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第一話

「必ず生きて帰ってきて、ユリウス」


 不安な表情で、だけど精一杯の笑顔で見送る真珠よりも白いロングの髪の少女が目の前の赤目の少年に言う。


「大丈夫だ、フィオラ。俺は、必ず魔王を倒して、この国に再び平和を取り戻すから」


 そう自信満々で言うユリウスは、フィオラの手を握り、彼から伝わる震えに少女は、何も言わずに想いを自分の中に閉じ込めた。


 ーーそうですよね……何人もの戦士が魔王に挑み、誰一人帰ってきてない。そんな彼に王国は、最強とまで謳われた英雄、国の平和の象徴とまでなったユリウスに任せる他なかったんだ。それがどんなリスクを齎したとしても。

 もしも……ううん考えはよそう。


 フィオラは優しくもう一つの手でユリウスの手を握り返す。


 ーーきっと大丈夫です。彼なら必ずやり遂げてくれます。


「期待してるわ」


 ぎこちない笑顔だが、姫らしからぬその笑顔に圧倒され、ユリウスは初めてフィオラのこと格好いいと思った。


 ーー負けてられねぇな……


 ーーー……ーーー


「……はぁ、はぁ……」


 額から、腕から鮮血が流れ、そこで共に流れる汗に傷口がしみる。


「うおおおおおおお!」


 だが痛み以上に、彼は、喜びを隠せず雄叫びを上げる。

 勝利したのだ。五日も掛けた戦にとうとう、世界を脅かしてきた魔王の討伐に成功したのであった。


 だが喜ぶのも束の間、ユリウスの脳裏に声が流れ込まれる。


 ーー【届くはずもない声が……】


『これで終わると思うなよ、勇者!貴様には呪いを与えてやる!死よりも苦しい……呪いをな!』


「魔王、まだ生きて……」


 しかし、周りを見渡しても魔王の姿はどこにもなかった。


 ーー気のせいか……けど……何だこの胸騒ぎはーー


 焦燥が全身を包み込む。

 嫌な予感がする、そんな不安を抱えたままユリウスは王国に帰還した。


 その道中に一つの騎兵が近づいてきた。

 彼は、王城でフィオラ嬢を警護する優秀な兵士だ。

 表情は固く感情を抑え込む能力に長けた彼らだが、今接近してくる彼の顔からは、驚きと悲しみに覆われていた。


「ユリウス殿、一大事です!フィオラ嬢が……」


「ッ!!」



 ……ーーーーー……


「フィオラ!」


 《回想》


「フィオラ嬢が突然倒れて、医師にも病名がわからないそうです」


 悪い予感は何でこう的中するのか、ユリウスには、兵士の言葉が届かず、気が動転していた。

 すると後ろからユリウスの肩にポンッと彼の盟友が一言呟く。


「行ってやれ。大事なお姫さんだろ」


「すまん。隊を頼む、エリオス」


「おうよ、相棒」


 トンっと拳を合わせ、ユリウスはフィオラの護衛兵の騎馬に跨り、疾走した。

 なるべく早く、フィオラの元へと。


 だが、近づくに連れ、不安と胸の苦しみが襲ってくる、強く、強く。

 それは、増すだけで徐々に視界がぼやけてくる。


 ーーこれも呪いだと言うのか。


 そう錯覚させる程にユリウスの身体全体が骨の髄まで蝕まれていくのを感じていた。


 城門を潜ると同時にユリウスは騎馬を降り、颯爽と城内に走った。

 フィオラ嬢の寝室は場内中央の螺旋階段を登って右に反転し、廊下を突きって左折して一番近くの扉にある。

 丁度、同廊下の奥室には、国王の部屋がある。

 そして、物静かな雰囲気に包まれているフィオラ嬢の寝室。

 だが人集りに覆われ、その間を掻き分けて中へ入る。


「ッッ!」


 目眩と共にやってくる虚しさ。

 目の前の現実を直視するのがとてつもなく恐ろしく、また一歩一歩近づくのが辛く胸を貫く。

 国王が膝まづいて娘の手を握り、ベッドの反対側には女王陛下が涙を流していた。


 より信憑性が増し、これは単なる悪夢でないことを認識させる。


「……フィ、オラ……」


 掠れた声で彼女の名を呼ぶ。


「ユリウス君……」


 国王は、フィオラとユリウスの関係を知っていた。

 実に、今回の魔王討伐の成功の暁にフィオラ嬢と英雄ユリウスの婚礼を上げるつもりでもあった。

 故に、伝えねばならない。

 フィオラの現状を。


「フィオラは……」


 だが、口にするのが恐ろしいのか、切り出せないでいた。

 だが王は首を振り、覚悟を決めた眼でユリウスに向き合う。


「ユリウス君、フィオラは、亡くなった」


「……」


 真実を突き付けられ、ユリウスの頭の中に過ぎる。


【死よりも苦しい呪い】


「ああああぁぁっぁぁっっ!」


 溜め込んでいた感情が一気に爆発する。


 ーー俺の所為だ。


 フィオラの死を、冷たくなった彼女の手を握り、思う。


 ーー魔王に挑まなければ、勝たなければ良かったんだ。


 他の戦士同様に破られれば、と。

 呪いもかからずにフィオラを死なせずに済んだのでは、と。

 卑屈に己を責め立てた。

 負い目を感じたユリウスの目が濁り、だが王は、彼の肩をポンと叩くと正気に戻った。


「ドリューズ陛下、すいません……すいません」


 深々と謝り続けるユリウス、だが彼が何故に病で亡くなった娘のことが関係していることを知るはずも無く、続けて囁く。


「何故、君が謝る必要があろうか?ユリウス君、君は我々の国を救った英雄の中の英雄ではないか。あまり君自身を責めるのは止めなさい。これは誰の所為でもない」


 ーー違うのです、陛下。全部俺の所為なんです。呪いに掛かってしまったから、そのせいでフィオラが死んだのも……全て、俺の所為なんです。


 優しい王様の言葉、だがその優しさが返ってユリウスにはどんな剣よりも鋭く胸を穿つ。


 翌日、いやあの晩以降、ユリウスの姿を見た者はいない。


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