第参陸話 Hole
「おう、よく来たな!!まあ座れ!」
俺たちに背を向けたまま、壮年の男が仁王立ちしていた。身長は2m以上ありそうな大男だ。
川床の丸木橋を渡ってからは、急な登り坂を高度100mほど登り返すだけだった。まあ、俺たちの体力なら、あっという間だな。
集落の人に陣が声をかけると、大急ぎでこの家に通されたと言うわけだ。
「すまんな。父上はわけ有って、あの位置に立ちっぱなしなんだ。」
陣が説明する。つまり、陣の父親でであり、この地域を治めている豪族の首領なのだった。
「失礼します。」×2
俺と司は、置かれていた藁で編まれた座布団に座った。
首領の足元を見ると、床に穴が開いている。
「ちょっと前に、大結界に穴を開けちまってな。仕方なく、自分の足で塞いでんだよ。」
「『ちょっと』って、もう10年も前じゃないですか。」
「もう、そんなに経つのか?」
なんか、親子で凄いことを言っている。10年も仁王立ちのまんまだって言うのも信じがたいが、大結界に穴なんか開くわけが無い。
「一応、この家は結界で囲ってあるから、少しの間なら外せるんだ。ただ、後始末が大変だから、せいぜい、便所に行くくらいが関の山だな。」
「首領様。お久しぶりです。司です。」
「おう!いい女になったようだな!!」
首領は振り向かずに言う。そして、
「翔太がくるんじゃなかったのか?」
!!!
あの現場にいたわけでもないこの人が、なんで翔太の事を覚えているんだ!?
「え、あの、どなたですか?」
「そんなやついたか?」
司と陣は困惑している。
「そうか。わかった。ちょっと岳斗と司は外してくれ。母屋で飯が用意してあるはずだ。そっちの兄ちゃんと話がしたい。」
「待って下さい。ちょっと父上に申し上げたいことがあります!呼び出すなら、もっと穏便な方法でお願いします。この男の連れの2人はどこなんですか!?」
「何の事だ?」
俺は、福子と小杖がいなくなった経緯を話す。
「知らん!」
首領が言い放った。
「浩二に指示したのでしょう!」
「知らんと言ったら、知らん。とにかく、お前は外せ。話は終わりだ。」
首領は有無を言わせぬ迫力で言う。陣もそれ以上は無駄だと知っているのだろう。しぶしぶと従った。190cm以上はありそうな陣だが、首領の前では小さく見えた。
2人が出て行くと、首領は言った。
「あんたのお連れさんの事は知らん。知らんが、全く関係ないわけでも無い。」
「どういう事ですか?」
「お前さんは、翔太を知っているようだな。あっちの2人は知らない様子だった。妹が兄を知らないはずがないだろう。何があったか、まずは話して貰おうか。」
さて、どこまで話してもよいのだろう。この人は信用できるのだろうか。
翔太を覚えていると言う事は、理恵や偽浩二も覚えているのかも知れない。小杖の能力の正体についても、なにか知っているのかも。
洗いざらい、話してみようか少し考えていると、先に首領から声をかけられた。
「二名では、馬鹿息子と住民が世話になったみたいだな。ありがとう。手をつけない無作法を許してくれ。」
口先で言っているようには聞こえない。俺はこの人を信じてみることにした。




