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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第伍話 Imprudence

 「おーーーい。小杖こづえちゃん、無事だったよーーー!」


 森に入る前に置き去りにしてきた『同行者』の声が響いた。

 あいつは『福見福子ふくみふくこ』。俺の『同行者』だ。守護数は『肆壱(41)』。親同士が仲がよく、物心つく前から何度も顔を合わせている。俺の親父と、福子のお母さんも、かつては遍路だったらしい。というわけで、今回の巡礼が始まったときから『同行』している。

 福子は先端に『守護石』を取り付けた錫杖を武器にしている。普通、守護石を見せびらかすのは得策ではないのだが、こいつだけは特別なのだ。


 『小杖』ちゃんというのは、大男に攻撃されていた女の子だ。訳有ってこの子が襲われるのを知り、助ける為に巡礼を後回しにして直行してきたのだ。無事ならなによりだ。

 詳しいことは知らないのだが、名前が『白潰小杖しらつえこづえ』ということは知っている。それと、俺たちの旅に絶対に必要な子だってことは。


 大男が放った火は、笹を燃やし尽くして、今は煙が燻っている状態だ。すると、その向こう側にまだ青々とした笹原が広がっているのが見える。

 実は大男が火を放った時には、俺を中心に半径30mぐらいの円周付近の笹を取り除いていたのだ。長めに結んでいた印は戦いの為のものではない。

 笹を無くしたのは幅3mほどなので、風があったら延焼してただろうな。今回は上手く行ったようだが。

 後で自分の周囲5mほどの笹も遠ざけたので、上空から見れば、俺を中心に2重の輪が出来ているはずだ。ミステリーサークルってやつか?


 そういえば、この笹原も森のど真ん中にぽっかりと丸く広がっている。かつて、ここで遍路が戦い、その跡に空き地ができたのかもしれないな。


 そんな事を考えていると、福子と小杖ちゃんがこちらに走って来る。その俺の視界に、あの大男がフレームインして来た。


「おい、そこの男!動くなよ。こいつらがどうなっても知らんからな!!」


『どうなっても知らんのはお前の方なんだがな』


半ば呆れながら、俺は言われたとおりにする。


 「女。逃げても無駄だ。おとなしくこっちに来い。言うことを聞けば危害は加えない!」


と怒鳴ると2人に近づいて行く。俺から見ると、非常に不用意極まりない動きだ。『アレ』にも気付かんのだな。


 福子は大男が間合いに入るのを待って、軽く錫状を振り下ろした。大男は避けようともしない。自分の守護数なら避けるまでも無いと思っているのだろう。しかし、


ガシャーーーーーーーーーーーーーーーーーンンン!!!


 どエラい音がして、大男の結界が完全に砕け散った。



 結界の力の源は守護石にある。守護石は遍路が身に着けていないと力を発揮できないのだが、あいつの錫杖は特別製らしく、錫杖そのものが結界の力を宿すのだ。通常時の結界は遍路の体も守るのだが、守護石の大きさまで凝縮することも可能で、その状態の錫杖に殴られたら、どんな守護数の結界だろうが一たまりも無い破壊力を生む。


 逆に防御力は低いので扱いは難しいのだが、福子の持つ超激レア能力によって、その弱点をカバーしている。ちっちゃいので甘く見られがちだが、存在自体が反則みたいな奴なのだ。


 普通の遍路なら、あの錫杖がヤバい事くらいすぐに気付くので、簡単には当てさせてくれないのだが・・・。


 大男はあまりのことに腰を抜かしている。


「えっ!!」


 小杖が驚きの声を上げ振り返る。


 少し遅れて俺も気付く。結界を持つ者が現れた事に。それも10人以上。


 しかし、今まで感じたことのない不気味な感じだ。普通の遍路ではない。全部で88人しかいない遍路が札所でもない場所にそんなに集まるはずも無い。


 結界の主たちが立ち上がり、笹原から姿を現した。彼らは大男の連れていた手下たちだ。だが明らかに様子が違っている。主人を助けに来た様子は無い。というよりはむしろ・・・。


「お前たち!あいつらを食い止めろ!!」


 俺たちの気が逸れた隙に、大男は信じられない速さで手下たちの方へ走り出した。全く、なんて逃げ足だ。


「間に合え!!」


 俺は大男の足元に筍を出し、また足を引っ掛けてやった。前のめりに倒れた奴の頭があった位置を、直後に猟銃の散弾が襲う。


「ひいっ!!」


 怯えて縮こまる大男に、刀を持った手下たちが飛び掛る。完全に人間のものではない跳躍力だ。しかし、猛然とその前に走りこみ、立ち塞がる少女の影。


 手にしていたのは普通の金剛杖に見えたが、居合いの構えから一閃。間合いに入った相手の刀身を斬り飛ばした。


 よく見ると左手に杖、右手に刀を持っている。仕込み杖だったようだ。


 他の手下たちも、次々と刀を切り飛ばされるが、刀を失った男たちは、素手で殴りかかる。多勢に無勢だ。徐々に後退する。


 大男は情けなく丸まって震えている。


 俺と福子も、急いで駆けつける最中、誰も予想していなかった出来事が起こった。

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