第玖陸話 Truth
「おーい。宗一郎君。出てきてくれないか。
私は怒ってなどいないよ。ちょっと気晴らしに出てるだけなんだろ!?」
赤僧ヶ池のほとりでは『あいつ』が宗一郎を探し回っていた。
必死で猫撫で声を出してはいるが、声は震え、目は血走っているのだった。
「君とは一度、じっくりと、これからの事を話し合おうと思っていたんだよ。
いい機会だ。膝を突き合わせて、語り合おうじゃないか。」
いくら、叫んでも返事は無い。
「いい加減にしたまえ。これが最後のチャンスだよ!!
さもなくば、私が元の世界に出た時に、君が大事に思っていた村の人達がどうなっても知らないぞ。」
返事があろうはずもない。
「わかった。君に頼らずとも、元の世界に戻る方法はあるんだからな。
簡単に殺しはしない。生き地獄をたっぷり味わせてから、じっくりと最悪の死を楽しませてやる!
きししししシしししししししししっしゃしゃしゃしゃしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
奇声を上げながら、村に戻っていった。
「首領様。では、『捏造された歴史』と言うのは?
玄爺が尋ねている。
「照様は、トロメキに来た事を後悔などなさっていなかったのだ。」
「どういう事ですか。」
「照様の望みは、実政様のすこやかな成長と幸せのみだったのだ。その為、政略結婚や暗殺などが当たり前に行われていた都で生活する事を望んでなどいなかったのだ。」
「そうだったのですか。」
「ああ。だから、貧しくも穏やかなトロメキでの暮らしに満足しておられた。
しかし、他の陣家の者達は違った。復権を求めて『手柄』を立てようとしたのだ。」
「手柄と言っても、こんな山奥では宝探しでもする以外に、手柄などありそうにないですな。」
「そう。だから照様に目をつけたのだ。照様の生家である女木家は、四十万の北に浮かぶ孤島に暮らす一族だったのだが、その祖先に鬼がいると言われた曰く付きの一族だった。」
「『鬼』ですか。本当にそのような者がいるのでしょうか?」
「千年も前の事だ。本当の所は分からない。だが、今よりも遥かに強い異能の能力者がいた時代だ。鬼と呼ばれる程の者がいたとしても不思議ではない。」
「などほどですなあ。」
「照様は女木家の中でもとりわけ強い『力』を持っておられたそうだ。しかし、生来の優しさもあって、多くの人々を傷つける、強すぎる力をひた隠しにしておられたのだ。
しかし、それを知る者が陣家にいた。」
「もしかして・・・・」
「そう。照様の夫にして、実政様の父、陣頼政。当時の陣家首領だ。」




