出会い
爆音。
耳をつんざくような轟音が耳を襲い、周りで悲鳴が響く。
次に感じたのは、赤。
すべてを埋め尽くす赤が俺たちを飲み込まんとこちらへと迫ってくる。
これは…夢だろうか。
曖昧な意識の中、目の前の光景をぼんやりとみている。
視界に映るのは…街。高層ビルが並ぶ、前世でよく見た街だ。
それが……どうなってるんだ?続いて爆音、堪えぬ悲鳴、空を埋め尽くす鈍色、銃声、赤………………。
次の瞬間、俺の意識は再び暗転した。
カラカラカラ…。
心地よい音と振動。そしてずっしりと重く圧し掛かる体の重さに微睡から目を覚ます。
うっすらと目を開けると入ってくる光。
まぶしさに目を細めて光に慣れるのを待っていると、視界とともに意識もゆったりと覚醒していった。
俺は……どうなったんだ?
目の前に広がる、澄み渡る青い空を見て考える。
俺は確か…あぁ、そういや捨てられたんだったっけ?そして森の中を歩いて、シルバーファングと遭遇して、そして……。
「あ!起きた!」
「ほんとだ!おとーさーん!」
声が聞こえた。子供の、女の子の声だ。
思わずそちらに体を向けようとするが、動かない。
体に蓄積したダメージが回復してな……いや、違う。これは……。
「おう、起きたか」
再び声が聞こえた。ただし次は大人の男の声だった。
首だけを動かして相手を見る。
そこにいたのは……人?
確かに人型ではあった。しかしその頭部とお尻の辺りなどには本来人にはあるはずのない、獣のような耳や尻尾。
獣人だ。
本などで読んだことはあったが本物を見たのはこれが初めてだ。
人の姿に獣の特徴を備え、人のように魔法は使えない、人にも獣にもなれない亜人。はるか昔から人類とは対立を続け、今は森の中などに住む人類の迫害の対象。
それが俺の知る獣人だ。
「悪いが手足は縄で括らせてもらってる。まず確認するが、お前、人間だな?」
親子であろうか?目の前には父親であろう体躯のいい男が立ち、その後ろには娘であろう2人の少女がこちらを見ていた。
……正直、最悪だ。
さっきも言ったように獣人は人類に敵対している。迫害を続ける人類に強い恨みを持っているのだ。
そんな状況で捕まっているのだ。この先どうなるかの想像は容易い。
「ああ、人間だ」
かすれた声で何とか答える。
ここで沈黙して悪印象を抱かせるのは状況を悪化させるだけだ。
なんとか誠意を見せておかないと……。
「…すまない、まだ傷も癒えてないだろう。水だ。ゆっくりと飲め」
そんなことを考えていると、差し出される水筒。
そのまま口へと流し込まれた水は乾いた体を潤し、最悪の気分が幾分かマシになる。
そして目の前には……すこし心配そうにこちらを見つめる三人。
そこに敵対的な意思は感じられず、俺は混乱する。
「…わかっていると思うが、俺たちは獣人だ。森の中で狩りをしているときにこの子たちがお前を見つけたんだ。あまりに酷い怪我だったから治療して、今は俺たちの馬車で村まで運んでいるんだ」
男が説明してくれる。
つまり…助けてくれたのか。
「ありがとう…ござい、ます」
「……お礼を言うのか?俺たちは獣人だぞ?」
「種族なんて関係ないです。助けてもらってお礼を言うのは当たり前のことです」
これは本心だ。
そもそも転生してからこの世界の人類の差別的思考には嫌気がさしていた。
魔力第一、人類至高主義。魔力量によって人の優劣を決め、魔法を使えない獣人、エルフ、ドワーフなどの種族は亜人と呼んで迫害する。
捨てられた今では人類への嫌悪を増大させる大きな要因でもある。
男の鋭い目が俺を貫く。
そして沈黙が数秒続き、次の瞬間には。
「……がっはっは!!さすがは俺の娘たちだ!人を見る目が完璧だ!」
「でしょー!だってこの人からは嫌な感じしなかったもん!」
「ミナたちにはお見通しです!」
三人で大声で笑いだした。
思わずぽかんとする。
さっきまで張りつめていた緊張はどこへやら、空気が一気に弛緩し、親子三人がなぜか和やかに談笑を始めていた。
この作品の重要キーワードの一つは銃、そしてもう一つはケモミミです。すばらしいですね。
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