしゃいますね」


「そんなことはないですけど……」


 そんな話をした後、ようやく魔術の練習を始めます。


「そこの木に火属性以外の魔術を撃ち込みましょう。火属性は火災を招く危険があるので、使う場所には注意してください。森の中の生木が燃えることはないと思いますが、それでも枯れ草などに火が燃え移ることを考えれば危険ですので」


 人手の入っていない森には枯れ葉や育ちの悪い木などが散見されます。

 それらはさぞよく燃えることでしょうから、火属性は森では使わないべきでしょう。

 というか火属性、どこでなら使えるんでしょうか。


「確実に当てられるようになったら魔物の胴体だけに当てて、後で水を撒くなりすればいいんです。ただ今のサトミさんではどこまでできるか分かりませんし、魔力不足で水が出せなければ火事になりますから」


「なるほど、私次第なのですね」


 さっそく〈ストーン・ハンマー〉を木に向けて撃ちます。


「我が魔力1を捧げる。石の鉄槌〈ストーン・ハンマー〉」


 ちなみに魔術の「わが魔力を捧げる」は共通ですが、その後の魔術名の前の呪文はなんでもいいらしいですよ?

 本人のイメージが大事とのことなので、適切な呪文は個人によって異なるのだとか。


 人間の頭ほどの四角い石の塊が出現し、平らな面で木の幹を打ち付けます。

 ドグシャァッ!! と派手な音とともに木は幹を砕かれてバキバキと折れて倒れました。


「……凄いですねえ、こんなに威力があるとは」


「そんなわけないでしょう。下位属性の魔術でこの威力を出すには、血の滲むような努力をした熟練の魔術師くらいのものです。なぜ一発目でこんな威力が出るのですか」


「普通に撃ったのですが……おかしいですねえ」


「ちなみにサトミさんの精神はいくつありますか? 200くらいですか?」


「いいえ、20ですよ。あ、【精神能力増強】があるからそれのせいかも?」


「いいえ、幾らスキルがあってもせいぜい精神は30相当でしょう。ということは精神ではない……本当に熟達した地属性の魔術をいきなり使える?」


 恐らくはゲームなどの派手なエフェクトに慣れた日本人のイメージ力の賜物でしょう。

 そうすると他の魔術の威力も似たり寄ったりでしょうか。


 結局、その日は攻撃魔術がそれぞれリナリーの知る一般的なものより遥かに威力のあるものだということが判明し、火属性の魔術は当面使用禁止とされたのでした。


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