第七週:早起きの日曜日に
そして七月を間近に控えた日曜日。
珍しく目覚まし時計が鳴る前に起きたオレは、勢いよくカーテンを開けた。
急に射しこんできた光が眩くて、目を瞬かせた。
天気予報では七月中旬の気温だと言っていた今日は、雲ひとつない快晴だ。
『彼女』に会いたくても、さすがに日曜日はどうしても起きられなかったけど、あの日以来日曜日も早起きをしている。
うーん!我ながら健康的だ!
居間に降りても、まだカーテンは閉じたまま。
お袋はきっと八時までは起きてこないし、親父はもうゴルフにでも行っているだろう。
昨日の帰りに買ったクリームパンを銜えながらカーテンを開けて、残りを口の中に押し込んで牛乳で流し込む。
着替え終わって壁の時計を見ると、時間は七時十五分前。
「ちょっと早いけど、まあ待ってればいいか」
我ながらプチストーカーっぽいけど、いまはそうするしかほかに方法がないんだからしょうがないだろ。
オレの家は日曜日はダラダラなカンジだけど、よそ様は違うようで、近所では親父さん方が洗車をしている。
比較的若い世帯が多いこの地区のひとたちは、人見知りが多いのかはたまた面倒なだけなのか、あいさつをしてもペコリと愛想だけの会釈しかない。
…イヤな世の中になったもんだ。え?ジジクサイって?だって、あいさつはコミュニケーションの基本だろ。
付き合いをする上で、笑顔とあいさつは一番大切なのだと、たしか小学校の担任が言ってた。
そうしていつもの道を歩いて行くと、視界に入ってきた姿に足が止まった。
「あ!」
ついうっかり大きな声を出してしまい、ベランダにいた人影がピタッと動きを止めた。
その手にはいつものじょうろがある。
ゆっくりと振り向いた『彼女』は、いつものやさしい微笑みで会釈をくれた。
違和感は感じない。ごく自然な表情だ。
そして『彼女』はゆっくりと身を翻す。
「縁サンだろっ!?」
オレは思わずその背中に叫んでいた。
オレを避けるように時間を変えてベランダに出ていたのだから、今日見つけたために、また時間を変えてしまうかもしれない。
捕まえるなら今日しかない。
「気付くの遅くてゴメン!ちゃんと謝りたいから出てきてよ!」
そう言っても、縁サンは振り向きもせずにベランダから姿を消してしまった。
…やっぱダメかあ。もうオレの顔を見るのもイヤなのかな。
とにかく今日はもうダメだろう。今度はいつ出てきてくれるんだろうか。
もっと早い時間?もしかしたら、学校が始まる時間かもしれない。
縁サンがオレを避けようとするなら、いくらでも方法がある。
「…そしたら、もう会えないじゃんか」
もう一度、誰もいなくなったベランダを見上げて踵を返した。
すると、ガシャとドアが開く音が聞こえて、慌てて振り向いた。
「…懲りないヤツ」
ドアに凭れかかりながら嘆息混じりに言った縁サンの表情は、困惑に揺れていた。