りきてっくすさんからの紹介(666文字小説)
飲み疲れて帰ってくると、誰も居ないはずの部屋にも関わらず、誰かの視線を感じた。
しかも、熱帯夜だというのに部屋の中はやけにひんやりしている。
電気を点けて辺りを見渡しても誰も居ない。
「気のせいか…」
すると、耳元で囁くような声が聞こえた。
『もう手遅れよ』
「うわぁ〜」
僕は思わず声を上げた。すると、声の主は スッと僕の前に浮かび出てきた。
石原さとみに似た美人だった。
『閉伊さんに紹介してもらったのよ』
「閉伊? 何のことだ」
『あなたが書いた感想への返信をご覧なさい』
僕はスマホを手に取ると"小説家になろう”のサイトへ飛んだ。
ー新着のメッセージが1件ありますー
すぐに開いてみた。
閉伊卓司さんことりきてっくすさんが最後に書いた“なめこ太郎/666文字奇譚"の最終話百話目の百物語への感想返信だった。
なんと、彼はその作品を書き終えて絶命していた。そして、彼の命を奪ったのか彼女だった。
りきてっくすさんの返信にはこう書かれていた。
『日下部さんを紹介しておきましたよ』
と。
「そんな…」
彼女が微笑む。
「か、可愛い…」
『これからはずっとあなたのそばに居てあげるわ。あなたが死ぬまでね』
「は、はい。宜しくお願いします…」
こんなに可愛い子がずっとそばに居てくれるのならどうなっても構わない。そう思わせるほど彼女は美人だった。
凍えるような部屋から僕は一歩も出ることが出来なくなった。いや、出たくはなかったのだと思う。既に彼女の顔から目を離せなくなっていた。そして、僕は次第に意識が遠のいていった。消え行く意識の中で彼女の声が聞こえた。
『もう、いっちゃうの? 早いのね』