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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第陸話 Accidental

ピーーーーーーーーーーーーーン!!


 耳を劈くような高周波の音が突然襲ってきた。耳鳴りの強烈な奴だ。

 同時に、小杖の結界が爆発的に広がっていく。

 いや、彼女だけではない。俺と福子の結界もだ。制御できない。力が俺の中で制御を失って荒れ狂い、体から溢れ出ていく。


 音はさらに大きくなる。本来は数m程度までしか広がらない守護結界が、軽く100mは超えている。力が暴走したのは明らかだった。しかし、それならなぜ俺たちは平気なんだ?


 福子も小杖も、驚いてはいるが無事だった。それどころか、小杖の腕の傷がみるみる治っていく。


 大男は完全に限界を超えたようだ。震えが止まっている。気絶したのだろう。

 様子がおかしかった男たちは、俺たちの結界に飲み込まれると、全員動きを止めてその場に崩れ落ちた。さっきまでの結界も、変な気も消えている。


 今、正気を保っているのは、俺と福子と小杖だけ。福子を促して、小杖に歩み寄る。


「これ、君の力?その様子じゃ違うようだね。」

「あなたたちの力でもないのね。それなら一体・・・」


 俺はふと思い、懐から守護石の入った袋を取り出して、中を確認する。すると、元々あった『肆拾』の文字に重なって『1600』と言う数字が光っていた。


「これを見てくれ!!」


 驚いて2人に見せようとするが、慌てているので袋から上手く取り出せない。

 その間に、急速に光が薄れてきた。広がった結界も縮んでいる。あっというまに、守護石の光も、力の暴走も収まってしまった。

 ようやく守護石を袋から取り出せたのだが、光る数字は消えていた。


「なにがあったの?」


と福子が問う。どうやら、一度、腰を落ち着ける必要がありそうだな。

それと、あいつらをどうするかだが・・・。


眼下には、突っ伏して全く動かない大男と、十数人のその手下たちが転がっているのだった。


 俺たちは、小杖にかいつまんで事情を説明する。小杖が自分たちに必要な人間だと言うこと。小杖に危険が迫っていたこと。そして、それらを福子の能力で知ったことなどだ。


 さっき、結界が暴走した時、俺たちと小杖の結界は、互いに干渉していないようだったが、やはり、福子と小杖が同行の契りを済ませていたためだった。

 俺と福子は元々同行者なので、自動的に俺と小杖も同行者になる。これで『同行三人』というわけだ。


 そして、詳しい話は後ですることにして、まず、目の前の問題を片付ける同意を取り付けた。


「おい。そろそろ、起きてくれないか?」


 持っていた水筒の水を、大男の後頭部にかける。男は一度ビクッとすると、ゆっくりと顔を上げた。こいつ、途中から目覚めてたな。


「お前、『陣』だろ。」


 どこぞの覆面男の正体をバラすように言い放ったつもりだったが、さも、知っていて当然のように答えやがった。


「いかにも。俺がこの一帯を統べる陣家の次期党首。じん岳斗たけとだ。」


 やはりな。党首とかなんとかはどうでもいいが、巡礼の最初に()()()()()()()()()()のは『白杖小杖』と『陣なんとか』の2名だったのだ。


「あの子を襲った理由は?」


「遍路が潰しあうのは当たり前の事だからだ。」


わるびれずに答える。


「一般人の手下を使うのは御法度だろ?殺して口を封じるつもりだったってことだろうが!」


つい、語気を荒げてしまった。


「い、いやっ、そんなつもりは毛頭ない。陣家の力を見せ付けてやれば、恐れをなして口をつぐむだろうと・・・。それに、俺はあいつらに攻撃を指示したことなんかない。『82』の俺がそうそう負けるわけがないんだからな。」


 たしかに、あの戦いぶりだ。そう考えるかもな。


「しかし、来るなとも言わなかったわけだ。『手下が勝手にやった』ならお前は関係ないもんな。万が一『83以上』に出くわした時の保険ってわけか。」


 関係ないでは済まないのだがな。


「まあな。さっきも、俺はタイマンのつもりだったが、あの女が手下たちに向かって行ったから、あいつらが反撃しただけだ。大方、俺には勝てないと踏んで、逃げようとしたんだろう。」


「その手下たちだが、さっきのはなんだ?あいつらも、なんらかの力を持っているようだった。それに、お前を殺そうとしていたな。」


「お前たちが操ったんじゃないのか!?あいつらは、代々、陣家に仕えてきた使用人たちだ。特別な力なんて持っていないはず。俺も命を狙われるいわれは無い!」


 ダメなボスの自覚はないみたいだ。それを差し引いても、殺すほどの恨みがあったと言うよりは、操られていたと見た方が自然だったな。


 俺は手下たちの方に歩き出す。


「おーい。こいつはもういいの?」


 福子が声を上げる。


「その前に、調べたいことがある。適当に見張っててくれ。」


「りょーかい!」


 陣もすでに福子の攻撃力は十分理解している。彼女に見られていれば、迂闊には動かないだろう。


「白潰さんはこっちに来てくれ。」


 小杖に声をかける。後に「小杖」と呼び捨てになるのだが、今はまだよそよそしいのだ。


「妖しい感じは残っているか?」


「あの人達からは感じないけど・・」


と言って考え込む。


 俺は小杖に近づいて小声で尋ねる。


「森の中か?」


「多分。探知結界の外だから、うっすら気配を感じる程度だけどね。近づいて確かめてみようか?」


「いや、今はいい。」


 どうやら黒幕がいるらしい。

 と言う事は、十中八九、男たちは操られていただけだろうが、念のため警戒しつつ、一番手前の男の様子を確認する。顔に血の気がある。死体が操られていたわけではなさそうだ。

 陣を起こすために水は使ってしまったし、さてどうやって起こそうか考えていたが、ふと、男の周囲の地面にキラキラしたものが散らばっていることに気付く。

 拾い上げてみると、3mmぐらいの透明な結晶だった。そろばんの玉のような形をしている。


「陣。これはなんだ?ちょっとみてくれ。」


 福子に促されて、陣がやってくるが途中で躊躇する。手下にまた襲われると思っているのかも知れない。


「大丈夫だ。今は全員気絶しているし、何かに操られていたようだが、変な『気』も消えている。」

「そ、そうなのか?そいつら、無事なんだな!」


 どうやら、そこまでクズってわけでもないらしい。


「へっころ玉だな。」


「へっころ玉?」


「こんなところにもあるとは知らなかったが、町の外れにある『千願平せんがんだいら』に行けば、いくらでも転がってる石粒だ。綺麗だからって、子供が拾って遊ぶくらいのもので価値はない。千粒集めれば願いが叶うって言い伝えもあるらしいから、何かの願掛けで持ってる奴ならいるかも知れん。」


 俺はへっころ玉のあった場所と、他の場所の土をそれぞれ紙に包んで懐にしまっておいた。


「おい、浩二!しっかりしろ。」


 陣は倒れていた男の一人を揺り起こしている。


「う、うーん。」


 浩二が目を覚ます。


「坊ちゃん!ご無事でしたか!!」


「坊ちゃんはやめろ!」


「すいません、つい。社長!ご無事でしたか!」


「なんとかな。それより何があったんだ?」


「なんか火の手が上がった後、拘束が急に解けたんで、負傷者を連れて火から遠ざかっていたんです。」


「そういや、そうだったな。お前たちがいるのをすっかり忘れていたぞ。」


 おいおい。俺が放っていたら、あのまま丸焼きだったのか。


「社長から手を出すなとは言われておりましたが、万が一の事があってもと思い、火の手も落ち着いて来たようだったので、様子を伺おうとしたんです。そうしたら、何かガラスが割れるような音がしたと思ったんですが・・・」


「どうした?」


「そのまま、気を失ったようです。」


 ガラスが割れる音と言うのは、福子が陣の結界を叩き割った音ではないだろうか。だとすると・・・。


「他のみんなも起こすぞ!お前も手伝え。」


「わかりました!」


次々と男たちが起こされていく。


「全員無事です。というか、無事過ぎます!」


「どういうことだ?」


 陣が問うと、


「怪我人が治ってます!」


 俺自身、同士討ちで鮮血が舞うのは見ている。小杖の怪我も治ったのだが、あれは結界が謎の暴走をした影響ではないだろうか。だとしたら、結界が彼らにも影響したのだろうか。しかし、陣を襲っていた時の彼らは、間違いなく結界を展開していた。あれはなんだったのか。


 どうやら、森の中で様子を伺っている奴に訊いてみる必要がありそうだな。


「陣。今夜の宿を手配してくれないか。」


 俺たちがここに来た理由の一端が掴めるかもしれない。

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