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マコトだったニンゲン

あれは確か、いつものように飯食いながらテレビに映った下らないニュース眺めた後だった。

「明日も大雪が予想されます。」なんてふざけたこと抜かすリポーターにぶつくさぼやきながらも、

それはそれは生真面目な僕はさ、明日の通勤に備えてそいつを馬鹿正直に真に受けちゃってだな、予定を1時間繰り上げて床に伏したんだ。

このまま朝起きて大雪であっても、あるいはそうでなくても「自分は今理不尽に1時間という尊い時間を奪われたのだ」という憤りを感じながらね。

まあそれ自体は今となったらわりとどうでも良い話なんだけどさ。

で暫くして寝苦しさを覚え、ふと目が覚めたんだ。

ここ数ヶ月は全く覚えがなかった暑苦しさに「暖房切り忘れたか?」なんて呑気なことを考えながら額に浮かぶ鬱陶しい汗をぬぐって、いざ上体を起こしたらさ

なんとそれはそれは立派な木々が回りには立ち並んでいて、僕は思わず二度寝しそうになったな。


「朝起きたら森の中でした。」


まあフィクションじゃよくあることなんじゃないの?

少なくとも自分の周りじゃそんな話一つも聞いたことがないけど。

せいぜいアウトドアでキャンプしたときに「テントの中で眠っていたつもりがいつの間にか外に出ていた間抜けがいた。」

なんていう下らない与太話があるくらいだ。

しかしながら僕はテントで眠った覚えなど小学生以来1度もなければ、ましてや仕事ほっぽり出してこんな何処とも分からぬ暑苦しい森でサバイバル生活を開始するほど酔狂でもない。

こういう場合考えられるとしたら未だ夢の中、もしくは大穴でどっかの誰かに拉致られました、とかだろう。

常識的に考えて後者はないよな、お金もなければ恨みを買われたこともなし。

平々凡々な一般人ですもん、僕ちん。

そういうわけで僕はこのとき「なにやらたちが悪い夢を見ているんだな」という程度にしか考えなかったんだ。

だからいざ二度寝を敢行したかったわけだが、いかんせん夢の中だというのに

眩いばかりの太陽が僕を真上から照らしつけて僕を寝かしつけてくれなかったんだな。


「ちぇ、ちぇ、ちぇ、ちぇ、ちぇ、ちぇけろうぇ~い!」


思わず爆発していただきたいという怨嗟をこめておどけてみせても超新星爆発は後云十億年早し。

仕方ないので暫く忌々しい日光から目を背けて横になるも、まぁ寝られるわけはないよな。

仕方無しに未だ眠気が覚めやらぬ体と頭を奮い立たせて再び適当にグルグル周りを見渡すと、するとそこには驚くべき光景が・・・


















や っ ぱ り 唯 の 森 が 広 が っ て い ま し た と さ 。


はい、おしまい。

















え?つまらない??いやいや大事なのはこれからさ。

意地になって木の根元まで這いよって木陰で隠れて3度寝を敢行してみたら、一応は質の悪いレム睡眠でお茶を濁してみるも(なかなかこれでいて強情なところがあるんだよ、僕)

ぜんぜん夢から目は覚めなくてさ、夢の中だというのに忠実に日暮れに向かってゆったりとした軌跡で沈んでいく太陽を見ていると

「あれ、これもしかして夢じゃないんじゃない?」

と今更のようにここが夢じゃないのではという考えに至って、その場から動く出すことを考えたんだ。


それからが大変だった。

全くもっての惰眠で無駄寝だった寝起きに水を一杯飲みたかったというのに、当然のように森の中には蛇口や冷蔵庫は見当たらない。

まぁそこをゴネても孤独に一人森の中。

しゃーないかと歩けど歩けど湧水だとか川だとかオアシス的なスポットすら発見できない。

渇きはどんどん増大していくし、何故か履いていた自分用のスリッパ(冬用のモコモコした暖かい奴ね)では木の根や倒木が横たわった森の中はまともに歩けやしない。

なぜ自分はこんな森の中に居てどの様な理由でこの様な仕打ちを受けなくてはならないのか?

拉致?ドッキリ?怪しい実験?だれが?何のために??

お天道様はだいぶ傾いていて辺りはすでに暗くなり始めており、なじみのないハイキングで体は満身創痍。

足は痛い、木の枝でところどころ引っ掛けて痛い、喉が渇いた、疲れた、早くおうち帰りたい…

脱水症状になったのかだんだんと視界にチカチカしたものが映りこみ、自分は終ぞここで死ぬんじゃないのかと考え始めたとき


「・・・ぉ、ぉぁ」


うめき声がもれていた。

だってそうだろう?

ありがたいことに未だうっすらと僕が向かう先を照らし出していたお天道様が映し出したのは、思いがけずも出会っちまった森の愉快な仲間たち。

ハチの巣突いてご機嫌は上々な熊さんと、なにやら巨大なハチたちがブンシャカ飛び交う刺激的な現場に遭遇した僕。

ハチミツ滴るサラダボール片手にこちらを一瞥したクマさんの傍らでは一家揃ってお食事中のご様子で、

そのとき僕は自分が呼ばれていない同窓会にたまたま鉢合わせた瞬間ぐらいおさまりが悪い気分になった。


―落ち着け、まだあわてるような時間じゃない。

そう言って心を落ち着かせようにも、頭の中で握り締めた僕の切り札は「すぐさま逃走」の一択

とはいえ、こちらはもはや満身創痍。

だからうまい具合に力が抜けたのだろう。

ある程度距離が取れた後、昔誰かから教わった

「熊から逃げるときは視線をそらさず、しかし決して背中は向けずにゆっくり後退」

などという割と実践する機会は無さそうな無駄知恵を自然に実践できていることを察し

思わず自分をほめてやりたくなった。


―プスリ

そう、あと少しだった。あと少しで熊を視認出来る範囲から遠ざかることが出来たはずなのに。

耳元でやかましい羽音が響く。

途端に体から力が抜け、首筋から全身にかけて鋭い痛みと痺れが襲いそこから暫くの間の記憶はない。



恐らく過去最悪の目覚めだったのではなかろうか?

なにをどう寝違えたのか、足、腰、肩、首筋、エトセトラ。

まあとにかく体の節々の至るところが鈍痛と倦怠感を発して、やたらと熱っぽさに浮かされていた僕の頭にそれらを出力する。

だるい、めんどい、しんどい、おうち帰りたい。

そう、未だぼやけてはいるが僕の目に映るものは未だ薄暗さを残した森の中だった。


そのまま倦怠感と熱で定まらない思考の中「天気予報ってやっぱり当たらないよな、だって空にはこんなに星が輝いているんだもの。」だとか

「これってやっぱり無断欠勤になるのかな?」だとか考えること延々。

いい加減現実逃避をやめないと、マジでこのままくたばる3日前だとか考えはじめたら途端に力が沸いてくるというものだ。

現金なことに僕という奴は自分に面倒が被る場合及び自分が多分に利を得るときだけ本気で取り組むという汚い習性がある。

この瞬間でも境遇を共にする人間がいれば頼れる奴は全力でしがみつく、頼り無い奴は振り払っていたことだろう。

カルネアデスの板があれば自分だけで縋り付く、そういう卑怯な奴なんだな僕は。

しかしながら残念なことにこの場は一人。

おんぶに抱っこで脛の肉まで噛り付けそうな頼れるリーダー的人間はいない。

そろそろ本気出すかなどと軽口でも叩いて立ち上がろうと地面に手をつこうとした。

そう、手をつこうとした。

―― ?


腕 に 力 が 入 ら な い


―― ?、??


いつの間にか明らんできた空

一つだけぽっかり浮かんだ雲に手をかざす。

変わらず雲は浮かんでいる、浮かんでいる。



―― ?、!?


首を右に捻り頭を転ばすと、僕の視界にはパジャマにしていた灰色のスウェットが袖の二の腕の辺りから朱色に代わっていて

ちょうどその辺りでもう一つ関節があるかのように、お辞儀をするかのように、袖口にかけて見事に地面を向いていた。

激痛が頭を貫くかのように駆け抜ける。

見れば手のひら大はありそうな大きな蜂が新関節に群がっていて、咄嗟に左手で払う。

そのとき気が付いたのだが左手も指が何本か欠けていた。

ソレを皮切りにしてか、今まで首をもたげていた腕は摘み取るようにして新しい関節からもげた。

半そでになってしまった袖口から先は、あっという間に蜂たちが群がって覆い隠してしまった。

その光景を見て途端に吐き気がして胃の中のものを途端にぶちまけたんだが、それもまた吐き気を催すモノだったんだな、これが。

とっくに空っぽになっていたと思われた胃の中から吐き出されたものは血と何やら蠢く芋虫のようなもので

それらが自分の腹の中に満たされていたらしく、またも空っぽになるまで芋虫を地面にぶちまけるハメになった。

精気を吸い尽くされたかのように吐き出す気力も激痛に身を捩れる気力もなくなった頃、一種の悟りのように死が過ぎった。

腐り落ちていく肉塊に群がる虫達。

事切れる刹那まで魂を禊、その魂を生贄として捧ぐ。

もはや僕は世界への死の提供者に過ぎず、それまでの喜怒哀楽もこれからの艱難辛苦も己が死の供え物にすらならない。

極単純なことだ、今まで消費者だった僕が生産者としてハチたちの命の営みの中に提供されただけに過ぎない。

― 安寧のない人生の先、得られる開放は?

― 今ならまだ間に合う―なんだ?

― 聞くまでもないだろう?―なにが?

― 今のうちに楽になっちまおうぜ?

― さあ早く。


▼▲


それはゴムのような噛み応えだった。

気が付いたら、僕は自分の舌を噛み切って死のうとしていたようだ。

途端に激痛と暖かいものが口内を満たす。

カサカサに乾いてしまった喉の方まで待ちに待った潤いが注ぎ込まれたというのに、

それは今までの人生で噛まされてきたどの様な砂よりも酷く乾いた潤いだった。

これだけ痛いのに、これだけ苦しいのに、まだ足りないというのか。


――――



― 味がしないガムを僕は躍起になって噛み続けた。

それを転がすための舌は何時の間にか噛み千切れてた気がするけどかみ続けることしか考えなかった。

これ以上まだ苦痛が続くなどということには耐えられる気がしなかったからだ。

頭を空っぽにして唯口の中にあるものだけを噛み砕く機械と化して暫く。

何時の間にか何も感じなくなってしまったことに気が付いて暫く。

いい加減顎が疲れてきたことにうんざりし始めて早々。

噛り付いていたものが、何時の間にやら何かとてつもなく巨大なものに変わっていることに気がつく。


体全体が青緑に汚れている、手足がないが確かに人間の形をしていたであろうもの。

いたるところを不思議な縞模様の虫が纏わりついている。

そいつの左の眼に僕は齧りついていたらしい。


―― ??


なんだこれは??

見ればそいつに齧りついていた巨大な虫たちは動きを止め、動きを止めている。


いや…


しかし…


だが…


ありえない!


それこそきっと夢に違いない!!


そうだ、絶対にありえない…


僕が








ハ チ に な る だ な ん て 。

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