閻魔王庁
1年後、死の運命を回避したハクアはアクションスターとして大活躍していた。仕事の依頼が30年先まで埋まっている。殺しで培った技術と経験が生きて迫力満点のアクションシーンに仕上がるのだ。本当によかった。
スクリーンで彼女の活躍を観ながら私は感慨にふける。ふいに体重が消えて体が軽くなった。死神の体に戻った私は閻魔大王様のもとに強制送還されていた。
赤鬼と青鬼によって縄で縛られる。閻魔大王様は厳しい顔で私をにらんでいた。私は全てを把握する。
悪人を殺してその寿命を他人に付け替えるなんて不正行為が許されるわけなかった。さらに運命の日まで何があっても絶対に死なないように運命を固定するなどありえない。そんなことはわかっていた。しかし恋は盲目だ。私はいけないとわかっていながら大きな罪を犯してしまった。
「禁を破ったな。キサマの犯した罪をこと細かく調査する。裁きは7日後である。それまでは牢獄に繋いでおけ」
引っ立てたれた私は牢獄に投げ入れられた。床はでこぼこの岩である。幸せの絶頂から一気に転落した。まさに天国と地獄だ。ハクアが心配しているだろうな。すまない!私は泣きながら額を岩の床にこすりつけた。
7日後、私は縄で体を縛られて閻魔大王様ところに引っ立てられた。背後には金棒を持った赤鬼と青鬼が控えていた。
「きさまのような真面目な人間ほど恋に狂って大きく道を踏み外す。おろかだが、かわいそうでもある」
「面目次第もございません」
「事情を知った死神たちから多くの嘆願書が届いておる。きさまの人柄のおかげじゃろうな。しかし簡単に許すわけにはいかん。キサマには地獄で罰を受けてもらう。どの地獄にするべきか」
閻魔大王様は思案している。なるべく軽い地獄がいいが、自分のしたことを考えると重い地獄になるかもしれない。大叫喚地獄か無間地獄かはたまた大焦熱地獄か。ぶるぶる震えながら判決を待っていると聞き慣れた声が閻魔王庁に響いた。
「閻魔大王様。お待ちになって!」
私の身を守るように1人の少女が歩み出る。それは紛れもなく私のよく知るハクアだった。
「どうしてきみがこんなところに?」
私の質問にハクアは腰をかがめて人差し指を立てた。
「こんなところなんて言いかたはひどいんじゃありませんこと?ここに暮らしている鬼さんたちもいるのですから」
あっけに取られている私に代わって閻魔大王様が問いかける。
「そなたは何者じゃ?ここは神聖なる閻魔王庁である。部外者は立ち入り禁止じゃ」
「部外者ではありません。わたくしはクロウの妻です」
「ほう。妻がおったのか」
「いえまだ結婚は・・・」
「心の妻です!」
「恋人か。そなたはどうやって地獄に来た?」
「母がいっておりました。夢は死後の世界であると。寝ている時は魂が無防備になるから気をつけなさい、と。わたくしは夢を利用して地獄にやって来たのです」
「魂だけ地獄に来たようだな。そなたは妙な力を持っておる」
「クロウが突然消えて嘆いているわたくしのところににほかの死神さんが来て教えてくれたのです。クロウが地獄で裁きにかけられると。人間の貴女には何もできないとおっしゃられましたが、わたくしは地獄に行く方法を思いつきクロウの命を助けたい一心でここまで参った次第でございます」
閻魔大王様はいたく感心する。
「すべては愛の奇跡か。わしゃそういうのに弱いんじゃ。そなたと死神仲間達からの嘆願書に免じてクロウの罰は減刑じゃ」
閻魔大王様はガベルを打ち鳴らす。判決が降る。
「地獄行きはなし。クロウは死神の仕事から解雇する。今日からは地獄の獄卒として働いてもらう」
「ありがとうございます!」
鬼たちが縄を解いてくれる。私はハクアと抱き合って喜んだ。
「ありがとうハクア。きみのおかげだよ!」
「どういたしましてですわ!」
私は感激のあまりハクアにキスをする。
「やれやれ地獄がもっと暑くなるわい」
「おでこういうのだめ」
青鬼は号泣している。ハクアは閻魔大王様に宣言する。
「わたくしも一緒に働きますわ。夢の中だけでも一緒にいたいのです!」
「好きにせえ」
「わたくし現世では天才アクション女優として活躍しておりますの。あと寿命が1000年後であらゆる死を遠ざけます。この特技、地獄で何か活かせませんこと?」
赤鬼が手を挙げた。
「それなら・・・・」




