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五話 リボルバーの魔法

 

 ねじ切りサソリシュレッダー・スコーピオンの鋏がルシアさんに襲い掛かる。首でも挟まれてしまえば間違いなく死んでしまうだろう、というほどの大きさの鋏が。


「シャアアッ!」


 しめた、とばかりに飛び掛かる巨大サソリ。それはさっき彼女に倒されたはずの個体だ。


「むっ……殺したはずでは」


 そう言いながら、ルシアさんは体を翻し、振り向きざまにアッパーを叩き込む。……拳で。

 サソリが絶叫と共にバラバラに吹き飛ぶ。


「ウル様、今のは一体?」

「ぼ、俺にもよく分からないんだけど……サソリが再生したんだ!」


 僕が放った弾に当たったサソリの半分は空中で突如反転し、下半身の元へと帰って行った。そして傷が完全に消えると同時に、動き始めたのだ。


「復活する能力? いや、だったら他のも復活しているはず……」


 ルシアさんは唇に指を当てて考え、そして呟く。その内容は僕が思っていたのと同じだった。

 ……ただ、僕はさらに一つの考えを持っていた。


「ふむ、面倒ですね。この辺りの木を全部倒してから殺してしまいますか」

「……えっ?」


 次に木が倒壊する音が聞こえた。ルシアさんが日光を入れるため、デタラメに木をなぎ倒していた。


「せいやぁっ‼」

「シスタールシア!? ちょ、ちょっと‼」

「大体、木が生えすぎなんですよ! ちょっとは……間引きしないと‼」

「キノコが育つようにわざとやってるんじゃ……」

「……あとで謝ればセーフです‼」


 日光が差した。鬱蒼とした森に風が通り抜けるようだった。

 眩しさに目を閉じ、ゆっくりと慣らしながら瞼を持ち上げる。

 すると――


「では、帰りましょう」


 そこには無数のサソリの亡骸と、緑の体液に塗れたルシアさんの姿があった。


「ええ……?」

「見えさえすれば簡単ですね」


 いや、そういうレベルではないだろう。いくらなんでも速すぎる。

 一体何者なんだこの修道女シスターは……。


「ルシアさん、ちょっと待って!」

「おや、まだ生き残りでもいましたか」

「殺意が高すぎる! そうじゃなくて、ちょっと試したいことがあって……」


 彼女はなんでしょう、と首を傾げた。


「ちょっと俺の武器――リボルバーっていうらしいんだけど、試したいことがあって……」

「ほう、りぼるばー……。珍しい武器とは思っていましたが、聞いたこともありませんね」

「フレイルも充分珍しいよ」

「いえ、そんな……」


 ルシアさんは赤面して俯いた。なぜだかは心の底から分からないけど。


 僕は横にずらせるパーツ――『弾倉』というらしい。それを外して中を見た。

 中には緑、黄、赤の順で光が弾倉の右側に入っている。左半分は空白だ。

 それを戻し、突起――『撃鉄』を起こして引き金を引く。しかし弾は出ない。

 再び弾倉をずらすと、光の位置がさっきと違っている。


「……やっぱり、撃鉄を起こすと回転するんだ」


 今頂点にあるのは空白部分。それがあと二つある。つまり、あと二回は撃っても弾が出ない。

 カチャリ、カチャリと弾倉が回転した。次に頂点になるのは赤い光だ。


「赤く光っていますね。そして、どうするのですか?」

「ええっと……多分、炎の魔法が出るはずだよ」

「多分?」

「ああっと、忘れて!」

「分かりました」


 僕は撃鉄を起こし、木々の隙間から見える空に向かって引き金を絞る。


 バンッ! という乾いた音。洞窟の時よりは小さな発射音だ。そして魔法陣を纏った光は森を抜け、上空で火球になった。


「やっぱり……!」


 やっとこの武器のことが分かって来た。

 これは光に応じた魔法を撃つ道具なんだ。そしてその光は三種類。

 赤――火炎魔法、黄――雷魔法、緑――治癒魔法だ。


 これはそれぞれ、僕が以前から使えた魔法に対応している。

 火炎――『火花ファイア』、雷――『発光スパーク』、治癒――『処置キュア』だ。

 でもこれらは大した魔法じゃない。ロウソクに火を点けたり、壁とタンスの間に落ちた物を一瞬照らしたり、擦り傷をかさぶたにするくらいしかできない。ドラゴンを倒したりなんてのはもってのほかだ。


 そこでリボルバーの価値が分かる。

 この触媒カタリストを介することで、僕の初級魔法は強大なものに変わった。

 ドラゴンを倒す炎、スライムを二十六匹吹っ飛ばす雷、サソリを生き返らせる治癒になったのだ。しかも詠唱なしで発動できる。他の人がこれを使えるかは分からないが、少なくとも僕にとってはこの上なく頼りになる触媒だった。


 さらに、ある特徴も見えてきた。

 弾倉の回転は手動でもできるということだ。どうやら元の位置にある時なら、手動でどちらの方向にも回せるらしい。例えば次に雷の弾が発射される今の状況で、弾倉を一つ巻き戻せば、再び炎の弾が撃てる。また、弾の並びも変えられそうだ。


「これを使えば……」


 僕は雷の弾の番をスキップして、治癒の弾が頂点になるように合わせ、倒壊した木に向かって狙いを定めた。


「生き物が生き返るなら……」


 発射。反動で腕が跳ね上がる。

 緑の魔法陣は幹に突き刺さり、高速で回転したかと思うと一瞬にして木を再生させてしまった。


「お見事。これでいくら壊しても平気ですね」

「できれば壊さない方向性でお願いしたいところだけど……」


 次は一つ順番を巻き戻す。そして別の木に再び発射する。

 これを繰り返すことで、森は元の暗さを取り戻したのだった。

 試しにサソリの死骸にも撃ってみたが、今度はダメだった。時間が経つと効果が無くなるのかもしれない。


「よし……これで元通りだ!」

「では戻りましょう……と、言いたいところですが、また目が利かなくなってしまいました。先導をお願いします」

「うん、分かった!」


 僕は再び、ネバネバになったフレイルのジャラジャラ音を聞きながら森から出たのだった。


 ――

 ―― ――


「ただいま戻りました。ねじ切りサソリシュレッダー・スコーピオンを三十数匹ほど殺して参りました」

「おお、それは良かった! あんたらも、無事みたいじゃな」

「だが、原因は分からなかった。今度改めて依頼を出すのがいいかもしれないな」


 森を出て依頼者のお爺さんに報告すると、彼は嬉しそうに口角を上げた。


「うむ。しかし、今日のところは助かったわい。これでキノコ狩りにも行けるのう! あの暗さでないと育たんキノコが生えるんじゃが、これが美味くて美味くてな……! 今度モンスターオーダーにも送ってやろう」

「……シスター、ほら?」

「う……次は見えるように、ちゃんとランプを持って来るとしましょう……」


 笑い声を上げるお爺さんとは対照的に、シスタールシアは決まりが悪そうに鋼鉄の穀物を回転させていた。

 これが、僕とルシアさんの『仮パーティ』で初めて成功させた依頼になった。

最後の「穀物」というのはフレイルの先っちょ部分のことです。

モーニングスターでいう鉄球の部分にあたります。

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