第参話 Bluff
『いかにも木属性』という技を使っていたのは、こいつに俺の守護数を小さく勘違いさせるため。俺の守護数は『肆拾(40)』だ。非常に中途半端な数である。接近戦もまあまあ強いが、専門の奴には歯が立たない。そこで、相手の虚をつくため敢えて守護数20以下のような戦い方をしてみせ、接近戦が苦手なフリをして、油断した相手の懐に飛び込み一気に片をつけるのが、守護数のデカい奴と戦う時の俺のセオリーだ。
もし、相手が戦闘経験豊富な手慣れだったら、俺の法力が下手すぎることに気づかれてしまっただろう。『40』の俺では、威力を下げる事は出来ても、精度を上げる事は難しいのだ。
しかし、こいつは女の子一人を倒す為に、大勢の手下を使っていた。自身が修羅場をくぐった経験は少ないだろう。俺の『草結び』なんて、悪戯みたいな小技に引っかかってすっ転ぶくらい戦い慣れていない。
だが、その未熟さのおかげで、俺のとっておきの一撃も完全には通じなかったのだ。
結界は守る場所に意識を集中することで、一部のみを強化できる。さっき、金棒を逸らした時も、腕の結界をかなり強化していた。より強い結界で相手の攻撃を受けることで、こちらの結界に受けるダメージも軽減しているのだ。
ただ、強化した場所以外の結界は薄くなってしまう。だからこそ、不意を突く事に意味がある。結界の弱くなった部分を攻撃することで、大きなダメージを与えられ、守護数の差を逆転するチャンスが生まれるのだ。
ところが、こいつはそういう結界の操作をしていなかった。多分、できないのだ。手持ちの武器で結界を攻撃する場合、武器も結界で守らないと反作用で武器が壊れ、相手の結界に有効なダメージを与えられない。俺のただのストレートも、こぶしにほぼ全ての結界を集中して放ったものなのだ。
こいつはそんなことも知らない。恐らく、圧倒的な守護数の差にものを言わせる戦いしかしたことがないのだ。手下を使うくらいだからそんなもんだろう。だから、攻撃の隙をついても、体の結界が分厚いままだったのだ。
80番台で確定だな。その強さに自惚れて、鍛錬を怠ったのだろう。しかし、その怠慢によって、今、俺の攻撃に耐えられたのは皮肉としか言いようがない。
俺の一撃を受け、慌てて大男は距離を取る。そして金棒をリーチいっぱいの距離から振り回してくる。
こんな攻撃なら避けるまでも無い!
俺はさっきのストレートを、飛んできた金棒にカウンターで合わせてやった。
バギャーーーーーーーーン!!
派手な金属同士の衝突音を響かせたと思うと、奴の金棒はガラスのように砕け散った。
「なんだとっ!!」
大男がうろたえる。
「勝負あったな。」
俺は悠然と言い放つ。
「クソっ!!」
大男は踵を返して逃げ出そうとする。プライドの無い奴だ。あきれつつも、地中に残っている笹の根を操作し、筍で行く手をふさいでやった。
こいつはもう、負けたと思っているのだろう。そのまま勘違いしていてもらわないとな。
実は、俺の攻撃では防御に専念したこいつの結界を破壊することはできない。逆にこっちの結界が先に壊れてしまうだろう。80番台の結界というのは、40番からするとそれくらい差があるのだ。
それに気付かれる前に、こいつを無力化しないといけない。ただ、こんな奴がおとなしくこちらの言うことを聞くとも思えない。まだ、なにか企んでいるはずだ。
「待ってくれっ!!」
デカい図体で、情けない声を出すもんだ。
「何をだ。お前、さっきの女の子を殺すつもりだっただろ?なら、お前も殺される覚悟くらいはあるはずだ!」
「殺すなんてとんでもないっ!守護石を奪えればそれで良かったんだ。抵抗するから周りの奴らがいきり立っちまっただけなんだ。あいつらも勝手について来ただけで、俺が指図したわけじゃない。頼む!信じてくれ!!」
こんなのに従わされてる連中も災難だな。命令通りに動いただけで、状況が悪くなったら『勝手にやった』だからな。
「あんた『84』だろ。他の80番台は知ってんだ。じゃなきゃ、あのパワーは説明つかない。なら、俺と組まないか?『82』と『84』が手を組めば、巡礼完遂も楽勝だ。報酬は全部やる。俺は名誉だけでいい。な?悪い話じゃないだろ?」
一昔前の悪役みたいなことを言い出したぞ。しかし、泳がせて見る。戦わずに力を奪えるチャンスがあるかも知れない。
「たしかに『84』だ。お前は『82』か。手ごわいはずだ。だが、いまさら俺より下の奴と一緒にいたって、足手まといなんだよな。」
「そんなことは無い。俺には手下がいる。あいつらを使えば、他の奴らの居場所も分かるし、足止めだってできるんだ。それに『85』以上のやつらはどうする?2人がかりなら、簡単に始末できるじゃないか。」
こいつ、語るに落ちすぎだろ・・・。
「これが俺の守護石だ。『同行』の『契り』といこうじゃないか。」
というと、懐から小さな巾着を取り出して見せた。
『同行』とはパーティーを組んで行動すること。お互いの守護石を直接触れさせる『契り』を行うことで、結界同士が反発しなくなり、行動を共にしやすくなるのだ。
「さあ、あんたの守護石も出してくれ!」
こんな見え透いた罠に引っかかる馬鹿がいると思っているのが腹が立つ。結界が無かったら、今すぐぶん殴るところだが、ぐっと堪えてノッてやる。
「変な真似をしたら、すぐにぶっ飛ばすからな。」
と言って、俺も首にかけていたロケット付きの鎖を外す。
「話が分かる男でよかったぜ。」
奴はでかい手のひらに巾着を乗せて、こちらに腕を伸ばす。その巾着に接するように、俺は鎖を垂らして、ロケット部分を奴の手のひらに乗せてやった。
ぶんっ!
「ぬぉりゃあぁぁぁぁっ!!」
奴は俺のロケットを握るや否や、自分の巾着ごと投げ捨て、反対のこぶしで殴りかかって来た。
バリン!!
俺の顔面を捉えたはずが、砕けたのは奴のこぶしの結界だ。来るのが分かっているのだから、そこに全結界を集めていたのだ。こいつがこぶしに結界を集中できないのは、すでに分かっているからな。
「偽物じゃないかっ!騙しやがったな!!」
『お前が言うなよ・・・。』
手首でも傷めたんじゃないか?半泣きで文句を言われた。
こいつが巾着に本物の守護石なんか入れているわけが無いので、俺のロケットももちろんフェイクだ。ただ、こいつと違ってあらかじめ偽者の守護石なんか用意していない。あれはあれで大事なものなのだ。
こいつだけは、絶対に許さん!!




