笑顔の裏側
俺には気に入らない奴がいる。
いつも飄々としていて、なんでも器用に俺よりも何倍も上手くこなして。同期のくせにいつも偉そうに小言ばっかり言いやがる。姑の様なやつだ。
「おはようユリウス。もう少し身だしなみに気をつけなよ。君せっかく顔がいいのに、そんなんじゃモテないよ」
今だってそうだ。
たまたま寝坊して、急いで準備したから寝癖がついたままの髪を指摘された。いつもはちゃんとセットしてきてるっつの。というか、なんでこんな所にいやがる。
「余計なお世話だ。だいたい、そんなの気にしなくても俺はモテる」
「わかってないな。女性はそりゃあ綺麗な顔が好きだけど、なによりも清潔感があるかっていうのをしっかりみてるもんなのさ」
ちょこっとだけの髭の剃り残しとかね。そう言って、その指で俺の顎をなぞった。思わずその手を弾いて顎を触る。かすかに手に刺さる感覚があった。急いでいたから剃り残したか。体質的にあまりはえてこないからといって油断していた。
「うるせえ。少しくらい残ってるぐらいの方がワイルドでいいんだよ」
そう言うと、奴は吹き出した。
「わ、ワイルドって、それ本気で言ってる?自分の顔鏡で見てみなよ。そんな綺麗な顔して、多少の無精髭ぐらいでワイルドになれるもんならなってみてほしいね」
確かに俺は良くて中性的、悪くて女顔だった。人のコンプレックスをわざわざあげつらう目の前の奴に、とうとう俺の我慢は限界を迎えた。
「黙れこのクソアマ!朝から嫌な気分にさせやがって!!」
「ごめんごめん。でも、私はその綺麗な顔に無精髭っていうのも悪くないと思うよ。ギャップがあって可愛いじゃないか。思わず頬ずりしたくなる」
怒鳴られてもヘラヘラ笑いながら適当な事を言う奴にさらに言葉を続けようとした時、向こうにいた同僚が大声で叫んだ。
「ユリウス、アンリ!何やってんだよ!急がなきゃもう訓練始まっちまうぞ」
近くの時計を見ると、確かにそろそろヤバい時間だった。舌打ちをして、ゆっくり息を吐き、どうにか怒りを治める。
「…もういい。行くぞ」
「そうだね。じゃあ今日も一日、寝癖の無精髭騎士さんと一緒にお仕事頑張りますか」
声をかけると、目の前の女性騎士アンリはにっこり笑って歩いていった。…俺のこめかみに青筋がういても仕方がないと思う。