恋。
「真聖、城田くん、入るね。」
病室のドアを開けて中に入る。真聖は最近、柔らかく笑うようになった。
「いらっしゃい速水さん。」
そして、城田くんはあの時のように柔らかく笑っていた。
「こんにちは城田くん。」
最近は城田くんに会うことも一つの楽しみになっていた。私もきっと、前よりも柔らかく笑っているのだろう。
「あのさー……睦月くん。俺も速水なんだから姉さんのこと速水さんって呼ぶの、やめてくれない?」
真聖の突然の提案に私も、城田くんも目を丸くする。
「いっそ、アダ名とかで呼べば?ほら、そのほうが仲良い感じするし。」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら真聖は言う。完全におもしろがっている。
「こら、真聖……」
「いいね!それ!」
私の声を遮って聞いたことの無い大きな声で城田くんは言った。
「なにがいいかな?」
ワクワク、キラキラとした目で考えている城田くんはまるで子供のようだった。
「やっぱ普通にちぃちゃんとか良いよね。うん。そうしよう。ね、ちぃちゃん。」
少し、ドキドキした。でも、嬉しかった。
「じゃあ睦月くんはむーくんだね。」
クスクスと笑いながら言うと城田くんは少しだけ淋しそうな顔をして、いいね。と小さく、小さく呟いた。
「どうか、した?」
「ううん。なんでもない。」
私はこのとき、気づいてあげられなかった。
その後すぐに、城田くんは姿を消した。ただ、自宅療養に切り替えただけだと聞いていたけど、ほんとに一言もなかった。
だから、新学期になって城田くんの名前を名簿で見つけた時、胸が高鳴った。再会した城田くんは、病室で会っていたときより、元気で、生き生きとしていて、ギラギラしていて……まるで辛かったことを全て忘れたみたいだった。だから、話しかけなかった。いや、話しかけられなかった。
私は、弱い。