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01.さよなら異世界

思いつき2日程でガーッと書いたので、数話まとめて投稿となります。


「……カズマ様、本当に……本当にありがとうございました。」

「り、リィン様、頭を上げてください。礼を言いたいのは僕の方なんですから……!」


神聖な空気に包まれた石造りの部屋で、真紅の絨毯と水平になるほど頭を下げたリィン様の姿に僕は驚く。

レイスウッドと呼ばれる大国の王女様が、僕なんかに頭を下げているのだから、慌ててこちらも頭を下げた。


およそ2年前、僕が15歳の時に今いる異世界【グリンディア】に召喚された。

それまでの僕は、高校に入ったと同時にイジメを経験する。

きっかけはとても些細な事だったかもしれない、そもそも何が理由だったかはもう覚えていない。

だけど、自分の意見も言えず、泣く事しか出来なかった僕は、そのまま引き篭もる事になった。

生きたまま死んだような生活を一ヶ月程続けて居た時、夢の中で光に語りかけられる。

もう今ではなんて言われたかは忘れてしまったけど。

あの光に、感謝と後悔の二つの想いをずっと抱えてきた。


「……なあ、カズマ。……もう散々、色んなヤツに言われたかも知れないが、本当に残るつもりはないのか?」


日頃から人前に顔を見せたがらないはずの……剣神と呼ばれているヴォルフ師匠が渋い顔を浮かべて僕に問う。

ヴォルフ師匠にも、本当にお世話になった。

この世界に来た頃の僕は、筋肉なんて微塵もなく、剣を持ち上げるだけで筋肉痛になっていたというのに。

悪態を付きながらも、絶対に僕を見放さないで教えをつけてくれた。

僕は、ヴォルフ師匠に向かって、精一杯の笑顔を作る。


「はい、僕は……この世界の人達が大好きです。本当ならずっと一緒に居たい。だけど、僕の帰りを待っている人がいるのも確かなんです。」

「……そうか、そうだな。本当のお前は人に好かれるヤツだ。俺たちだけで独占なんて出来ないだろうさ。」

「あ、いや、家族の事ですよ……?って痛い痛い。」


ヴォルフ師匠は笑いながら僕の背中をバンバン叩いた、本当に痛い。

この世界に来た時とは比べるまでもなく筋肉がついただけあって、最初に来ていた学生服に袖を通すとパツパツだった。

かと言って、筋肉ダルマのような付き方がしてないのは師匠の教えがよかったからだろう。

でも流石にSサイズはもう無理だろうなぁ……。


「カズマくん、制御封印(リミッター)の調子は大丈夫かい?身体に異常とかは……。」

「あ、大丈夫です。ラスクさんのおかげで、現代でも暮らしていけそうです。」

「そうか、でも万が一異常をきたしそうな瞬間があれば、遠慮なく解除してくれよ。聖剣も置いていってしまうようだし。」

「現代……いや、僕の世界で聖剣持ってたらすぐ捕まりますし、解除する機会もきっと無いですよ、アハハ……。」


旅の最中に出会った、賢者のラスクさんも来てくれていた。

ラスクさんにも本当にお世話になった、僕が淀み無く魔力を使えるようになったのは間違いなくこの人のおかげだ。

さらに、ラスクさんが作ってくれたブレスレット型の制御封印(リミッター)とは、僕の戦闘力(ステータス)を1/10以下まで下げてくれる魔道具で、これがなければ日本ではついうっかりで何かを壊してしまうかも知れない。

常日頃から有り余る力の全てを使ってるわけではないけど、感覚的には豆腐を崩さないように箸でつまむような手加減を常に行わなければいけないと言った感じだろうか。

ああ、豆腐食べたいな……。

と、反れかけた意識を戻してラスクさんにも笑いかける。


「それに……僕には結局聖剣は扱いきれなかったですし、アイツの……レガリアの元が一番だと思うんです。」

「……そうか、そうだな。」


レガリア、キミにも本当に感謝している。

この世界の勇者にして、僕の友達。

初めての冒険も、初めての戦闘も、そして……初めての敗北も、キミと一緒だった。

最後まで誇らしく生きて、最後に僕へ全てを残していった。

僕の中に生まれた勇気は、本当にキミに比べて小さく儚い物だったけど、間違いなくキミから貰った物だったんだ。

そして―――


「……リィン様。本当に、本当に……ぼくは……このせかいが……あなたが、だいすきでした……!!」

「カズマ様……。」


僕の視界が涙で歪む。

伝えたい思いが上手く言葉にならない。

それでも、言いたいんだ。


「はじっ……めて、このせかいにきたときっ……!どうしようもない僕を、見捨てないで……ここまで、守って、育てて、鍛えて、助けて……っ!!ここまで来れたのは!皆さんのおかげです……っ!!」


取り込む酸素より吐き出す量が多い。

唇が震えて、舌が回らない。

だけど!言いたいんだ!

初めてこの世界に来た僕は、本当に愚かで、ちっぽけで、怯えてばかりだった。

かけていた眼鏡だけでなく、心の中でも色眼鏡で世界を見ていた。

人に対しての恐怖心を取り去らって、人の優しさと言葉を教えてくれたのはリィン様。

枯れ木のような僕の腕を鍛え上げて、人に限界などないと言う事を教えてくれたのはヴォルフ師匠。

大した力も持たない僕に教えをくれて、世界の理と魔力という力をくれたラスクさん。

跪き心折れても、僕に前を向いて立ち上がる勇気をくれたレガリア。

そして、騙される事も確かにあったけど、様々な出会いと別れがあったグリンディアの人々。


「ありがとうっ……ござい……ましたっ!!!」


大きく吸い込んだ息を、意思を、声に乗せて吐き出した。

足元から噴き上がるような光が、僕を飲み込む。

辺りから聞こえる泣き声と、僕を呼ぶ声。

この世界で僕が……氷室一磨(ひむろかずま)という勇者にはなれなかった存在が、誰かの英雄になれたのだと確信できた。

それは、世界を喰らう者(ワールドエンド)を倒した時よりも、ずっとずっと嬉しかった。


ありがとう、グリンディア。




氷室一磨 Lv120 Next:LimitBreak


【ステータス】

制御封印(リミッター)によるステータス制御。

HP:2500

MP:2349


STR:350

VIT:252

DEX:208

AGI:230

INT:194

LUC:25



【技能】

剣技【神】:剣神に教えを乞い、数多の敵を屠った経験が到達出来る領域。

魔法【並】:貴方もこれで魔法使い。

魔力操作:魔力そのものを操作可能、魔力強化の前提技能。

魔力強化:五体に魔力による強化を行使可能。

解析【並】:構造を解析し、理解する。所要時間は術者の技術に依存する。


大きすぎる一撃:己の限界を越えた一撃を繰り出す。

不明:不明。


【称号】

小さな英雄:己の矮小さを知りつつも、尚未来に喰らいつく者に与えられる称号。付与技能『大きすぎる一撃(ジャイアントキリング)

奇妙な隣人:魔物・龍人等、無数の種族の垣根を越えて友となった者に与えられる称号。

異界よりきた者:違う世界から来た者。



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