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エピローグ

「あれ?いない」

 昨日に引き続き好天に恵まれたいつもの時間、ベランダには縁サンの姿がなかった。

 正体がバレたんだから、前の時間に戻してもいいだろうに、まだ六時四十五分(細かい)に出てるのかな。

「まあ、今度はいつでも会えるんだし…いっか」

 でもちょっとガッカリ。あの笑顔をみると元気が出るのにな。

 一種の清涼剤?たとえ男だろうが美人は目の保養になるのさ。



 自分の席で朝食をとっていると、猫かぶり優等生の千加がクラスの野郎どもに愛想笑顔を振りまいてやってきた。

 あれ?いつもはもっと早くくるのに珍しい。

「はよ。今日は遅いな」

「まあね。一年の世話をしに呼びつけられた」

 千加はまだきていないオレの前の席の椅子に座ると、弁当箱からエビフライを摘まんでオレに差し出してきた。

 千加はエビフライを齧るオレを見ているようだけど、考えごとをしているときの目をしている。

 なんか様子がおかしい?だってほら、指を齧っても上の空だ。

 今頃一年って転校生の世話役でも押しつけられたのか?

 いまの生徒会長はちょっと天然の入った面白いひとだけど、のらりくらりと生徒会業務をサボって、副会長の千加に押し付けてるらしい。

 今度の生徒会選じゃあ、生徒会長に抜擢されるともっぱらの噂の優等生は、先生からの信頼も厚い。

 …みんな見事にだまされてる…。

「なに、転校生でも入ったのか?」

「いや…ん〜、まあ似てるけど」

 なにその微妙な返答は。千加らしくもない。

 首をかしげていると、教室の入口がザワザワし始めた。

 千加の様子が気になりつつも入口に視線をやると、そのザワザワの原因と目が合った。

「!?」

 千加の指ごと銜えていたエビフライのシッポがぽろりと机に落ちた。

 羨望の眼差しでクラスメイトから見上げられる長身で美貌の主は、一年の象徴たる濃緑(二年は濃紺)のネクタイをダラリと締めてオレの席に歩いてきた。

「はよ、綱紀。今日はベランダで会えなくてゴメンな」

「ゆ、縁サン…?」

 ついどもってしまったオレを縁サンは面白げに眺めている。

 向かいでは千加が大きなため息をついていた。

 てっきり大学生だと思い込んでいた彼は、なんと高校生だったのです。

 ってゆーか、昨日『綱紀に会う機会が減る』とかなんとか言ってませんでしたか?

 そろそろ学校行けるかもって、今日かよ!?

 しかも…

「一年!?」

 叫んだことにより飛び散った飯粒を、これまたオカンな千加がせっせとティッシュで取る。

 縁サンに飛んだものも『ゴメンね』などと声をかけて取ろうとしたが、縁サンはにこやかに『おかまいなく』と辞退した。

 …ん?なんか二人の間に奇妙な雰囲気が…?

「ああ…コレ?本当は同じ二年のハズだったんだが、休学しすぎて出席日数が足りなくてさ」

 器用な指先でネクタイを摘まんであっけらかんと言ってのけた彼は、高校に受かったあとだったからと襟元から覗く傷痕を示す。

 それを見てつい傷痕の話を思い出して、涙ぐみそうになったオレの頬に縁サンは唇を寄せると、なななんと!ちゅっと吸い上げたんだ。

「〜っ!?ゆ、な、こ…っ」

 訳(縁サン、なんちゅーコトをするんだっ)

「飯粒がついてたから、取っただけだぜ」

 そう縁サンがウインクするとまたまたクラスに悲鳴が…。

 マジすんません、コノヒトタチが変なんです!決してオレが美人好き…いや美人は大好物ですけど!そんな気があるワケではなく(たぶん…え?)ってですね…。

「とりあえず、まずは友達からということで」

 …は?まずは?友達、から?って、なんでオレじゃなくて千加を見て言うんだ?

 しかもなんか千加の目が座って…るような気が、するような…じゃなくて座ってる!?

 千加、まだゲーセンの件で縁サンを恨んでいるんだろうか。

「上條くん、一年の教室は遠いからもう戻ったほうがいいよ」

 だってほら、表情はやわらかい微笑みを浮かべてるけど、目が笑ってないし。

 どんなに機嫌悪くても、やさしい笑顔が得意の千加らしくない。

「そうですね、鈴木先輩。ああ、でも迷ったら困るから綱紀先輩に案内してもらおうかな」

 …縁サンに先輩言われると嫌味に聞こえるのは、彼のほうがずっと大人びてるのを内心ひがんでいるからですか…。しかもどういうワケか先輩を強調してるし。

 縁サンの言葉に千加がガタンと音を立てて立ち上がる。その音にクラス中の人間がビクッと震えた。

 もうほとんど夏だってのに、教室に絶対零度の冷気が吹いた気が…。現にクラスメイトも凍りついてるし。

「大丈夫、案内なら副会長のおれがするから」

「そうですか?重ね重ねすみません、お世話になります」

 そんな冷気を縁サンは感じてないのか、ふわりと優雅な仕草で千加に頭を下げる。

 そして連れ添って教室を出たと思ったら、縁サンがひょっこり頭を覗かせて言った。

「綱紀先輩、朝迎えにきて?一緒に登校しようぜ」

「あ、え、うん」

 …あ、いかん。頬が熱くなる…。

 大好きな笑顔でおねだりする彼に逆らえるワケがないオレの返事に、『上條くん!』と千加の鋭い声に呼ばれた彼はウインクを投げて行ってしまった。



「おーい、行くぞー!」

 ベランダに向かって叫ぶと、花の水やりに勤しんでいた縁(いまは呼び捨て)が振り向いた。

 その顔にはいまだに見惚れてしまう笑顔。

 美人は三日で飽きるだなんて、誰が言ったんだろうなあ。

 しかし身にまとっているのは、オレが着てるのと同じ学校の制服(しかも男子用)…だ。

 現実ってキビシイ…(遠い目)。

「ああ、いま行く」

 そうして、オレの日課は晴れた日にベランダを見上げることから、そのベランダの君を毎朝迎えに行くことに変わったのだった。

 目下のオレの悩みは親友ふたりの間柄だ。

 …縁と千加…どうにか仲良くならないもんかな…。

 鈍いと言われるオレから見ても、ふたりの間にはブリザードが吹いている気がしてならない。

 なにかあったのかと聞いても、ふたりともにっこり(表面上は)笑って、

「なんでもないよ」

 とハモるし。そういうところはピッタリ合うんだよな。

 一体、なんなんだよあいつら…。

 そんなオレに嵐が訪れるのは、もう少し先の話だ。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

『こんなのBLと言えるかぁああ!(ちゃぶ台返し)』的な感想をお持ちの方、申し訳ございません…。

一応、あとふたりほど主役級のひとがいるので、その視点で『After Days』と称した、番外編を少し書く予定です。引き続きお付き合いいただける方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いします(BL色の度合は変わらないと思いますが…)。

それでは、また。

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