犯人
目を覚ますと一面真っ白だった。右足が動かない。全身が痛い。
「ちぃちゃん…おはよう…。」
右側には真中がいた。心配そうにこちらを見ている。
「真中くん、おはよう。」
できる限り明るく言った。心配しないでという意味を込めて。
「ちぃちゃん、痛いところはない?辛くない?」
「大丈夫だよ。右足が動かないのはびっくりしたけどそれ以外は。」
真中が顔をしかめる。
「階段があまり高くなくて本当に良かったよ。ちぃちゃんをこんなにしたやつが許せないんだ。ちぃちゃんは落ちる時に何か呟いてたよね?なんて言ってたか覚えてる?」
私の呟いてたこと、忘れるわけなんてない。城田くん…彼が真中を突き飛ばした。
「ごめんね、覚えてないや。」
「そっか…。俺はあの時、確かに誰かに突き飛ばされたんだ。ぶつかったとかそんなんじゃなかった。強い力で押されたんだ。顔とか見えてないの?」
「………真中くん、もう、この話はやめよう。」
「なんで?俺は、許せないんだ。俺が怪我をするならまだしも怪我をしたのはちぃちゃんなんだよ?俺は…」
「犯人を突き止めてどうするの?辛いからその瞬間のことは思い出したくないの…。」
真中はハッとする。そして小さくゴメンと呟いた。
犯人が誰だか知っている。だけど言う気なんてなかった。
「…なんだかこの状況、あの頃に戻ったみたいだね。」
真中は下げていた顔を上げて少しだけ笑う。
「本当だね。懐かしいな…。あの時のちぃちゃんはプリンばっかり買ってきて、真聖くんがボヤいてたなぁ。」
「だって真聖はプリン、すごい好きだから。」
「はは、そうだね。」
他愛の無い話に切り替わって少しずつ真中に表情が戻ってきた。
今はこれでいい。これが幸せ。




