キミの手
「真中くん、ちょっといいかな?」
私のありったけの勇気、真中はあまり寝てないのか少しだけ目が虚ろだ。
「なに?なんか用?」
心なしか前より冷たい声。
「梓が、話ししたいって。湯川くんも心配してる。」
「なんで、それを速水さんが言うわけ?ていうかこんな状態にしたのは速水さんでしょ?」
ごもっともだ。返す言葉もない。でも、こんなの良くない。もしかしたら真中の運命の人は梓かもしれないんだから。梓は、見た目も性格も可愛くて私なんかよりもはるかにいい子なんだから、私がいうのも変だけど、真中には幸せになってほしい。チャンスを逃してほしくない。ズキッ、まただ。またこの痛み。幸せを願うのにこんなに苦しい。
「わかってる。だから、私が居なくなるから。真中くんはあの二人と一緒にいて。」
これが、私の考えた最善の策。
「じゃっ。」
「ちょっ、速水さん!待って!」
私を呼ぶ声が聞こえた。だけど私は振り返らず走った。どこか、遠くへ。どこでもいいから遠くにとにかく走った。
走ったはいいが、真中は追いかけては来て居なかった。薄情な奴め!と思う反面、少し安心していた。多分追いかけて来ていたらすぐ、捕まっていたと思う。
「……あれ?」
夢中で走って来たからか、全く知らない場所に来ていた。入学してそんなに経っていないから、少し奥に来ると全くわからなくなるのだ。ドンッと全身に衝撃が走り、私はそのまま尻餅をついた。キョロキョロしながら出口を探していたから前が見えていなかった。
「あーごめんっ。大丈夫?……あ。」
前言撤回。声を聞いた瞬間身体が強張って頭を上げられなくなる。
「見つけた。速水さん。」
真中悠陽だ。
「ちょっと話ししよう。」
手を差し出される。でも、私はその手を掴まずに自力で立ち上がる。
「……私は、話すことないから。」
また走りだそうとしたが、手を掴まれる。
「行こう。」
真中はグイグイ私の手を引いて歩き出す。
「ちょっ…ちょっと待って!」
真中は反応しない。ただ無言で、私の手を引いて歩いていく。ダメだってわかってるのに、だって真中と手を繋ぐなんて、梓にも城田くんに対しても裏切りだ。でも、真中の手は私より大きくて、暖かくて、心臓がドキドキして顔が熱くなった。わかってる。わかってるけど、もう少しだけ、このままで。