気づかい
朝起きてリビングに行くと、珍しく真聖が早起きしていた。
「おっ、姉ちゃんおはよ!」
「おはよう、真聖。」
真聖はニッコリと笑ってこちらを見ていた。なんだかちょっと気まずいくらいだ。
「姉ちゃん、今年は誰も居ないんだろ?」
「なにが?」
「お祭り行く人だよ!」
ああ、なるほどと思った。きっと真聖は一緒にお祭りに行って私に色々と奢らせるつもりなのだろう。それか彼女ができて自慢したいか、そんなところだろう。
「そういう真聖はどうなの?」
少しだけ嫌味を込めて言う。
「いないよ。今年はみんなバイトでさー…だから姉ちゃん、行こう。一緒に。」
どうやら彼女は居ないらしい。そしてふと梓に会ったらどうしようとかそんなことを考えた。ただ、私はあの事故以来、真聖の笑顔に弱い。真聖の期待を裏切りたくない。二度と、後悔したくない。
「いいよ。」
だから、私は、笑顔で返事をした。
いつもよりも相当早く帰ってきたお父さんがどうせなんだからと私と真聖に浴衣と甚平を着せた。私を見て、昔の母さんにそっくりだと優しく笑うお父さんを見て少し切なくなった。この浴衣と甚平は昔、お母さんとお父さんが始めて一緒に夏祭りに行った時来ていたものらしい。
「サイズ、ピッタリで良かったよ。はい、これお小遣いな。」
小さな封筒の中には折りたたまれた1000円札が入っていて思わず真聖と笑った。
「私たちもう、子供じゃないのに。でも、ありがとうお父さん。」
お父さんに見送られながら祭りがやっている神社に向かった。
「良かったよ。」
もう少しで神社につくというところで真聖が言う。
「なにが?」
「最近の姉ちゃんはなんか元気ない感じだったからさ。」
どうやら気を使わせていたらしい。確かに、最近色々なことが起こりすぎて少し元気がなかったかもしれない。
「ありがとう。真聖。」
真聖を見上げると、優しく笑っていた。
「うん。」
もう神社は目前だった。人がたくさんいて、梓に会うことはまずないだろうと思ったら少しだけ身体が軽くなったような気がした。
「姉ちゃん、りんご飴食べよ!!」
楽しそうにはしゃぐ真聖を見て、私も少しワクワクして嫌なこと、心配なこと、何もかも全部忘れられるような気がした。