科学部、最後の春
春の昼下がり。校舎裏の自転車置き場に、4人の科学部員が集まっていた。
「よし、今日のトリビア、いくぞ」
湊斗がスマホを構え、科学部SNSのライブ配信を開始する。
「自転車のチェーンって、実は摩擦じゃなくて“転がり”で動いてるんだ。ローラーが回ってるから、滑ってるわけじゃないんだよ」
湊斗の声が、スマホ越しに広がっていく。
「それ、誰が得すんの?」
陽翔が笑いながらツッコミを入れる。
「でもまあ、科学的には正しい。俺は好きだよ、そういう無駄知識」
「無駄じゃないよ。科学は、日常の中にあるんだから」
大翔が静かに言う。
「はいはい、理屈っぽい男子3人組は今日も元気です」
結菜がカメラに向かって笑顔を見せる。コメント欄が一気に賑わう。
「結菜ちゃんかわいい!」「科学部入りたいけど、もう3年だし…」「陽翔の毒舌、今日もキレてる!」
ライブ配信は、校内でもちょっとした話題になっていた。
科学部のフォロワー数は、ついに生徒会を超えた。
でも——
「新入部員、ゼロなんだよな」
湊斗が、スマホをポケットにしまいながら呟く。
「私たちが引退したら、科学部がなくなっちゃうね」
結菜の声が、春風に溶けていく。
「科学部って、俺ら4人の成長の記録だったのに」
陽翔が、自転車のペダルをゆっくり回す。
「高校3年分の記録、ここで終わるのか」
大翔が、理科室の鍵を見つめながら言った。
「終わらせたくないな」
湊斗が、ぽつりと呟いた。
その言葉が、4人の心に静かに火を灯した。




