戸惑い
「睦月、邪魔するなよ。」
「なんで?千尋ちゃんは俺の彼女なんだけど。お前こそ手、出すなよ。」
「俺は手なんかっ…」
真中も城田くんも私の手を掴んだまま言い合いを始める。
「いたーー!!」
後ろから声が聞こえた。梓の声だ。
「悠陽どっかいなくなっちゃったからさー連絡も繋がらないし……え、なにこの状況……。」
梓が顔をしかめる。無理もない。私だってこの状況の理解はできていない。
梓が来たことで二人は黙り込んでしまった。それもまた気まずい。
「そろそろ、いいかな?睦月くん。」
声のした方に振り返ると綺麗な女性が立っていた。少し小柄で、でもスタイルが良くて短髪の似合うサバサバした感じの女性だ。
「麗子さん……空気読んでよ…。」
城田くんは呆れたように言う。私は少なからず動揺した。さっきは人混みで見えなかったが、こんなに綺麗な女性とお祭りに来ていた。しかも、二人で。
「あー?なにこの状況、あれーもしかして、えー?」
彼女も動揺し始めたようだった。そのとき城田くんが私の手を離して麗子さんの方に振り返った。黙っていた真中が私の手を引いて走りだす。
「あっ、おい真中!!!」
城田くんの叫び声が聞こえた。人にぶつかるたびに嫌な顔をされた。
「真中くんっ……どこ…いくの…!!」
聞いても返事は無い。
私たちはただ、走り続けた。
やがて、ひと気のないところに出た。そこでやっと真中の手が離れる。二人とも息が上がっていて上手く話せない。よく、周りを見やるとどうやら神社の祠の前らしい。一番大きくて目立つ祠の前には参拝の人たちで賑わっていたが、ここの祠には人がいなかった。少し、淋しく感じた。真っ暗な空に綺麗な花火が上がっては消え、上がっては消えを繰り返していた。
少しして二人とも落ち着いたところで真中が口を開いた。
「綺麗、だね。」
「そうだね。」
真中は視線を空から離さないまま話す。
「ちぃちゃんが、幸せならそれでいいと思ってた。君が笑っているならそれでいいと。でもね違ったみたいだ。真聖くんといるだけで頭に血が上ってしまうくらいだ。やっぱり、側にいたい。どうやら、睦月はちぃちゃんを幸せに出来ないようだし。」
ここで真中は私を見た。
「これから、全部、話すよ。」
そういって笑った。