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白鬼の冒険譚  作者: 北のパンダ
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第六話 『昇華魔法』

部屋を明るくして出来るだけ画面から離れてイライラせずに読んでくれるとありがたいです。

やっと使います。

 ラストル外門のギリギリ俺が通れる穴から外に出て、魔除けと整備が施されている道から魔物にみつかる為に離れて走っていく。自殺願望があるが、身体は三歳児なのでよたよたと歩いているようにしか見えず、魔物の格好の餌食となるはずだ。そうすればやっと死ねる。


 ミリアかあ・・・いや、ミリアさんはとってもいい人だ。後ろ指を指されてながら聞こえてくる人の話から推測すると、おそらく俺はミリアさんが今のように冒険者ギルドや役所からの補助金で生活するきっかけとなった、ゴブリンによる蹂躙で孕んでしまったものなんだろう。なぜ、殺さなかったのか?そもそも生まれる前に殺せばよかったんじゃないか?という疑問だけがあの街に残っているが、はっきりしているのは、悪いのは俺だという事だ。


 ミリアさんは17歳という若さでもそんな過去があっても力強く、生きていた。何よりも、美人だった。きっと俺が居なくなったことで街の男たち今が好機と、猛烈にアタックし始めるだろう。そうやってちゃんと幸せに成ってほしいなと思いながら街を振り返る。


 おそらく一時間ほど走った(ヨタヨタ)が3kmも行っていないな・・・。外壁が未だに見え、死ぬまでの目的であるあの山がひどく遠く見える。


 体感的に二時間が経っただろうか、外壁がかなり遠くに見えるようになった。幸か不幸かまだ俺を殺してくれる奴らは眠っている。


 西の空に大きすぎる月が沈み、東の空から小さいほうの太陽が先に出てくる。こんなにもファンタジーで幻想的な光景なのにまるで興味が湧かない。頭の中には死にたい死にたい死にたい死にたい死にたいという、思いしか無い。そろそろ魔物や魔獣、獣が起き出すはずだ。そうだ、歩いていれば、死ねるのだ。


 目の前に山に続く森が見えてきたところで、ズサァーーーと地面に派手に転んだ。無理もない。三歳児の柔らかい黄緑の肌の足裏はもう血まみれで足は雑草にさんざん切られて、機能が果たせていなかった。もう、限界だった。このまま寝ていれば餓死か、魔物に食われるかな・・・。と、脱力していると森の中に三人組の冒険者が見えた。


 全身が黄緑色で醜い顔立ちをしている俺は魔物の振りおして襲い掛かると殺してくれるだろうなと確信をもって、もたれる足再び立ち上がった。昔、一人で門番から外に放り出されかけた時に聞こえた、外に居る魔物の声を参考にして「うー」と声を出してみると、ビックリするほど似ていた。やっぱり人間じゃなかったんだなと今更ながら思う。


 そうだな


 さっさと死のう。


___________________________________________


「いやー昨日も結構、魔物、狩りましたねぇ」

「よっしゃぁ!ラストルで換金したら朝から飲もうぜ!」

「まぁ、今日ぐらいならいいかもしれねぇな!」


 山の麓にある森にはところ構わず多くの魔物や生き物が生息しているため、適度に間引いておかななければ生物災害が起きるので、冒険者ギルドは常に買い取りを受け付けている。そのため、特に用事が無ければ冒険者は何度もこの森に入っている。完全歩合の世界のため、彼らは丸一日籠っていることも珍しくない。


「くっせー」

「早くギルドに帰りてぇ」

「下着が茶色だぁ」


 110年前の次元統合によって世界は大幅に広げられ、新技術がいくつも開発され当時のギルドと比べて清潔さやマナーなども大幅に改善された。代表的なのは家庭用の浴槽である。とは言え未だに各家庭に一つの浴槽が完備することはまだまだ難しく、一般の職に就いている人達はほぼ大衆浴場で済ましているが現場でドロドロになって帰って来る冒険者には周りの視線がきつく、入りにくい場所であった。そんな彼らに用意されたのがギルドシャワーである。汚れまくった者のみが使えるといった、逆転の発想である。このことは彼らに衝撃と帰る楽しみを与えてシャワー室出禁を、受けたくないためギルド内での荒事や討伐証明の出し忘れが無くなり、結果ギルドの業績は非常に安定した。


「さっさとシャワー浴びてぇな・・・」

「シャワー終わりのビール・・・たまんねぇなぁ!」

「少し急ぐか・・・お!あんなとこに子ゴブリンがいるぞ!」

「お!いいねぇ。サクッと殺っちゃう?」

「リョーカイ」

「一瞬で終わらせようか、おらぁ!」


 うめき声を上げながらフラフラと歩いてくる子ゴブリンにリーダー格の男が自慢の剣で腹を突き刺す。


 ブシュ――――ザク!グシューー!


 切り口から鮮血が吹き出て、倒れる。


「えっと、ゴブリンは角と耳だな」

「俺やるわ」

「いやー雑魚すぎ!」


 まだ息があるゴブリンから角と耳をよく切れる解体用のナイフで剥ぎ取る。


「死体は?」

「魔物が食うだろうよ」

「噂をすれば、だ」


 剥ぎ取り終わった三人が後ろに二匹の『フォレスト・ウルフ』が死体を食いたそうに待ち構えているのを見て、


「おっ!森の掃除屋さんじゃん!」

「結構飢えてんな、俺ら眼中になさそう」

「疲れたし、さっさと行こうぜ」


 素材をバックに入れて立ち去った三人を確認すると、狼たちは一斉に貪り始めた。バキッグチュゴキゴキグチャッ。徹底的に腕や足を鋭い歯と強い顎で噛み切る。肉をザラザラしている舌で舐めとり、骨を奥歯で噛み砕く。腹を噛み切り、内臓を腹の中で食われる。顔に思いっきり噛みつき眼球を吸い出して潰す。


 もはや原型がとどまっていないが、まだ意識が彼にはあった。その分激痛と不快感を感じ取って死にかけているが、中途半端な生命力の強さで生きてしまっていた。薄れゆく意識の中で彼は安心していた。今度こそ死ねる。


 もう視界は無くなり、胸から下の肉に風が直接当たってひんやりする。両手両足も無くなり、生きる気力も尽き、ぼんやりと、眠くなる。一生覚めない夢に入ろうとする。


 音が聞こえた。


【・・・!・・・・・?!】


 少しおっちょこちょいだけど真面目な音。


【・・・・!・・・。】


 生きとし生きるものに深い愛情を持つ音が。


 あぁ・・・これは声か。


【し・・!】【・・・!】


 なにを言っているか分からないが怒られているように思う。


 なんで怒られないとダメなんだろう。やっとこんな出来損ないの処分のチャンスなのに。


 むしろ、怒っているのは俺かも知れない。あの時は気にしていなかったが、失態の隠蔽の為に無理やり転生させられて、挙句の果てにはチートとやらが機能しなかったことに対して少なくとも人並みに怒りお覚えた。


 やっぱりシバさんもベアトリーチェも俺にさっさと死んでほしかったんだろうなぁ。

 けど、一度も魔法使えずに死ぬのもなぁ。

 

 唯一使える喉でしっかりと声を紡ぐ。


 「『経験昇華』」



 強烈な光が辺りを照らす。先ほどまで貪っていた狼たちも光と共に発せられた衝撃により、消し飛んだ。

 その光は収束し、彼の体の分解と再構築を高速で行う。今までの経験を全て昇華し、より強い体を構築する。一分程で光は収まり、中心には無傷の十代に見える少年が居た。しかし、


「・・・・・・・・!!!!!!!!!!!。あlfbbjふぁmlkjkfんlbまkbkじゃplphふぁklbmlkふぁおkfpkfmbじゃkfk」 


 なにを言っているか分からないほどに叫びちらしながら、のたうち回っている。


 段々と彼の顔に黒い靄がかかってきて、形を成していく。それにつれて、次第に彼の体が落ち着いていく。黒い靄は悲しそうな顔をした仮面になり、純白の髪に覆われた側頭部にはまり、少年は先程までの自分の血の海の中で、寝息を掻き始めた。


 彼の本当の人生が、今、始まる。



読んでくれてありがとうございました。

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