第三週:再会は突然に
駅前のスーパーで醤油とポテチと緑茶のペットを買って、帰りにその近くのゲーセンに寄った。
家を出てからまだ一時間経ってないから、いま戻ってもテレビはまだ母上が占領中だろうし。
小遣いが余ってヒマなときは、大体ココに来て対戦格ゲーを負けるまでやっている。
自慢じゃあないが、オレサマ結構強いんだぜ?ふふふ…。
しかし、いつも同じ相手に負けるんだ。キャラはオレと同じのを使っているんだけど、どうにも相手のほうが一枚上手だ。
プレイヤーの名前はJYO。ちなみにオレはKOU。
くぅぅう!カッコイイぜ、JYO!兄貴と呼ばせてくれ!
しかし、このゲーセンの対戦台は、壁一枚を間に挟んでいるから、すぐには相手の姿を見ることはできない。
試合が終わって向こう側の台を覗くころには、JYOの姿はいつも消えているから、いまだにJYOがどんなひとなのか知らないんだ。
さて、今日は来てるかな?
あー、残念ながらオレの定位置はほかのヤツが座っている。ってあれは…。
「千加じゃん」
オレが声をかけても千加は対戦の真っ最中で、返事をする余裕もないらしかった。
ディスプレイを覗くと、相手はJYOではなかった。
うはあ、ボロボロ…。
千加もある程度は強いんだけど、いまはボロ負け中。もうそろそろ終わり…って、ああ負けた…。
「ああっ、クソ!」
千加は学校では決して使わない罵声をディスプレイに吐いて、バンッと台を叩く。
周囲のひとが何事かとこちらをチラチラと窺っている。
「どうしたんだよ?おまえらしくもない」
椅子に座りなおした千加は、やっといつもの冷静さを取り戻した表情でオレを見上げる。
…いや、怒ってる。かなり。
「どうしたもこうしたも…相手の奴、複数でやっていやがる」
このゲーセンはケンカ防止のため、一つのプレイヤー名につき一人でしかプレイしてはいけないというルールがある。
けれど、いま千加が対戦していた相手は一つのプレイヤー名で何人かが交代でやっているというのだ。
たかがゲームと言うなかれ。ゲーマーにとって、対戦成績は重要なんだ。しかもランキングが出るし。
ズルした相手に負けて、それが一敗と記録に残るのは本当にムカつく。
しかも千加はいま、一敗差でランクの順位が変動する微妙な位置にいるんだ。
このプレイヤーの名前は千加のすぐ下の順位のヤツだ。だからなお頭にきてるんだろう。
「…まだ対戦を申し込んできていやがる」
千加はメガネのフレームを押し上げながら、忌々しげにチッと舌打ちした。
やめればいいんだけど、このままで引き下がるような千加じゃない。
けどなあ、いまの相手じゃ千加は勝てないだろうし…そうだ。
「じゃあさ、こっちも仕返ししてやろうぜ」
「はあ?」
「このキャラは使い慣れてねえけど、なんとかなるだろうから」
自慢じゃあないが(二回目)、オレサマはランキング二位の実力者だ。
「けど、これはおれのケンカだし」
オレの提案に、千加はきゅっと唇を噛む。
プライド高いんだよなあ、千加は。
どうしようかと悩んでいると、いきなり肩を掴まれてグイッと後ろに引っ張られた。
「うわあっ」
引かれた勢いそのままに、よろめいて床に尻餅をついてしまった。
またかよ!せっかく乾いたジーンズがまた濡れたじゃねえかっ!
突然現れた黒影は、椅子に座った千加も退かせてそのまま対戦を始めた。
「…おまえは…」
黒影の正体は、『彼女』の家から出てきた男だった。
文句も言えないままおよそ五分。
ズルした対戦相手はようやく降参したようだ。
そう。『彼』は強かった。兄貴と呼ぶに相応しい実力者だった。
ものの数秒でKOを取ること数試合。なにしろ瞬きしてる間に試合が終わってしまうんだから、キメ技すら判らない状態だ。
千加と二人揃ってポカンと口を開けて呆けていたんだけど、『彼』が立ち上がるのに我に返って咄嗟にその腕を掴んだ。
「…なんだ」
低い声色と邪魔をするなと言わんばかりの表情に、反射的に体が竦んでしまう。
負けるなオレ!相手は同じ人間だ!兄貴なんだ(違う)!
「なんでこんなこと…」
もごもごと口に出すオレを、『彼』は少し跳ねた前髪を長い指で掻き上げながら、フンと鼻で笑い飛ばした。
「ただ、俺がいつも使っている席からくだらない連中を追い出したまでだ」
いつも使っている席って!?
やっぱり彼がJYOなのか?兄貴なのかっ(違うってば)!?
「あんた、もしかして…JY…」
オレの問いは、突然乱入してきた乱暴な複数の足音によって遮られた。