カレと、
あれからもう、一ヶ月が経とうとしていた。学校にも少しづつ慣れて来て、友達もできた。でも私は毎朝、重たい足を必死に動かしながら大学へ向かっていた。こんなに憂鬱な理由は一つしかない。真中悠陽だ。彼が居たことに憂鬱なのもあるが、今となってはそんなことはほんの小さな憂鬱でしかない。それよりも私は、彼に対してたくさんの勘違いをしていたらしいことが発覚したことの方がよっぽど憂鬱だった。彼と話していてわかったことといえば、彼が話しやすくてとても気の回る人だということだ。だからこそいままでの見た目だけで良くない噂話を全てほんとのことだと受け取っていた自分に腹がたった。恐らく噂話の大半は嘘なのだろうと今なら自信を持って言える。この坂を登れば大学に着く。最近、ずっとそんなことばかり考えていたから疲れが溜まって日に日に酷い顔になってきているだろう。
タッタッタと走る足音が聞こえる。そんなにもうやばい時間なのだろうか?そう思って時計に目をやったが、急ぐような時間ではない。
「速水さん!」
あーなんだ真中悠陽だ。
「おはようま…な……え?」
挨拶をしようとして目を丸くする。似ているが真中悠陽ではない。
「やっぱり!速水さんだ。俺、高校一緒だったんだけどわかるかな?」
わからないわけがない。
「俺、城田睦月って言うんだ。よろしく。」
嘘、嘘、私のこと覚えててくれたんだ……彼が帰って来てから、私は話しかけたことがなかった。そう、彼が退院してからは。
「う、うん。わかるよ。城田くんもこの大学だったんだ。」
知ってたくせに。
「これからまた、よろしくね。」
遠くで見てるだけだった彼が、こんなに近くに。疲れなんてすぐに飛んで行った。あー神様、私は今、とても幸せです。