真実
真中はしばらく何から話すか考えていた。その証拠にブツブツの何かを呟いていた。そして頭の中でそれがまとまったのか、私に向き直る。
「まず、大前提として、俺と睦月は兄弟だ。ちゃんと血の繋がった。そしてあの時、病室に居たのは俺、城田悠陽だ。」
「へ?」
そこで私の頭はフリーズする。城田くんと真中は兄弟で、真中は城田悠陽で。意味がわからなくて混乱した。
「ちぃちゃん、ついてこれてるかな?」
でも、この呼び方は唯一あの時いた彼がよんでくれた呼び方で……ああそうか。とここでいままでの全てが繋がり出す。私をちぃちゃんと呼ぶのも、笑顔が城田くんに似ているのも、あの時かけてくれた言葉も、全部、全部繋がった。
「うん。そっか。そうなんだ。」
でもなんで、あの時確かに病室の名前は城田睦月だった。
「じゃあ、次。俺があの時、城田睦月だった理由について。」
淡々と真中は話す。
「俺には幼馴染みがいたんだ。優香っていう名前なんだけど、そいつのことを睦月が好きで、優香も睦月のことが好きだったんだ。お互い、気持ちは伝えてなかったけどね。睦月の誕生日が近づいて、優香が誕生日プレゼントを買いたいと言い出した。それで、休日に待ち合わせしてたんだけど、電車が遅れて遅刻したんだ。待ち合わせ場所に着いたときには優香は喘息の発作が起きていて、すぐに救急車を呼んだよ。」
真中は少し苦しそうに顔をしかめる。
「もう若干手遅れだったみたいで、優香は4日後に死んだよ。」
私は息を飲んだ。何も言わずただ、真中の次の言葉を待った。
「睦月は俺の所為だと責めた。あの時、お前が遅刻なんてしていなければってね。それで口論になって感情の押さえが効かなくなった睦月は俺を突き飛ばしたんだ。車道にね。」全身に衝撃が走った。考えただけでもひどい。辛い。
「あとは、想像通りだよ。事故にあって、意識が朦朧としていた。救急車がきて名前を聞かれて、そのときに混乱していた睦月は自分の名前を言った。そう、それだけのこと。だから俺はあの時、城田睦月だった。」
真中は笑った。苦しそうに、笑った。
「あの時は別にいいと思っていたけど、後から後悔したよ。だってちぃちゃんに出会ったから。そしてちぃちゃんはそのあと、睦月の事を好きになっていたから。」
好きだったのは、城田くんじゃない。あの時、病室にいた城田睦月くんとの思い出だ。でも、そのことを伝えようと思っても上手く口が動かない。
「でも、もう決めたんだ。俺が、ちぃちゃんを幸せにするよ。だから、今度こそ、俺と付き合って下さい。」
真中は笑った。私はこの笑顔があの頃から大好きだった。
真中の笑顔が病室の城田くんと重なって胸が、苦しい。