第八週:きれいなお兄さんは好きですか?
毛足の長い絨毯の上で、緊張のあまり身じろぎもできずに硬直するオレに、縁サンは声を殺して笑っていた。
「別に取って食いやしねえから、楽にしろよ」
「え?あ、はい…」
縁サンは小さな丸テーブルにふたり分のウーロン茶の入ったグラスを置くと、オレの向かいに胡坐で座った。
いまの縁サンは『彼女』の姿…つまり、肩までの髪を軽く結って白いタートルネックのコットンシャツを着ている。
もう正体は縁サンだって判っているけど、ずっと憧れていたひとが目の前にいるんだぜ?緊張のひとつもするだろ。
ん?そういや、オレはJYOにも憧れてたよな。結局、同じひとだったんだ。これも運命ってヤツ?
「あっはっはっはっ!」
突然響いた笑い声に、いつのまにかひとりの世界に入っていたらしいオレは、現実の世界に引き戻された。
笑い声の主は、絨毯に転がって笑っている。
…なに、また笑い上戸発動かよ。まだなにも言ってないんですが。
「なんっか、失礼ですよ…」
「だって、あは…ガチガチかと思えばニヤけたり百面相してるから、さ。面白くて」
オレの抗議に、縁サンはゴメンゴメン、と謝りながら起きあがった。
白かろーが、黒かろーが、やっぱり縁サンは縁サンってことですね…。
「で?ひとがせっかく、夢を壊さないようにしてやろうとしてたのに、のこのこやってきたのにはなにか理由でもあるわけ?」
テーブルに肘をついてじっとこっちを見つめる縁サンは、特別気を悪くしているようにも見えなかった。
もしかすると、本当にオレが『彼女』に憧れていたのを察して、正体がバレないように避けてくれていただけなのかもしれない。
どう言ったらいいのか逡巡していると、急にグラッと視界が傾いた。
すぐ目の前に縁サンの顔がある。
薄く、細められた瞳がオレを見下ろしている。
…やっぱり可愛い、というかキレイ、だな。目も髪と一緒で明るい色で睫毛も長いし…って、あれ?
「…ナニシテルンデスカ」
「もじもじしてるから、やっぱり取って食われにきたのかと思って、ご希望を叶えてやろうかと」
…その場合、オレは縁サンを女性だと思っているワケですから、位置が逆なんじゃないかと。
それよりも…
「オレも縁サンも男だと思うんですけど」
「どうだろう。たしかめてみる?綱紀ならいいぜ、可愛いし」
ふわっと、縁サンのやわらかい髪が額に触れた。
ヤバイです。とてもイイ香りがします。
キレイなお姉さん大好きです。この際、お兄さんでも構いません!(オイ)
心臓が壊れそうな勢いでドクドクとはずんでいる。
ゆっくりと近づいてくる唇に、ぎゅっと目を瞑った。