キミと、
春、新しい生活の始まりだった。私は家を出て1人暮らしを始めた。晴れて、花の女子大生だ。夢のキャンパスライフを送るための第一歩、これから入学式が始まろうかとしていたそのときだ。
「隣、いいですか?」
上から声が降ってきた。私は愛想を振りまきながらいいですよと言った。席は自由席だが、学部ごとに場所が決められているので多分同じ学部の学生だ。仲良くしておいて損はない。
私がこの大学を選んだ理由は二つある。一つは私の想い人、城田睦月君がここを志望していたからだ。二つ目はあの時私に告白をしてきた真中悠陽が受けられるレベルでは無いからだ。できるならもう二度と会いたく無いとも思っている。一つ汚点があったとすれば、城田くんが志望していた学部をギリギリで変更したことだ。この大学の学部の中で一番難しい法学部を志望していたから私も受けたというのにこれでは受け損だ。でもまあこの大学にいるのは確かだからいつか会えるとそれだけを糧に生活しようと思っている。
「あの、法学部の方ですか?」
隣に座った青年が分かりきった質問を投げかけてくる。
「はい……あなたもでしょ?」
「あ…はい。まあ…。」
なんとも歯切れの悪い返事。私はここでようやく隣の青年を見た。綺麗な黒髪、入学式のため新しく買ったであろう新品のスーツもパリッと着こなしているし、顔もなかなかイケメンだ。うん。申し分などない。彼はきっととてつもなくモテるだろう。私にもし好きな人が居なかったら好きになっていたかもしれない。彼は先程自分がした質問が少し恥ずかしかったのか、掛けている黒縁の眼鏡をくいっとあげながらこちらに照れくさそうにはにかんでいる。彼がもう一度言葉を発しようと口を少し動かしたとき、丁度入学式の司会者が出てきたので私は前を見やった。彼も結局私に話しかけることなく前を向いたようだった。