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もし世界に僕らしかいなくなってしまったら貴方はどうしますか?  作者: (HK)i(KM)o(RT)iNer(D)
キセイするニンゲン
9/14

遅れた誰かはもとからイナイ

結論から先に述べさせていただくと、僕はあれから5年たった今でも未だに言葉を発することが出来ないでいる。

単純に僕が発音を忘れているのもあるがそれ以外の要因も・・・おっと。

残念ながら悠長に回想している場合じゃなかったな。


「・・・本当、ムカつくよね。スカした顔して何でもないような格好繕っちゃってさ、本当気に入らないっ!」


目の前には不機嫌そうないじめっ子の・・・名前はなんだったか?

まあ、つまるところ僕はこの状況を打開する言葉を持たないというわけだ。


「ふんっ!まあいいわ…。

そんなことより私が今持ってるコレ、気になる?気になるよね??

何やらアキラ様が『保険室で療養中の生徒のものです。』ってアンタのクラスのクラス委員に渡したみたいだけど、やっぱり病人には気を利かせて『移動教室は身軽にしてあげたほうがいいよねっ!』て私ら話し合ったんだよね。」


ああ、やっぱり面倒なことになったジャマイカ・・・

目の前のにっくきソイツが掲げているのは空っぽになった僕の鞄。


「ほら、アンタよく遅れるからもっと休み時間はゆっくり過ごさせてあげたいじゃん?

ああー!!でもごめ~ん、もしかしたら1階の男子トイレとか2階の男子トイレとか3階の男子トイレとかに間違えて置いてきちゃったかもしれな~いっ!」


―― は?


「だってどっかの誰かさんはちんちくりんの癖して男子にモテモテだからぁ・・・

もしかしたら休み時間は必ずどこかで誰かと合ってると思っちゃったんだもんっ!」


「はいコレ」


目の前に投げ出されたのは空っぽになってしまった僕の鞄。

同時に刻限を告げるチャイムの音。


「ヤッベ~…次美術の時間じゃん!

ほら、急ぐよ真里菜」


「ちょ、待ってよ亜理紗~!」


駆け足で廊下の曲がり角へ消えていく二人。

残された僕。

徐々に静けさを取り戻していく学び舎と穏やかならぬ僕の心。


まったく、シャイセな話だよな、これは。

どうやら僕の本日の休み時間はトイレ廻りらしい。


―― Okay,seriously,WTF!!



なんと言うコトでしょう。

1階の男子トイレより忘れられし世界の記憶、『世界史b』とその他ノートを確認。

あろうことかまたしてもゴミ箱の中に無残にも葬りさられていたのです。

阿呆どもにはローマ帝国の恐ろしさが分からんのです。

彼女らにはヘリオガバルス皇帝の御威光があらんことを。

ばっちい思いをしながらもそれらを回収する。


盛大に遅刻をかましてしまっているが今更なので気にせず教室へ向かう。


保健室があった2階より降り失われしモノたちを回収した後、さらに3階に上げされられ、獲得標高が15mを記録。

そうしてやっとの思いでようやく到着した我がやしろ、1年3組の教室。


その戸口に手を掛け、横に動かす。


ガラッ―


―― 話は聞かせてもらった・・・



















本 日 の 日 替 わ り は 味 噌 煮 定 食 だ な !




ナ、ナンダッテ?!


もちろん愉快な答えが帰ってくるわけはなく、さっきの言葉も返答も唯の妄想だ。

そして思いっきり遅刻しているにもかかわらず、

突然教室に入っても誰も反応してくれないことも既に日常風景だ。

僕も何事も無かったかのように着席する。


何事もなかったかのように一切の私語はなく、恙無く進んでいく授業風景。

今日も変わらない窓の風景。

今日も変わらない人々。


教師の発言

生徒の発表

ささやかな音を発して書き綴られる黒板とまだ白紙の1ページ


ああ・・・ところでお腹が減りました。




あの授業時間の後はお昼休みだったらしく各々が昼食に移る。

ある者は弁当。

またある者は購売。

あるいは学食、もしくは外食、はたまたその場で調理。

・・・本当、自由すぎるぞ、この学校。

そんな訳で待ちに待ったご飯の時間ではあるが、平時なら外で済ませるのだが。

残念なことに望まぬ野暮用をこさえてしまった為、極力避けたい購売部もしくは学食が手っ取り早く済ませられる。

そしてこれだけ自由に食事が取れる環境にあるというのに、なかなかどうして学生の性というものは学内競争に向けられるのか向かう足はどちらも激混みだった。

いいや、もみくちゃにされそうな惣菜競争よりも、並んでしまえば確実に何かは手に入れられる学食のほうがいいか?

とりあえず空腹の腹を満たさぬと本気で後半日は無事終えられそうにないため、散り散りになってしまった我が教科書その他のためにもここで英気を養っておいて回収に向かわねば!


そんな訳で訪れました学食も少し経ってもやや混雑。

どっかのフードコートを髣髴とさせる間取りの仕方と混雑具合をかき分けて人が少なく、かつ手早く出来上がる奴をチョイス。


選ばれたのはうどんでした。

それもキレイサッパリ素うどんでした。


―― ふふふ、ゴチャゴチャしたトッピングなど不要!


僅かにネギが乗っかっただけで正味30秒ぐらいで作られたお値段たったの150円。

早くて安くて消化も早い、そして食べやすい。

恐らくここに暮らす舌の肥えた豚共は未だこの手札を切った試しがないほどの低価格。

一応これでも上流家庭の学徒が集うお金もちのための学校ですから。


お盆に乗っかったサイズ小さめのそいつを持って適当な席に着こうとするも、煩わしき学生の慣わし。

周りを見渡せば群れ、群れ、群れ。


―― まぁ、なんとだらしのない!

十把一絡げの有象無象共は跪いてお詫びなさい


違うッ!



―― あらあら、此方よろしくて?

本日はお日柄もよく・・・


はい、ダメー


いったいどこのトレンディドラマだ、ソイツは?

そもそも僕はそんな社交的な人間どころかコミュニケーション不能。

断じてコミュ障ではない。


ああ、なんだ。

ふと見た先にはテラス席・・・













が見渡せる窓際のカウンター席。


スマホ族、読書族もいるぼっちも安心のテーブルの一角。

カウンター席にありがちなやたらと高い椅子とテーブルに四苦八苦しつつも無事壁際を確保でき一安心。

10何時間ぶりの食事が幕を開ける。


―― いただきま~・・・


「隣、いいかな?」


カチャン、とすぐ隣の席で聞こえるテーブルの侵略者の足音。


―― おいおい、僕のパブリックディスタンスは東京ドームより広いんだ。

マリアナ海溝奥深くまで沈められたくなかったら今すぐ2万マイルは遠ざかりなベイベー。


まったく、この身が言葉に不自由でなければすぐさま拒絶を表明してあげられるというのに・・・


無言は快諾と受け取ったのか気にせず陣取る無礼な男が一体。

なんら場所を変えても良かったが如何せん足がプラプラせざるを得ない無駄なハイトのテーブルと椅子。

おまけにこちとら急いでいるんだ。油をこれ以上売ってる場合ではない。

隣に陣取っているのは置物なのだと思うことにしてうどんを啜り始めて早々。


「ねぇ君、三鉢八生さんだよね?」


―― だったら何だというんだ坊や?


僕が知らない相手に名前を告げられるのは不愉快極まりないが、一応これでも有名財閥の娘と言うコトになっているので知られていてもおかしくない。

というかさっさとうせろ。


「ハイこれ」


すると彼が差し出したのは奴らに奪われた我が『数学I』の教科書とノート類


「なぜか知らないけど2年の男子トイレのゴミ箱に入ってたからさ。

ああ、俺は2年1組の飯田隼人(いいだはやと)。よろしく」


そういって教科書を手渡してくる飯田(メシだ!)もとい飯田(いいだ)とかいう人。

ああ、このときばかりは感謝を口にする言葉が出なくてよかったと心から思うよ、全く。

きっと奴に感謝する日が来るのは、奴がハルマゲドンで地球をカチ割った日なのだろうと思えるぐらいに。


そのままソイツは僕がうどんを啜り終わるまで聞いてもいない身の上話だとか流行のあれこれだとかを

返事もしない相手に向かって楽しげに語ってくる。

しかし決してこいつが親切な人間なのだとかお人よしなのだとか言う素敵な勘違いはしてはならない。

恐らくコイツも『三鉢家』の資産と権威に群がるハイエナの一匹にすぎないのだから。

そのカラクリに気が付きさえすれば下らん道化師の三文芝居。


―― へーそうなんだ、すごいね~。

―― なに?そんな馬鹿な?!

―― ほうほう、それで?

―― あ、うち間に合ってるんで、結構です。


愉快なBGMをバックに、そうこうしているうちにパパッと食べ終わったので椅子から降りる。

・・・椅子から降りる。















じ、地味に高いんですけどっ!









だがしかし一刻も早く失われし我が半身たちを集めようと、あるいはお茶の誘いを始めだした飯田(メシだ!)から離れたかったので、短絡的な行動をもって颯爽と高さ80cmぐらい?から舞い降りる。

というか座面高すぎです、お世話様でした。

そもそも僕ぐらいの低身長が横着しようと馬鹿みたいに高いカウンター席からお盆を両手に降りてしまったのが間違いだった。

おかげ様で見えてはいけないものが見えそうになり、あわてて滑って大惨事!

宙を舞う飲みかけのツユが入ったままの御椀は宙を舞い、風を切り、あろうことか前を歩く群衆に飲まれて・・・


― ビシャア・・・


はしたなくも尻餅をついた状態でお椀が消えた先を見上げると、するとそこにはとんでもない人物が立ち止まっていた!


「ふう・・・危ないじゃないか八生、相手が俺だったから良かったものの。」


トラス学園、現・生徒会長こと兄の『三鉢卓人』が塗れた袖口をハンカチでふき取りながらこちらを見てそう言ってきたのだった。


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