表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスゲーム~Under Edition~  作者: 神谷アユム
3/9

優雨(ゆう)

好きなものが、初めて違った。


晴香雲雀兄弟の話。あ、でも晴香×雲雀とかではないです。


 雨だった。冬の雨は陰鬱で冷たく、無情に窓を打つ。高崎晴香(たかさきはるか)はそれを、ぶすっとふくれっ面をしたまま眺めていた。せっかくの休みなのにおもしろくないのは、この雨のせいで練習試合が中止になり、家に閉じこめられる格好になったからだ。

「晴香ぁ、ココア入ったけど、そっち持っていったらいい?」

 双子の弟、雲雀(ひばり)の声に、うんとああの中間のような、おざなりの返事をする。まもなく雲雀が、ココアの入ったカップを二つ持って窓際へとやってきた。

「雨降るとかないよな。マジつまんねー」

「お前、たかが練習試合をそんなに楽しみにしてたわけ?」

「あ、当たり前だろ。紅白戦とか、いっつも相手一緒でおもしろくねーし」

 あわてて答えつつも、晴香は雲雀が、おそらく全て見抜いていることを知っていた。自分たちは生まれたときからずっと一緒で、それ以上に、世界で一番遺伝子配列が似ている人間なのだ。人間というものの根幹がそれなら、雲雀に隠し事などできるはずがない。

「雲雀、お前解ってるだろ」

「もち。そーじ先輩だろ。日曜日まで会えることって滅多にないもんな」

 顔を見合わせ、笑う。それと同時に、晴香は雲雀が同じように、つまらない気持ちでいることを理解した。こいつも多分、少ししょげている。会えるのを楽しみにしている相手はそれぞれに違うけれど。

「今頃何してんのかなぁ、そーじ先輩」

「案外ユキと一緒だったりして。幼なじみだし」

「何それ、妬けるなぁ、ユキのやつ」

 好きなものが初めて、違った。二人は今まで何度か、同じ女の子を好きになってしまい、気まずい思いをしたことがあり、お互い恋愛の話はほとんどしなくなってしまったのだが、今回初めて、全く別の人を好きになったおかげで、また恋愛の話ができるようになった。ただ、今回は二人とも、不毛でどうしようもない恋なのだけれど。

「晴香はさあ、そーじ先輩とどうにかなりたいとか思うわけ? ほら、ちゅーしたいとかさ」

 突然雲雀がそんなことを言い出すので、晴香は口に含んでいたココアを噴いた。雲雀が、何汚いことしてんの、とあきれたように言う。

「急になんだよ!」

「別にいいじゃん暇なんだし。で、どうなの?」

「そ、そりゃ叶うなら……って、じゃあ雲雀はどうなんだよ。好きなんだろ、ユキのこと」

 晴香のことが雲雀に何もかも筒抜けになってしまうのと同じく、雲雀のことだって晴香に筒抜けだ。何もせずに見分けられた瞬間から、雲雀が雪俊を好いていることぐらい、解っている。

「俺はさ……そりゃまあ、ユキが俺といて幸せならそれ以上にいいことなんてないけど……ユキが幸せでいてくれればそれでいいかな」

 そう言って雨だれを見つめる雲雀の横顔は、晴香の知る雲雀よりもずっと――大人だった。

「だからさ、ユキのこと不幸にすんなら、そーじ先輩だろうと誰だろうと、ぶっ飛ばすね。でも、ユキがそれで幸せなら……ユキと誰かが付き合ってても、いい」

 切なさを押さえ込んだような雲雀の表情。こみ上げる悲しさが、共鳴するように流れ込んできて、晴香は雲雀を抱きしめた。

「ちょ、晴香、何してんの。いっくら望みない恋してたって兄と付き合う気はないからね」

「そういうんじゃねーよ馬鹿。ガキん頃とかよくこうして寝てただろ。それと一緒だよ」

 腕の中で雲雀がくすくす笑い、そして腕を回し返してきた。泣きたい気持ちまで、寄り添うように――解り合っていた。

 冬の雨は優しく、そして静かに、窓の外を濡らしていった。

自分の中にしみついた、BLが当たり前の世界になってた記述を一か所直しました。

元のものを知ってる方はうん、忘れてください(

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ