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クマのニンゲン

あるところに森のクマさんがおった。

クマさんは食事のため森の中であるものを獲得した。

ブンシャカブンブン、ごきげん斜めなハチさんの巣である。

― ぐへへ、美味そうなハチの子野郎どもだ。思わずゲロっちまいそうだぜ。

そんなすっかり「いつもと変わらぬ日常」へと変わってしまった僕の人生は、ある日突然幕を下ろす。


ところでクマはハチに刺されても平気だという話を聞いたことがあるだろうか?

少なくとも僕はここ最近でそのことを知ったんだな。それも身をもって。

野生生物だけあって皮の厚さも毛深さもヒトとは比べ物にならないくらい分厚く、針がそこまで刺さらない。

ハチは黒色のものを積極的に攻撃するようだが、ハチミツを漁りにくる天敵

すなわち森に住む多くのクマさんが放つ色彩が黒っぽいから奴らは優先的に黒っぽいのを攻撃してくるのだろう。

なんたって近づいただけで刺しに来るからなあいつら。全くもってシャイセなクソ虫だぜ。

刺されたら痛いし、長時間刺され続けると流石に腫れ上がるが基本的にクマである僕の敵ではない。

むしろ今や僕の貴重な栄養源であるため憎しみをこめて積極的に挑む獲物である。

つまり僕は彼らの天敵なのだ。


ではクマの天敵というのはご存知だろうか?

少なくとも僕が人間だった頃そんなことは気にもしたことがなかったし、言われてみてもパッと思い浮かぶほどのものはないよな?

ずばりそのとおりでして、ここいらのクマさん生活で立ち向かってきた野生生物たちには遅れをとった覚えがない。

あえて挙げるなら同じクマさんだが基本的に縄張り争い以外は関与してこない。

たとえ川に魚がいようとも掬い上げ、

そこいらの小動物がたとえ襲い掛かろうとも一吠えすれば立ち去り、

凶悪な毒針をもっているハチ野郎でも僕には勝てない。

この森で常勝無敗の王者になったんだな僕は。


僕はこの森の王者。


食物連鎖の頂点に君臨する支配者。


さて、そんなキングオブキングスから君に一つ、残念なお知らせがある。

悪いがこのお話、最初からクライマックスだ。


「こげなおっきな熊ば、ここいらの森あらしとったかと?」


「んだ。こげぇでっけぇ『害獣』は駆除せななんねぇ」


「やめたげておじいちゃん、クマさんかわいそう・・・」


嗚呼、助けてくれそうなのはお嬢さん、君だけだよ。


あるひ もりのなか クマさんに であった

はなさくもりのみち クマさんにであった


クマさんの いうことにゃ 「おじょうさん おにげなさい」

スタコラサッサッサーのサー スタコラサッサッサーのサー


ところでサッサッサーのサーの最後の「サー」は一体なんなのだろうかねぇ?

サー、イエス、サー?上官殿??

まあいいや


とりあえず、ここまでは良かったんだ。

当然ながらかわゆい孫の悲鳴を聞きつけて駆け寄ってきた保護者のおじいさん。

出くわして早々発砲おかげで絶叫。

野太い野獣の咆哮を聞きつけた猟友会の皆様方に「煮てさ焼いてさ食ったさ」をされるかの瀬戸際。

こいつぁ、やべぇぜ。


あ、突然ですが自分。以前は人間なんていう生物をやらせていただいておりました。

ですので彼らが話している内容はバリバリ分かりますし、何処をどう料理されてしまうのか、僕とっても気になります。


「それはなんべぇ。メスのクマさ子供産んで、てぇーへんなことになるかとよ」


「けんどぉ・・・けんどぉ・・・」


方言で泣いてくれる子供はなんだかとても保護よくそそられるが、元はと言えばお前が騒いだせいでこうなったんだからな?

森の中で赤シャツのクマ五郎よろしくおいしいハチミツ探してたらさ、ばったり小さな子供と出くわしちゃって、

愛らしい笑みを浮かべて此方に近づいてくるものだからさ、つい思わず野生の王様の勇猛な姿を見せ付けたらこれだよ。

というかこんな森のなかに連れてくるのは愚か、目を離すたぁ無用心すぎるぜジジイ。


とかまぁ、言いたいことはあったけどクマの喉から出る声なんて「ガオー」だとか「グォォォ」だとか聞き取れたものではなかろう。

最悪、威嚇をしていると受け取られ、そのまま射殺されてしまうかもしれない。

究極のアメリカンカルチャーがここに顕在。最も性質は魔女狩りのそれだけど。

このまま平伏してしまおうか?良くて見世物パンダ、悪くて介錯されるだけだな。

・・・というか僕、やっぱり雌クマだったのね!


「随分おとなしかクマじゃけんども、しかたなかと」


え?見逃してくれんの??

― ジャッコン

猟銃のコッキング音が聞こえる。

そうか僕、また死んでしまうのか。

短い人生だったな・・・


あ、さっきハチミツの下りで思い出したんだけど実は僕、以前は一瞬だけハチなんて生き物をやらしていただいておりました。

うそ臭いなんて思わないで!生きて帰れたらちゃんと誰かに話すから!!

とはいえ馬鹿正直に打たれるまねなどする筈がないので、さっさとトンズラこいてやるぜベイベー。


猟師の歩調にあわせタイミングを計ること一瞬

後になってさっさと逃げればよかったなどと後悔することになる。


「ッだめぇ!!」


まさしくおじいさんが引き金を引き絞らんと、そして自分が弾道を読み

おっかない一撃をかわさんとする一瞬のうちに彼女が飛び出てきた。

致命的なことに、彼女はあろう事かじじいの銃口の前に立ちふさがった。


―この大馬鹿野郎!

咄嗟にじじいは銃身を持ち上げるが遅い。

地面に伏した僕に向けられた銃口は、あろう事か愛娘の愛らしい相貌を捉える。

その場で動けたのは僕だけだった。

低い重心から繰り出された致命的なタックルで小娘を吹き飛ばさぬように、それはそれは気を使って優しく左手の甲で突き飛ばし銃口に突っ込む。


―ズドン


ああ、僕死ぬのかな?

最後にハニートースト、食べたかったな・・・


しかし僕の体にトンネルを空けんと放たれた弾丸は小さな輝きによって阻止される。

これは・・・一体?


「すまんべぇ、すまんべぇ・・・あんたぁ孫の命の恩人だ!」


「ふぇぇ・・・クマさん、助けてくれてありがとう・・・」


その答えはすぐそばにあった。

彼女の命を救ったのは間違いなく僕だが、僕の命を救ったもの間違いなく彼女だということが。


貝殻の小さなイヤリング


彼女を咄嗟に突き飛ばした際にそれが宙に残り、どういうわけか強烈な銃弾の一撃を防いで僕の身を守ったのだった。

辺りは感動のヴェールに包まれ、僕は彼らの村で手厚いもてなしを受ける。


やがて彼女・・・いや、今は僕の妻か。

あのときの小さな女の子と叶わぬ恋を結び、しかし苦難を乗り越えた1人と1匹の夫婦の愛は種族を、性別を越えて、世界に新たな命が芽吹く!


そんな1匹のクマと人間の少女の愛と情熱のお話をしよう・・・






























いやぁ、すまない。


唯 の 嘘 さ













とはいえ僕がクマだったことは本当だし猟師に撃たれたことも本当のことだ。

話を戻そうか。

銃弾を避けようなんて超人、もとい超クマじみた真似をしようとしたが、しかし現実的にそう上手くいくはずがない。

ただ打たれる前に先手を打とうと目線を読んで避けようとした訳だが、それすら叶わず自分の予想のはるか早いタイミングで撃鉄は落とされた。

何口径あるかは定かではないてつはうから放たれた鉛だまは僕に突き刺さり、今はクマとなった僕の体に激痛がはしる。

何処を撃たれたのかは定かではないが、一つ言えることは鉄砲で撃たれるのは滅茶苦茶痛いということだけだ。

おじいさんの驚愕の顔が目に映る。


「こいつあたまげた。銃さ暴発したと?!あぶねぇべな!」


おいテメェ、聞き捨てならねぇ。

整備不良とはなんと危機意識の足らぬことか、この恥知らずめ!


小娘っ子も「ふぇぇ、こわかったよぉ・・・」などとほざきやがる。シャイセな気分だぜ、全く。

口から血の味がしてきた。

傷口から出血も止まらない、どうやら心臓をブチ抜かれたらしい。

おかげ様でだんだんと視界が暗く、意識が遠くなっていく。

なんだ、やっぱり死ぬのか俺。

またか・・・僕はまた殺されてしまうのか・・・

なぜ僕たちは―


・・・なあ、お前ら。

俺も・・お前らと同じ・・人間だったときがあったんだぜ・・・


そこから先は暗闇に包まれていて思い出すことが出来ない。




あるところに突然降りかかった不幸で死んでしまわれた、かわいそうなクマさんがおった。

なんのドラマチックな展開もなくクマの命は途絶えてしまったとさ。

おわり。

ただのイレギュラーも生じえず彼ら人類は通説的に判断して事に当たる。

生物の命すらね。

あんな不幸を繰り返さないためにも不要な殺生は避けるべきだと僕は世界に提言するね。

とはいえ残念なことに唯のクマに人間らしさを望むなら

このエピソードしか人並みの関わりあいというのは期待できなかったな、そういえば。

所詮はプリミティブな衝動に準じて生きていくことですら精一杯な世界だったのさ。

そう言う意味では殺しあって(少なくとも僕は逃げる気だったが)死んだのだからある意味野生的?

つまり分かりやすく言えば僕が撃たれるまでにクマのときにやってたことは


餌を狩る

食べる

寝る

餌を狩る

食べる

寝る

冬が来る

食っちゃ寝して太っている。

春まで眠る

春が来る

腹が減っているので餌を狩る

食べ

やっぱり寝


どうだろうか?

クマさんの涙あり感動ありのドキュメンタリーは半分以上がクソして寝てるんだぜベイベー。


ぶっちゃければ面白くもなんともない話でしたごめんくさい。

なんなら熊たちの野生的なリビドーを語ろうか?









あるところに巨大なオスグマがおりましたが、僕はメスだったのでチョメチョメはしたくない。


おどり。














・・・さあ、次の話に移ろうか!

ああ、帰りたい?まあ帰るのは自由だが実はこの話を聞いた人間は・・・




















これ以上言うのはやめときましょうか、君がどうなったところで僕には・・・

え?なに??これ以上聞きたいならこの後の話も聞いたほうが良いかも知れないこともないかもしれないぞ?

まあいいや、そこは君の自由だからね。強制はしないよ。

ところで君は空を飛んでみたいと思ったことはあるかね?

僕はあるとも。

しかし実際に叶ってしまうと案外あっけないものだということを僕は知ってしまったよ。

悲しいものだね。

じゃあ、ずばり僕は如何様にして空を飛んだのか?


軽そうな兄弟に頼んで飛行機を作ってもらって飛んだなどとは言わんよ。


風が強い日に傘で飛ぶなども痛快だがちゃんと羽で宙を舞ったよ。


既に察しているかも知れないが、どういうわけか僕は動物になって空を飛んだよ。

ではそれは一体なんだったのか?




















ハ チ だ !

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