Yesterday Never Come
今ソウジは、どっちにも誠実さを欠いてるんだよ。
蓮に相談してみた総二朗の話。
「想い星 迷い星」の続きです。
「いつまでそうしてるつもりなの」
その言葉を投げかけられた時からすでに、武市総二朗は、相談相手として城田蓮を選んだことを後悔していた。完全に、人選ミスだ。どうせなら、隼にしておけばよかったと思う。後からこの男がうるさかっただろうけど。
「いつまでって……俺は中途半端なこと、したくないんだよ」
食堂の一角。周りの女の子がちらちらと蓮を見ている。この男、実は幼なじみの男と付き合ってますよ、と公表したら、何人が卒倒するだろう。無論、そんなことを口に出す気は毛頭ない。脛に傷持つ者同士、だ。
「じゃあいつまでも、ユッキーのことあのまま放っておく気なんだ?」
「い、いつまでも……って……」
「でも、今ソウジが言ってるのはそういうことだよ」
いちいち図星で参ってしまう。そんなことは解っているのだ。とっくの昔に。
あの夜――総二朗が雪俊の部屋に行った夜から半月。総二朗も雪俊も、何でもない風を装っているのだが、こういうことには人一倍鋭い蓮にはあっという間に感づかれた。しかし、それでも黙っていてくれた彼の思いやりをわざわざ無にしたのは、総二朗自身の責任だ。相談なんか、するんじゃなかった。
「俺は……その……ユキが真剣なの、わかってるから……半端な気持ちじゃ、応えらんねぇと思……」
「わがままだね」
切って捨てられた。ここまではっきり言われてしまっては、もはや返す言葉もない。
「真剣なのが解ってるなら、どうして保留にしようとするの? 相手が本気でぶつかって来てるのに、自分は逃げを打つわけだ、ソウジは」
「に、逃げてなんか……」
どうにか抗弁しようと努力してみるが、そんな小手先のごまかしが、この男に効くはずもない。
「逃げてるだろ。ソウジは結局、怖がるばっかりで、自己中にユッキーから逃げてるだけ。応えられないなら応えられないで、全部言えばいいのに、そうしないのはずるい」
ぼんやりとは、解っていた。これが逃げであること。傷つけることを、そのせいで傷つくことを、怖れた自分の敵前逃亡。
「ソウジさ……解ってるだろ、それぐらいのことは」
蓮の声が急に優しくなって、総二朗は脱力した。涙まで出そうになって、あわてて目をこする。本当に、腹の立つ男だ。簡単に他人を突き放すくせに、こうやって突然、慈しむような目をする。その目をしたまま、蓮は静かに話し始めた。
「トーマが忘れられない気持ちは……わかる。俺たちは多分、これからもずっと……トーマを背負い続けるんだと思う。トーマはそんなこと、望まないだろうけど。その中でもソウジが、一番トーマのこと大事に思ってるのも知ってる。でもねソウジ、今のままじゃ、ユッキーもトーマもかわいそうだよ。今ソウジは、どっちにも誠実さを欠いてるわけだから」
雪俊の気持ちにはまともに応えてやらず、冬馬の存在を言い訳にした。確かに、そうだ。今自分は、二人に対して不誠実をはたらいている。
「どうするかは、結局の所ソウジが決めるしかない訳だけどさ。昨日は二度と来ないし、取り返すこともできない。トーマが帰ってくることはないし、ユッキーの気持ちをなかったことにすることも……ソウジにはできないはずだよ」
俺に言えるのはここまで、と、蓮がそう言って席を立つ。取り残される形になった総二朗はただ、無言で残ったお茶を飲み干した。
もうごまかすことはできない。返らない昨日に決着をつけるため、総二朗は立ち上がった。
さあ、結論はいかに。