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04.また異世界


闇に呑まれる、そう比喩しても差し支えない程に渦巻く、力の奔流。

デタラメ過ぎる……!

たった一人でさえ世界の境界を越えさせるには途方も無い"燃料"が"動力"が必要になる。

ラスクさんから僕はそう教えられていた。

にも関わらず、1-C、30数名を同時に喚び出すなんて……。

一体どれだけの量を注ぎ込んだら……!


突如、竜巻が晴れるように渦が霧散した。

かなり形式は違えど、経験している僕だけは知っている。

目的地に辿り着いたのだ。


「……よくぞ来た、勇者諸君よ。」


僕は周囲に視線と意識を全力で巡らせる、声の聞こえた方は後回し。

城だ。

造りそのものはまるで違う、でも石造りの壁と天井に、尋常ではない程飾られた綺羅びやかな部屋。

ここは恐らく、王様の部屋だ。


「とは言え、幾人か目覚めてない者もいるようだな。」


声の主は続ける。

当然だ、あんな強引かつ強制的な、初めて見る魔法に呑まれて正気でいられる方がどうかしている。

僕の他にも数人は立っているが、それはただ立っているだけで事態に脳が追い付いてないだけだ。

あの日の僕のように。


僕は部屋を囲う石壁に向かって解析を開始する。

材質を解析、構造を解析、内包された力を解析。

5秒ほど読み取り、出た結果は何の力も込められていない唯の石。

よかった、少なくともグリンディアの魔神城にあった詠唱破壊(キャストブレイカー)のような仕組みは施されてないらしい。

それを確認した時に初めて、声の主に向かって視線を投げた。

そして気づく。


あれ……?なんで、言葉がわかるんだ?


僕らがいる石畳の位置よりも、少し段差を上った先にいる王冠を被った男性を見る。

その人物が王様なのは間違いないだろう。

ここが異世界だと言う事も、あの魔法を見ては今更疑いようもない。

自分の胸に去来する気味の悪さ。

世界を越えたからと言って、突然言葉が理解出来るなんて事はなかった。

だとすれば……。


僕は怖気立つ。

――――既に何らかの魔法をかけられていると言う事に。


警戒のランクが跳ね上がった。

あの場面(教室内)で魔法行使や、転送の承諾をした者はいないだろう。

ならば、強制召喚に加えて、こちらの快諾無しに魔法を付与した者がいる。

僕に気づかせる事すらなく、だ。

ここまでの状況判断からして、グリンディアより魔法技術が発達してると認識して然るべき。

いつでも制御封印(リミッター)を外せる状態にだけしておく。

言葉ひとつで解除は可能だけど、洗脳や言葉を出せなくなる状況すら加味しておかなくては。



それから程なくして、全員が起きるのを待っていたようで周囲に控えている兵士達にも気になる動きはなかった。

最後まで気を失っていたのは、秋山くんだった。

彼は目を覚ますと、当然ながら状況が理解出来ないようで辺りを見回しながら狼狽え始める。


「な……なんだ……おい、どこだここ!?」

「……ふむ、全員起きたようだな。」


そんな言葉はまるで聞こえていないように玉座から立ち上がると、全員に聞こえる声量で王様は語りだした。


「さて、よくぞ来た勇者諸君よ。私はこのアルデラ国の王、フィドリヒ3世だ。諸君らも各々聞きたい事もあろう、だがそれに割く時間も惜しまれている為、簡潔に説明させて頂く。諸君らはこのアルデラに勇者として召喚されたのだ。」


王様の言葉で皆はざわめく、勇者と言う言葉を聞いて、困惑する人、呆れる人、興奮する人、そして……憤慨する僕。

今王様は『勇者候補』等ではなく『勇者諸君』と呼んだ。

それはつまり、全員を勇者として迎える、もしくは全員を勇者と呼ぶだけの理由があると言う事だ。

いずれにしたって、勇者と言う言葉はそんな軽々しい物じゃない。


「この国は危機に瀕していてな、諸君らには魔王と戦って貰いたく喚び出させて貰ったわけだ。」

「あ、あの……!わ、私達……喧嘩すらしたことないんですけど……!」


王様に向かって一人の女子が声を上げた、残念ながら僕にはその子の名前がわからない。

と言うより、名前を覚えている相手が僕をイジメていた3人と委員長くらいしかわからなかった。

今日から一人ずつ覚えていこうと思っていたのに。

その女子はわずかに震えているのがわかる、当たり前だ、突然絵本や漫画でしか見聞きした事のない物と、学生が戦えだなんて。


「その不安は最もだろう、だがしかし、諸君らはこちらに召喚された際、女神の加護を受けている。君たちが理解しやすい言葉を用いるならば『特殊能力』や『超能力』と言った物だ。」

「マジかよ!」


王様の言葉が信じられなかった者、ガッツポーズを取る者、多種多様ではあるけれど続きを聞こうと言う気持ちにはなれたようで。

次の王様の言葉を、皆静かに待っていた。


「無論、その力が如何なるものなのかを知る為、こちらは各々計測を行い、発現した能力をお教えする。そして能力の種類毎に別れ、数ヶ月修練を積んで貰う。その間の衣食住は勿論保証しよう。」

「か、帰る事は出来るんですか?」


委員長の田中くんが眼鏡を上げて王様にそう聞いた。

王様はふむ、と呟くと頷く。


「諸君らには申し訳ないが、帰還の魔法は魔王によって封じられている。今回行ったこの召喚も、魔王の封印の隙間を突いたかなり強引なやり方だったのだ。魔王を討伐してくれた暁には、お送りすると誓おう。」


その言葉に委員長は項垂れた。

クラスの皆の中には、何人かやる気を出してる人もいるみたいだけど。

僕はここまでを振り返り思う、あまりにおかしすぎる。

召喚とは言え、突如30数名もの人間が現れたにも関わらず、王様は愚か、兵士の誰一人として驚きすらしていなかった事。

言語が通じるのが当たり前のように語りかけ、その理由が女神の加護による物だと言った事。

僕達の理解しやすい言葉を知っていた事。

王様はさっき言ったはずだ『封印の隙をついた』と、縦しんばそれが本当の事だったとしても、あまりに場馴れ(ばなれ)しすぎている。

そう容易く何度も行える魔法ではないはずだ、だとすれば封印されている事さえ虚言に思える。

はっきり言って、この国の全てが胡散臭い。

皆を連れてこの場所から逃げた方がいいんじゃないか?

でも……どうやって?

皆の僕に対する印象は、はっきり言って良くはないだろう。

一方、異世界とは言え、召喚魔法を使ってみせた一国の王だ。

どちらの意見を信じるかなんて、比べるべくもないかもしれない。


そんな事を考えているうちに、室内へ、人の頭ほどあろうかと言う水晶玉を持った人達が入ってきた。

僕の知っている個人技能(パラメータグラフ)測定器とは大きく違う。

再びクラスがざわめき出すと、水晶を持っている一人の少女が口を開いた。


「ようこそおいでくださいました、勇者様方。私はこの国の姫フローラでございます。そして、これから皆様が女神様より授かりし能力を見させて貰いますね。」


お姫様と他に4人水晶を持った人物が皆の前に散開する。

どうやらあれで見るのは間違いないようだ。


「ではこれより測定を始める、測定は色と共に個々の加護がわかるようになっている。色は勇者諸君の基礎能力だと判断して貰って構わない。基本は白、鍛えている物ならば赤、類まれなる能力なら青が一般的だ。」


王様の声と説明を受け、ちらほらとクラスの人達が別れていく。

しかし……色?

ステータスを数値化した方が各々の特性がわかるんじゃないだろうかとも思うんだけど。

人数が多すぎるから、この場ではあえてザックリとした分け方なんだろうか。


兎にも角にも、測定が始まった。


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