第漆話 Excuse
さて、いろいろありすぎて、頭を整理しないとな。
まず、陣とその手下たちだが、どうやら黒幕がいるらしい。小杖の言う森の中の奴がそれかはわからないが、陣の結界がほぼ破られたタイミングで、手下たちがおかしな力を持ち、陣を襲っている。これは仕組まれたものとみて間違いないだろう。
となると、小杖を狙わせたのもその黒幕だろう。陣が勝てばよし。負ければ手下たちに始末させ、戦いで傷つくであろう小杖に止めを刺す為、陣の結界が弱まるのをトリガーに、なんらかの仕掛けをしていたのではないだろうか。
小杖が俺たちにとっては必要だったように、逆に邪魔になる奴がいてもおかしくない。どんな狙いがあるのかは分からないが、是が非でも黒幕に訊いてみたいものだ。
それと、先に陣を襲ったのは偶然かもしれないが、よほど口を封じたい理由が陣にもあったのかも知れない。
さっきの『へっころ玉』だが、あれは水晶だ。通常よりも高温で結晶化した水晶は2~3mmくらいまでしか大きくならないが、純度は高くよく光る。そろばん玉のような形も高温水晶の特徴だ。
水晶は魔術を媒介する素材としてはメジャーなものだ。水晶球なんて魔術師の代名詞みたいなものだしな。
へっころ玉では魔力を込めるのに小さすぎるが、千個集めればかなりの力を生むだろう。一般人を操るくらいならできるのではないか。だとすれば、彼らに怪しまれず、千個のへっころ玉を持たせた人物がいるはずだ。それを探りたい。
陣たちに全部を確認せず、俺の想像に留めているのは、こちらが分かった事の全てを、黒幕に知られたくないからだ。俺の答案が何点だったのかは、全部終わってからで構わない。万が一100点で、それがバレてしまったら、尻尾を出すこともなくなってしまうだろう。
というわけで、つかず離れずの距離から、探ってみることにしたのだ。
そして、最大の難問があの結界の暴走だ。あれは俺たち3人を中心に発生している。小杖を同行に加えたのが一つの要因になっている可能性は高い。だが、3人いればいつでも発動するというものでもないだろう。
敵に襲われていることが条件なのか、へっころ玉に込められていたかもしれない魔力が影響しているのか、それとも、あの場所でなければいけないのか。今のところ皆目見当がつかない。
ただ、俺が見た『1600』という光は、重大なヒントだと思う。もし、あの瞬間だけ俺の守護数が1600だったとしたら、普段23万Ak程度の俺の結界の力は、170億Akを超えていたことになる。そんなもん、俺が扱えるわけがないので暴走して当たり前だ。
そして、もう一つ『1600』という数字には、ひっかかるものを感じている。もし俺の予想が当たっていれば、小杖の守護数も見当がつく。まあ、そのうち確認できるだろう。
もし、あの暴走を操れるようになれば、あらゆる超常の力に対し、俺たちは無敵の存在になるだろう。是が非でも発動条件は解明しておきたいのだ。できればもう一度、あの場面を再現してみたい。
というわけで、2つの理由から、しばらくこの付近に留まる必要ができたのだった。
あと、陣にぶん投げられたロケットを探さないとな。簡単に見つかるといいが。
「謝って済むとも思っておりませんが、先ほどは申し訳ありませんでした。」
陣に『浩二』と呼ばれていた人物。『岩川浩二』の案内で、紹介された宿へと向かっている。年の頃は30前後だろうか。
「坊ちゃんにも、我々にも殺意なんてものはなかったんです。ただ、坊ちゃんは自分の力を誇示することに執着しておりまして、今回の巡礼はそのチャンスだと思ったようなのです。」
「どうして、あの子を狙ったんだ?」
「私たちは、急に坊ちゃんに呼び出されてついていきました。ご自分で見つけられたのではないでしょうか。」
それはどうだろう。陣と小杖では探知結界の広さが違いすぎる。陣が先に発見できたとは考えにくい。小杖には後できいて見よう。
「銃を撃ったのは、『翔太』という一番若い奴で、銃を持つのも初めてで舞い上がっておりました。後で重々、罰を与えるつもりです。」
「その辺は任せるけど、ほどほどにな。で、『坊ちゃん』っていうのは?」
「陣家はこの郡部一帯を治めている豪族です。あの『大災害』の時、陣家は山奥の『トロメキ』という小さな集落の首長でした。道もついていないような集落で、出入りには『野猿』を使っていたそうです。」
野猿とは、谷の上空に張っておいたロープにゴンドラを取り付けて渡る移動手段のことだ。
「そんな場所なので、もともと自給自足に近い暮らしだったらしく、『大災害』で物流が途絶えてもあまり影響はなかったそうです。地形的にも天然の要塞になっており、妖獣の進入も僅かだったとか。その上、陣家は代々、異能者を生む家系だったのです。」
「さっきの『坊ちゃん』もその一人というわけか。」
「はい。先代当主は、『大災害』で混乱していた周辺の人々をトロメキに招き入れつつ、自分は外に出て異能の力で妖獣たちと戦い、その中で命を落としたそうです。現当主は先代の意思を継ぎ『大結界』が張られるまで集落の人々を守り続け、危機が去った後は、廃墟になった町の再建に協力しました。現在はトロメキを離れ、『二名』の町の中心部に屋敷を構えています。」
なるほどな。この地域で陣家に対する信頼は絶大というわけか。
「しかし坊ちゃんは、生まれ持った異能の力は現当主を上回っていたのですが、憚らず申しまして、自惚れてしまわれまして・・・」
「まあ、平和になればヒーローも生まれにくいからな。」
「その通りです。平和になったことで、手っ取り早く名声を上げる手段がなくなってしまい、あのようになってしまわれました。」
それはそれで、本人の資質の問題だろう。名声を得られる戦いに勝利したとしても、その分、暴君になる可能性はより高くなるだろう。それよりも、誰かにお灸を据えられる必要があるんじゃないだろうか。
今はこれ以上聞かないようにしておこう。どこで、どのように話が伝わるか分からないからな。
その後は、近くにいい温泉があるとか、どこそこの饅頭が旨くて名物だとか、『二名』の観光案内のような話が続く。その中で『千願平』と『へっころ玉』も出てきた。
「この左手の林に入っていく道を登っていくと『千願平』です。そこで拾える、『へっころ玉』と言う光る石粒を千個集めて、正体不明の流行り病が治ったという話があり、少しずつ掘り出しては小瓶に詰めて、土産物として売ってます。」
売っているのなら、集める必要すらないってことか。
「病気が治ったって言うのは、そんなに大昔ってわけじゃないらしく、うちの爺さんが子供の頃の話らしいです。それまでは『千本平』と呼ばれていたそうです。」
「というと、『大災害』よりは前だな。」
「そうですね、じいさんが子供の頃って言えば、6~70年前ってとこですね。」
つまりその頃から、この町では、へっころ玉を身に付ける習慣があったのだ。それを利用されたらしいな。
「あの家です。」
前方に立派な合掌造りの建物が見えてきた。
「元は蝋燭を作っていた庄屋の家だったそうです。今は『遍路宿』として陣家が運営しています。」




