遭遇
鬱蒼とした獣道を進む。
もうどれだけ歩いただろうか?
とりあえず拠点となる場所を探し歩き始めたが、雨風を凌げるような場所はそう易々と見つかってくれなかった。
周りを何十メートルもの高い木に囲まれ、暗い雲も相まって辺りは真っ暗だ。
さらに雨で地面はぬかるみ、濡れた服も相まって体力の消耗は激しかった。
「…やばいな」
さすがに焦りを覚える。
最悪野宿という方法もあるが、この世界での野宿というものは地球と比べ物にならないほど危険だ。
なぜなら、この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。
魔獣は言ってしまえば狂暴化した動物だ。人類の生活圏の外、例えば山や海、そして山などの場所に生息し、基本すべてに対して敵対的である。
そしてここは山の中。寝込みなんかを襲われる確率もかなり高いわけである。もしそうなってしまえば死は避けられないだろう。
「ほんと、こいつを持ってこれてよかった」
そういい、俺は足の付け根辺りを軽くたたく。
硬い感触……いや、下ネタ的な意味ではない。
そこにあるのは外からは見えないようにズボンの両内側に縫い付けておいたポーチがある。
俺も一週間捨てられるまで何もせずに過ごしていたわけじゃない。
どうせ未来は殺されるか捨てられるかしかなかったのは分かっていた。だからできる限りのことは備えておいたのだ。
「まぁ、出番が来るまで生きていられるといいが…」
そう言って再び足を速める。
某秘密ポケットのようにポーチからなんでも出てきてくれたらいいのだが、現実はそう甘くはない。
連夜の暴行に加えてここ数日まともな飯を食べた覚えのない体はすでに限界近いのだ。
ひたすら幸運を願う。安置を求めて彷徨うが、雨の激しさは変わらず、容赦なく俺を叩き、とうとう視界も朦朧とし始めてきた。
そして、現実というものはこういう時に限って、さらに厳しいものを突き付けてくるものなのだ。
「…まじかよ」
思わず声を漏らす。
前方、木々の隙間の先に見えた黒い影。
それは複数いて、大きさは自分より一回り小さいほどだろう。
四足で歩行し口には鋭い牙を持つ、前世ではオオカミと呼ばれそうな見た目だがこちらでは違う。
魔獣。
おそらくシルバーファングと呼ばれている魔獣だ。
一般的に多くみられる魔獣のうちの一つであり、並の冒険者でも比較的楽に倒せるほうであろう。
しかし、今はそうはいかない。
俺の体はまだ10歳の少年だ。力では敵いっこないし、仲間もいない。
一応今までそれなりに鍛えたつもりではいるが、体力の消耗も相まってナイフ一本じゃ勝てる気がしない。
逃げるしか……。
そう思って後ろへと一歩踏み出した瞬間だ。
ぱきっ…と乾いた音が鳴る。
それは小枝を踏み潰しただけの小さな音ではあったが、シルバーファングの敏感な耳には充分であった。
バゥッ!と一匹が鳴き声を上げ、それを聞いたシルバーファングが一匹、また一匹と近づいてきた。
計5体。驚くほどのスピードで迫るそれに俺は冷や汗をたらしつつ、しかし冷静に体を動かした。
ナイフをベルトに挿し、取り出すのは右側のポーチの中身。前世の記憶を頼りに作った機械の一つだ。
それは金属でできている。この世界…というより、人間が使う魔力を通すことによって自由に変形させることができるオリハルコンと呼ばれる金属を使い、領地の魔法技師に特注で作ってもらったそれはこの世界で唯一の逸品である。
全長は20センチほどの小型であり、前方は筒状に小さい穴があり、中央は円形に筒が並べられその一つと前方の穴が直線状になるよう配置され、後方は持ち手となり大きく下へと湾曲している。
前世、地球で世界を大きく変えた発明のうちの一つであり、こちらではまだ概念すらない兵器。
そう、銃である。
俺の手にはコルトSAAをモデルに作られた回転式拳銃が、襲い掛かる敵に向けてその銃口を向け握られていた。
SAAかっこいいよね。
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